閑章 フランとクーネ 09
クーネが倒したラージマウスは、とりあえず収納に仕舞っておく。
「いやー、いい戦いだったニャ! しかも主まで釣れて、最高の成果ニャ!」
「ん」
「オン」
クーネはまだ大喜び中だが、その足元はフラフラだ。アドレナリンが出ているせいで自分でも気づいていないようだが、相当疲れているんだろう。
釣りを長時間頑張ったうえに、その後大技を使ったからな。
『そこの砂浜でちょっと休憩しようぜ。お茶でもどうだ?』
「ん。お茶」
「オンオン!」
フランがお腹をさすりながら目を輝かせ、ウルシが期待に満ちた声を上げる。
君たち、お茶の意味分かってるかね? 食事じゃなくてお茶だぞ?
いや、獣人にとってお茶は食事だったか? 茶請けにステーキを食う種族だもんな。獣人からしてみたら、満腹にならない程度の食事は全てお茶なのかもしれん。
まあ、腹も減ってるみたいだし、昼食も兼ねちゃうか。
『クーネの舌に合いそうなものとなると、何かあったか?』
多分、常人とは舌の感覚が違っているクーネ。というか、ぶっちゃけ馬鹿舌であると思われた。そのクーネが気に入る料理なんて、俺の収納に入っているか?
「カレー!」
『いや、クーネにカレーは早くないか? もう少し香辛料に慣れてからの方がいい気がするんだが』
「カレーは最強。誰でも美味しいって思うはず。人だったら絶対」
いやいや、カレーが人気なのは確かだけど、辛さや香り、見た目のせいで好きじゃないって人はいるから!
地球だって、カレー嫌いな人はいたのだ。しかし、フランのカレーへの信頼は強いようだった。
「だいじょぶ。カレーならいける」
『そ、そうか?』
「ん」
まあ、まだ食べさせたことはないし、一度提供してみるか。
「クーネ、お茶しよう」
「お! いい提案ニャ! お茶請けはニャにカニャ? 魚の丸焼きかニャ?」
「カレー」
「カレー? 聞いたことないニャ」
首を傾げるクーネと共に砂浜へ移動すると、ちょうどいい塩梅の流木に腰かける。そして、フランがカレーを取り出して、クーネに手渡した。
「はい」
「これがカレーニャ? スンスン……。なんかスゲーにおいするニャ!」
「至高の料理」
フランはそれだけ言うと、自分のカレーを食べ出す。ウルシも俺が出してやった大盛りカレーに夢中だ。
「もぐもぐ」
「ガフガフ!」
「食えるのかニャ……?」
クーネは戸惑っているが、フランたちの食べっぷりを見て意を決したらしい。カレーをスプーンですくうと、ゆっくりと口元へと運んだ。
「うー……ニャ!」
スンスンと匂いを嗅いだ後、ハムッと口に含む。
「ウニャ……」
クーネはしばらくモグモグと口を動かしているが……。やっぱり、食べ慣れない料理は駄目か?
「ニャ……」
どうだ? せめて、マズいとは言わないでくれ! フランを宥めるのが大変だから!
「ニャー! ニャんニャこれ! 美味いニャ! よく分らんけどなんか美味いニャ!」
え? マジ?
どうやらクーネはカレーを気に入ってくれたらしい。
「でも辛い! 超辛いニャ! でもなんか止まらんニャ! からーうまーニャ!」
クーネがニャーニャーと騒ぎながら甘口カレーをバクバクと食べ始めた。そこから完食まで、3分もかからなかったんじゃないか?
しかし、これで辛いと感じるのか。そりゃあ香辛料は入っているけど、辛いのが得意ではないフラン用に相当甘く作っているんだぞ?
俺の感覚で言えば、日本のお子様カレーの甘口レベルのハズだ。
それほど、辛い物を食べ慣れてないということなのだろう。あと、意外に甘さ以外の感覚も鋭敏なのかもしれない。
まあ、美味しかったというのも嘘ではないのだろう。口元にカレーを付けたまま、満足げに腹をさすっている。
そんなクーネが、何やら懐をごそごそと漁り始めた。
そして、小さな包み紙を取り出すと、フランに手渡してくれる。中には、小さめの宝石のようなものが入っていた。
「カレーのお礼ニャ」
「これは?」
「ハチミツ飴ニャ! ニャーの大好物その2なのニャ! 美味しかったけどまだ口がヒリヒリしてるから、口直しニゃ」
ハチミツを固めた飴らしい。クーネはそれを口に放り込んで、幸せな顔をしている。
『フランどうだ?』
「あまい。美味しい」
「オン!」
素朴なハチミツの味って感じか?
こっちでは養蜂も盛んだから、普通に売ってるわけだが……。
これは、超甘口のカレーを作れと神様が言っているのか? 混沌の女神様なら普通に言いそうだけど。
『うーん。結局、カレーが正解だったのかねぇ?』
ますますフランのカレー信仰が進んじゃいそうだな……。
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