128 邪神人リンフォード
ゼロスリードに裏切られた様子のリンフォード。これはチャンスだった。焦った様子で唸っているリンフォードを仕留めるべく、三度目の短距離転移カタパルトアタックをしかける。
ギィイイン!
オート障壁に防がれたが、織り込み済みだ。ここからが本番である。
「――バースト・フレイム」
『――バースト・フレイム』
「――アオォン!」
まあ、やることはさっき俺がやってたことと変わらないけど。弱い攻撃を切れ目なく叩き込み続けることで障壁を発動させ続け、動きを止めるとともに魔力を消費させる。いくら何でも魔力が枯渇したら障壁は張れないだろう。
「ぐぬあぁ! またもやふざけた真似を!」
リンフォードの顔にははっきりと焦りの表情が浮かんでいる。このまま押し切れるか?
「ぐぐぐ……! 回廊は不十分じゃが……。仕方あるまい! 邪神様! 我に力を!」
やはりこのまま素直に倒されてはくれないか。リンフォードは怒りに燃えた表情で呪文の詠唱を開始した。神殿の中から湧き出た凄まじい量の邪気がリンフォードに集中していく。
なんだこれは! まるで神殿がリンフォードに力を与えているような……。邪水晶の仕業なのか?
やばい、危機察知がビンビンに反応している。ミドガルズオルムと対峙した時以来の反応じゃないか?
『フラン! ウルシ! 離れろ!』
ウルシは影渡りで、フランと俺は転移で神殿外に退避した。
直後、爆音が轟き、邪悪な魔力が光を伴って迸る。そして、神殿は内側から大爆発を起こして吹き飛んでいた。粉塵と礫が周囲に降り注ぎ、神殿は瓦礫の山と化す。
「ごがああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
夜空をつんざいて響く咆哮。
でか! 瓦礫の中心にいたのは身長15メートルを超える巨人だった。人型と認識できるギリギリまで肥大化した筋肉。漆黒の肌。イビル・ヒューマンの特徴を備えているが、余りに巨大過ぎる。
リンフォードが召喚したのか? そう思ったが、違っていた。
「逃がさんぞ! 小娘どもぉぉぉぉ!」
巨人がビリビリと空気を振るわせて怒鳴り声をあげる。あれがリンフォード本人だったのだ。言われてみると、顔に面影がある――様な気がする。
名称:リンフォード・ローレンシア 年齢:100歳
種族:邪神人
職業:邪術師
状態:邪神化
ステータス レベル:99/99
HP:5620 MP:4458
腕力:2027 体力:1887 敏捷:598
知力:1459 魔力:1987 器用:115
スキル
詠唱短縮:Lv7、鑑定:Lv7、高速再生:Lv9、邪悪感知:Lv9、状態異常耐性:Lv6、扇動:Lv4、調合:Lv6、毒知識:Lv7、魔力操作、魔力極大上昇、腕力極大上昇
固有スキル
邪術:LvMax、邪神術:Lv5、邪神の恩寵、邪神の檻
称号
邪神の力を与えられし者
装備
なし
ヤバイ! 今まで出会った中でもトップクラスの強さだ。以前出会った悪魔さえ超えている。間違いなく脅威度B以上。Aにすら届いているかもしれない。しかもよく分からないスキルも多数所持しているし。あれと俺達だけで戦うなど、自殺行為だ。
『逃げるぞ! ウルシも逃げろ!』
「ん!」
「オン!」
フランとウルシは一目散に駆け出す。その間にも俺は詠唱を続け、50メートル程走ったところで俺は詠唱を完成させた。
『――ショート・ジャンプ!』
俺はフランと一緒にショート・ジャンプを発動する。このまま連続発動で奴から離れる。ウルシも影渡りがあるから何とかなるだろう。
だが――。
『がっ!』
「あうっ!」
「キャイン!」
俺たちは薄い壁のような物に衝突していた。下では影渡りを使っていたはずのウルシも、俺達と同じように壁に衝突して身もだえている。
「新たに授けられし能力、邪神の檻からは何人たりとも逃げられんわ!」
あの新スキルか! まさかそんな能力だったとは! よく見ると半径50メートルほどの半透明のドームが、リンフォードを中心に展開されている。これが邪神の檻なんだろう。
『――インフェルノ・バースト!』
「――ファイヤ・ジャベリン!」
『どりゃあぁぁぁ!』
呪文連発からの念動カタパルト!
『これでもだめなのか!』
ドームは無傷だ。むしろ俺の耐久値が少しへってしまったぞ。その強度は、変身前のリンフォードが使っていたオートバリアよりも上だろう。
『――――ディメンジョン・ジャンプ!』
今度は中距離転移の術だ。100メートル以上の距離を移動できるが制御が難しく、出現地点が大分ずれてしまうことがあるが、ショート・ジャンプよりも強力な術であることに違いはない。これならどうだ!
『ぐえっ!』
「うぐっ!」
だめか! 転移を妨害する効果があるのか?
「――イビル・フレア」
背後で膨れ上がる邪悪な魔力。俺が人間だったら全身に鳥肌が立っていただろう。それほどの危機感。恐怖と言ってもいいかもしれない。俺は詠唱していた術を無意識に発動させた。
『――ショート・ジャンプ!』
直後、それまで俺たちが居た場所に漆黒の火球が着弾し、爆炎をまき散らした。30メートル程離れた場所に転移した俺達にも、黒い炎が襲い掛かってくる。慌てて魔力障壁を張ったが、僅かにダメージを負ってしまった。直撃したら危険だろう。
「よく躱したなぁ! ならば――イビル・ファミリア!」
『なっ!』
「これが躱せるかな?」
奴の術に応えて、周囲に邪気の塊が無数に出現する。50は超えているだろう。バレーボールサイズの邪気の弾丸だ。それがリンフォードの声に合わせて、俺達に殺到した。厄介なことに、それぞれの軌道と速さが全く違っている。直線的に向かってくる弾丸もあれば、円を描くように襲ってくる物もあった。
「くぅ!」
『――ファイヤ・シールド!』
「はっ!」
『ウィンド・ウォール!』
俺たちは、躱し、撃墜し、剣で弾き、シールド系魔術で防ぐ。
幸い1発1発の威力はそこまで強力ではない。だが1回でも喰らってしまえば動きが鈍らされ、殺到する弾丸に蹂躙されてしまうだろう。
どうする? どうにか逃げる方法を考えなくては。障壁を越える方法を考えるか、障壁を正面から破るか。
だが、時空魔術の転移も、闇魔術の影渡りも障壁には防がれてしまった。残ったポイントでさらに成長させるか? だが、それで障壁を越えられる保証はない。
じゃあ、力ずく? 火炎魔術や剣技を成長させる? 別のアプローチとしては浄化魔術を成長させれば邪気を払う様な術を覚える可能性はある。まあ、可能性でしかないが。
いや、破壊力を考えれば、最も威力が出る選択肢はあれだろう。
(師匠、私が潜在能力解放を使う)
『ダメだ!』
そう、潜在能力解放スキル。まだ分からないことは多いが、リッチ戦での破壊力を考えれば、逃げるどころかこいつを倒せる可能性さえあるだろう。
だがフランに使わせるわけにはいかない。絶対にだ。
『その前に1つ試すぞ』
俺はもっとも可能性が高そうな時空魔術のレベルを上げた。自己進化ポイントを6消費して、時空魔術をLvMaxにする。残りは12ポイントだ。
〈時空魔術がLvMaxに達しました。ユニークスキル・次元魔術Lv1がスキルに追加されます〉
ユニークスキル! 次元魔術はLv1で覚えられるのはクロノス・クロックという、クイックとスロウを同時発動する術だった。いまは使えん! それでも、時空魔術で新しい転移術を覚えたぞ!
『――ロング・ジャンプ!』
だが、それでも逃げることは叶わなかった。再び邪神の檻にぶつかり、動きを封じられてしまう。やっぱ飛距離の問題じゃないか!
その間にもあっと言う間に邪気の弾丸に追いつかれ、再び囲まれてしまう。
(やっぱり潜在能力解放)
『だったら俺が使う』
(それはダメ。私が使う)
『いや、俺が使う。あのスキルの代償は大きすぎる。最悪死んじまうかもしれないんだぞ?』
(でも、私が――)
『絶対にダメだ!』
(むう)
そんなやり取りをしている最中だった。
「ぐぅ!」
『フラン!』
邪気の弾丸を躱しきれず、フランが直撃を喰らってしまった。くそっ、一瞬集中が緩んだ! 次々と襲い来る弾丸が、フランに連続でヒットする。まずい! 俺は魔力障壁を展開しつつ、大慌てで短距離転移を行った。
相当なダメージを喰らった上、魔力も大分使ってしまったが、弾丸の檻からは何とか脱出できた。しかし、奴はこれを狙っていたのだ。
「――イビル・フレア」
「うっぁぁぁ!」
連続でのショート・ジャンプが難しいと見抜いたリンフォードは、転移直後を狙い術を放ってきた。凄まじい熱が周囲を包み込む。俺は最大の魔力を障壁に注ぎ込んだ。フランも同時に魔力障壁を展開する。
「くぁぁぁっ!」
『ちくしょぉぉ!』
俺達が全力をかけて張った二重障壁はあっさりと吹き飛ばされ、爆炎が俺たちを包んでいた。20メートル近く吹き飛ばされ、地面に投げ出される。
「ふぉふぉー! ついに捕えたぞ! ブンブン小うるさいハエめ!」
即死は免れた。だが、俺もフランもボロボロだ。特にフランは左腕が炭化し、危険な状態だった。
『フラン!』
「う…………」
かろうじて意識はあるようだ。しかしこのままでは次の攻撃で殺されるだけである。
『これ以上フランを傷つけさせてたまるか!』
俺は回復魔術を詠唱しつつ、ステータスを操作した。
〈詠唱短縮がLvMaxに達しました。ユニークスキル・詠唱破棄がスキルに追加されます〉
詠唱破棄:呪文の詠唱を破棄して、術の名前だけで発動可能。消費魔力が増大する。
良いスキルを手に入れた! 単に詠唱を短くして、魔力の続く限りショート・ジャンプで逃げ続けてやるつもりだったのだが。詠唱破棄と並列思考があれば、ノータイムで転移し続けることも可能なはずだ。説明にある消費魔力増大がどの程度なのか分からないのが不安だが……。やるしかない。
『ショート・ジャンプ!』
『ショート・ジャンプ!』
『ショート・ジャンプッ!』
俺は短距離転移を使い、ひたすらリンフォードの攻撃を避け続けた。フランを守る、その一心で。
「がああぁぁ! 何故だ! 詠唱破棄を持っている可能性は考えていたが、それほどの高難易度の魔術を、何故それほど連発できる! いい加減死ね! 死ねぇ!」
消費は倍くらいだな。だが、これならいける。リンフォードも、俺達が連続で転移し続ける光景を見て苛立っているようだ。追い詰めたはずが急に思わぬ行動を取り始めたので焦っているのだろう。そうだ、もっと焦れ! そうすれば攻撃の精度も落ちるはずだ。
そうやって逃げつづけて、突破口を探すんだ! でも、それでも駄目だったときは――潜在能力解放を使うしかないだろう。
「……師匠……?」
『フラン、奴の弱点を――?』
転移術による決死の回避を初めてからどれだけ時間が経っただろうか。結局奴に決定打を与えられぬまま、こちらだけが消耗していく悪夢のような時間。時おりフランやウルシが攻撃を仕掛けるが、リンフォードの再生力の方が勝っている。
俺も幾度か念動カタパルトを放ったが、あの化け物の前には必殺とはいかなかった。それどころか隙を晒すことになり、手痛い反撃を貰う有様だ。
フランを不安がらせない様に冷静に振る舞ってはいたが、俺の心の中は焦燥で支配されていた。このままでは危ない。魔力の底が見え始め、俺が最後の決断を下そうとした、その時だった。
天は俺たちを見捨てていなかったようだ。いや、神か? ともかく、俺が潜在能力解放を使おうと決心した直後だった。
シャラーン
まるで鈴を鳴らしたような、甲高く澄んだ音が鳴り響き――。周囲を覆っていた邪神の檻がきれいさっぱりと消え去っていた。
「な、なんじゃこれは!」
リンフォードが驚きの声を上げる。やはり奴が自分で解除した訳じゃないようだ。何が起きた?
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない! 追撃が止んだ今がチャンスだ。
『ウルシ、逃げるぞ!』
「クゥン!」
『ディメンジョン・ジャンプ!』
脱出成功である。100メートル程離れた場所に転移した俺は、速攻で建物の影に身を隠す。
『大丈夫か?』
「ん……なんとか」
『そうか。良かった!』
「オン!」
「ウルシも大丈夫?」
「オウン」
何が起きたのかわからないが間一髪助かった。いや、九死に一生を得たと言ってもいいかもしれない。本当助かった……!
「ぬがあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺達が状況が分からずに戸惑っていると、突如リンフォードの悲鳴が響き渡る。そう、悲鳴だ。
『え?』
慌ててリンフォードを見ると――。
『なんだありゃ!』
「剣がいっぱい」
俺の目に飛び込んできたのは、リンフォードの全身を無数の剣が貫いている光景だった。それだけではない。体には蛇のような物が巻付き、動きを封じている。そこに複数の人影が突っ込んだ。
人影の拳で右足がひしゃげ。騎士槍による突進で左足が貫かれる。その他にも宙を飛んでいる者、地上を駆ける者。何人かが手を組んでリンフォードを攻撃しているようだ。
「みんな強い」
『あ、ああ。一体何者だ?』
久しぶりの師匠のステータス掲載です。
前回との違いは、多少魔石値が増えてることと、スキルが増えているくらいですかね?
名称:師匠
装備者:フラン
種族:インテリジェンス・ウェポン
攻撃力:572 保有魔力:3550/3550 耐久値:3350/3350
魔力伝導率・A+
スキル
鑑定:LvMax、鑑定遮断、形態変形、高速自己修復、自己進化〈ランク11・魔石値2977/6600・メモリ・100・ポイント2〉、自己改変〈スキルスペリオル化〉、念動、念動小上昇、念話、攻撃力小上昇、装備者ステータス中上昇、装備者回復小上昇、保有魔力小上昇、メモリ中増加、魔獣知識、スキル共有、魔法使い、天眼、時空魔術:LvMax、封印無効
ユニークスキル
虚言の理:Lv5、次元魔術:Lv1
スペリオルスキル
剣術:SP、スキルテイカー:SP、複数分体創造:SP
Newスキル
時空魔術:LvMax、次元魔術:Lv1
Newメモリスキル
詠唱短縮:LvMax、詠唱破棄、鋭敏嗅覚、甲殻硬化、衝牙術:Lv1、爪闘術:Lv1、衝牙技:Lv1、爪闘技:Lv1、泥中行動:Lv1、突進:Lv1、不退転、雷鳴耐性:Lv1
詠唱短縮:LvMaxは、ほんの僅かに詠唱が必要です。詠唱破棄は、完全に術名のみで発動可能。ただ、詠唱破棄の方が魔力を倍消費します。




