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1296 魔王剣・ディアボロス


 王城跡地に近づく中、チャリオットが再び動き出すのが見えた。いつの間にか召喚していた空飛ぶマジックハンドのようなものを使い、刃尾の拘束から脱出したらしい。


 未だに満身創痍の赤い機体は、異音を立てながらも最も近くにいる邪神の欠片に飛びかかる。


 チャリオットの右手が一瞬で変形し、巨大なガントレットのような姿になった。ローザの持つ、ブラッド・メイデンにそっくりだ。あの宝具の原型なんだろう。


 チャリオットは砲弾のような勢いで邪神の涙腺に肉薄すると、勢いのままにその右手を叩き付けた。


 硬い物と硬い物がぶつかり合う甲高い音が響くが、騎士王は構わず前進する。背中のバーニアが甲高い吸気音を立て、チャリオットの巨体を加速させた。


 邪神の涙腺を引きずりながらも、200メートルほど進んだだろうか。その巨体によって大地が削られ、長い溝が刻まれている。


 遂にチャリオットの前進が止まった。だが、涙腺は止まらない。そのままの勢いでぶっ飛んでいく。


 涙腺の体には、魔力を噴き出すガントレットがめり込んだままだった。魔力放出により、ロケットのように突き進んでいるのだ。


 そして、さらに100メートルほど先で赤いガントレットが大爆発を起こす。爆煙が晴れた時、体の3割ほどを削られた状態の邪神の涙腺の姿があった。


 しかも、再生が始まらない。ブラッド・メイデンの赤い霧が内部に入り込んで、傷の再生を阻害しているようだった。


 驚く俺の前で、北征騎士団が後を追っていく。どうやら涙腺を戦場から遠ざけ、北征騎士団に抑えを任せるつもりであるようだ。少しでも敵を分断しようということなんだろう。


 騎士たちが、邪神の涙腺に攻撃を加えていく。確かに破邪の力だが、嫌がらせ以上のダメージは与えられていないように見えた。やはり、神剣に劣る宝具由来の武具では、決定打には――。


 俺がそう思った直後、邪神の涙腺が何かに殴られたかのように横に倒れていた。いや、実際に拳で殴打され、バランスを崩したのだ。


 人の身で、邪神の欠片を殴り飛ばす。その尋常ならざる一撃を放ったのは、小柄な老人だった。だが、その存在感は神剣並かもしれない。


「デミトリス!」

『ああ!』


 それは世界最強の一角、ランクS冒険者のデミトリスだった。


 レイドス王国に入ってからもその足取りが杳として知れなかったが、北征公のもとに身を寄せていたらしい。しかも、現れたのはデミトリスだけではなかった。


 超高速で空を飛び回り、邪神の涙腺を切り裂いた者がいたのだ。カマキリ男、ナイトハルトだった。


 邪神の涙腺の表面を僅かに斬っただけだが、ダメージを与えられることがそもそも凄まじいのだ。


「ふはははははは! 邪神の欠片が相手とはなぁぁぁ! 殴りがいがありそうな相手じゃて!」

「折角助け出した仲間たちのためにも、この国をこれ以上荒らされてはたまらないのですよ! 次は本気でいきます! デミトリス殿に教えてもらった、龍気の初披露ですよ!」


 大きなダメージを追った邪神の涙腺VS北征騎士団とデミトリス、ナイトハルト。もしかして、本当に互角以上に戦えるんじゃないか?


 仲間を援護するために戦場へと走り出したフランたちだったが、再び警戒するように足を止めた。凄まじく禍々しい神気が、上空に渦巻いていたのだ。


 そこには、1人の男性が浮かんでいた。30歳前後だろうか?


 その姿は、異様の一言だ。


 上半身は、普通である。金色の金属鎧を着こんだ、精悍な金髪男性だ。しかし、その下半身を何と言ったらいいか……。大きく丸く膨らんでいる? いや、球体のような魔道具と融合している?


 鳩尾あたりから下が、直径2メートルほどの黒い球体状の何かになっているのだ。フリ〇ザ様的に、球体のような乗り物に乗っているわけではない。


 球体と男性は明らかに融合し、上半身と下半身を繋ぐように太い血管のようなものが幾つも走っている。地面に降りる際の補助具なのか、球体の横や下には金属のフレームがいくつか取り付けられていた。


 シルエット的には、巨大なスポーツ用車椅子の座席部分にバランスボールを嵌めた感じだろうか。そこから人の上半身が生えている。


 しかも、邪神の欠片にも通ずるような、凶悪さも兼ね備えていた。フィリアースの神剣使いか? だが、味方と言い切れないほどの不吉さがあるのだ。


 見極めるように神気の渦を見つめるフランたちだったが、高速で近づいてくる気配があった。一瞬警戒するが、フランはすぐに力を抜く。


 接近してくるのは、見たことのある悪魔たちだったのだ。猛毒を操る悪魔ロノウェに、半人半竜の悪魔ブネである。その腕には、少女と少年が抱きかかえられていた。


「フランさん!」

「フラン!」

「サティア! フルト!」


 クランゼル王国にいるはずのサティアに、最後に見た時は死にかけていたフルトだ。


 ロノウェの腕から飛び降りたサティアとフランは自然と抱きしめ合う。


「どうしているの?」

「クランゼル王国に許可を貰ったのです。それと、あれは、兄上――我が国の神剣です。恐れる必要はありません」

「あれが、ディアボロス?」

「そうです。私たちの兄ルシフと、神剣ディアボロスの融合した姿です」


 思っていたのとは全く違うな。そもそも、武器や道具ですらなく、使用者と融合しているとは。


「悪魔を生み出す人造の子宮。それがディアボロスの正体。故に、既に子宮を持つ女性では扱うことができません」


 なんと、今のルシフは開放前の状態で、普段から神剣継承者はあの姿で過ごす必要があるらしい。そりゃあ、人前に出てこないよな。


 サティアが説明してくれている間にも、ルシフの放つ神気はより高まっていく。見守っていると、朗々とした声が響き渡った。


「聖女を喰らいし悪魔の王よ! 約定と贄を以て、愚かで強欲なる我らにその力を貸し与えたまえ! 神剣開放! 出でよ! 地獄の王アスモデウス!」

「!」

『うわぁ……』


 今でも異様な姿なのに、その光景はさらに異様であった。ルシフの腹部に当たる球体が倍ほどに急激に膨れ上がる。しかも、それでは終わらない。


 金属製に見えた球体だったが、ボコボコと泡立つように肥大化していく様子はまるで生物であるかのようにも見えた。


「うがああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ルシフの咆哮は、紛れもなく悲鳴であろう。激痛などという言葉では語れないほどの苦しみが、彼を襲っているらしい。


 元々2メートルほどのサイズだった球体が、ルシフの絶叫に呼応するように巨大化していき、最後には10メートルを超えていた。


 伸びたゴム風船のように、球体の中が薄く透けて見える。そこには胎児のように手足を折り曲げた、人型のナニかがいた。


 いや、人造の子宮というのであれば、あれは本当に悪魔の胎児? それがドンドンと成長し、あっという間に大人のようなバランスへと育つのが分かった。


 数十秒後。鳩尾から臍を通る様に真っ直ぐ線が入ったかと思うと、そこから左右に球体が裂ける。


 流れ出るのは液体ではなく、膨大な魔力。顕現せしは、巨大な悪魔であった。


 性別はよく分からない。いや、性別を示すものが何も見えなかった。無性ってやつか?


 ただ、その黒い滑らかな肌をした肉体は非常に均整がとれており、まるでデッサン用の石膏像が動き出したかのようだ。


 髪は赤みがかった長い銀髪で、目は真紅。頭頂部の左右から、天に向かってやや湾曲した細長い角が伸びている。


「久方ぶりの現世であるな」


 そう呟く声は非常に美しく、かつ色気のある声であった。


 悪魔であるのに、全てが美しい。戦場にありながら、思わず見とれてしまいかねない蠱惑的な魅力を備えていた。


「はぁはぁ……アスモデウスよ。人々と協力して、邪神の欠片だけを、倒せ!」

「よい命令の仕方だ。承った、契約者よ」


 息も絶え絶えのルシフを皮肉気に見やると、楽しげに笑うアスモデウス。その所作には気品が感じられた。


「ふむ。神剣が2振りか……。ならば、1体受け持てばよいな」


 アスモデウスは自身に襲い掛かってきた邪神の刃尾を両腕で受け止めると、そのまま上昇した。


 翼などはないが、その飛行速度は凄まじい。僅かな時間で雲の下まで到達すると、そのまま大地に向かって刃尾を投げ落とす。


 王城跡地から西。1キロ以上離れた場所に刃尾が叩きつけられ、大きな土煙が上がった。倒せてはいないだろうが、戦場から引き離せたことは大きい。


「残り2体は、貴様らがどうにかせよ」


 アスモデウスの言葉は、カレードとマレフィセントに向けられたものだろう。


 アスモデウスが背を向け、刃尾に向かって飛んでいく。悪魔たちの大半も、それを追って飛び去って行った。彼らにとっては、アスモデウスとその契約者だけが大事なんだろう。


「私たちも、いきます」

「兄上が消耗しきっている今、指揮を執らねばならないからな」

「気を付けて」

「そちらこそ」

「ん」


 サティアたちと手を振り合うフランの横では、アマンダがある存在と会話をしている。


 精霊のレーンだ。会話の途中で、ベリオス軍のいる方角から飛んできたのだ。彼女が何かを取り出して、アマンダに手渡す。


「これは……?」

「フランからの贈り物よ。天龍髭の精霊鞭。ウィーナの力も籠ってるわ」

「えーっと?」


 アマンダは、ウィーナレーンがウィーナとレーンに分かれたことは知らないからな。確か、ウィーナレーンをあまり好いていないという話だったが、そっくりな精霊が現れて困惑しているらしい。


 だが、すぐに鞭を手に取ると、その感触を確かめている。そして、驚きの顔になった。


「こんな凄い鞭、初めてだわ。フランちゃんが作ってくれたの?」

「私は、天龍の素材をウィーナに頼んでただけ」

「まあ、作る物は分かってたし。こちらで作らせてもらったわ」


 なんと、ウィーナが伝を使って最高の武器に仕上げてくれたそうだ。


「……よく分からないけど、フランちゃんからのプレゼントなら喜んで使うわ!」


 レーンのことは、とりあえず置いておくことにしたらしい。


「あはははは! 魔力の通りが素晴らしいわね! これなら、新しい称号の全力でも耐えられるわ!」

「私たちも魔術で援護する。気を付けて」

「ん。レーン、ありがと」


 さあ、次は俺たちが戦う番だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ずっと思ってたことですが…… 神剣使いでSランク←分かる 特殊な種族でSランク←分かる 特殊な血筋でSランク←分かる デミトリス←神剣も無い普通の人間(?)の癖にSランクなの、世界のバグかな…
[良い点] こんなところで、それが出てくるとはぁ〜?! アマンダ様の強化が凄まじいね!!
[気になる点] >さあ、次は俺たちが戦う番だ。  仲間を守りきった代わりに2人とも無視できないぐらい消耗したかと思っていたけど、回復を待たずに最前線へ飛び込むのか。  援軍と神剣が到着し、邪神の欠片…
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