1292 チャリオットvs邪神の欠片
黒い邪気の柱の側では、赤い機械の巨人と、ワームのような姿の邪神の欠片が向かい合っていた。
オオオォォオォオン!
チャリオットの甲高い駆動音と、邪神の欠片の放つ咆哮が重なり、大気が咆える。そして、両者が激突した。
高速で突っ込んだチャリオットの拳が、邪神の欠片の胴体を打つ。凄まじい衝撃音が響き渡り、魔力が舞い散る。
今の一撃に込められた魔力だけでも、上位魔術級の威力があっただろう。それでも、邪神の欠片に目立ったダメージはない。
それどころか、動きを阻害された様子もなく、チャリオットに対して間髪容れずに反撃を行ったのだ。
その長い全身をしならせ、反動でチャリオットに叩き付けたのである。
たった一撃で、残っていた王城が半壊するほどの威力があった。
しかし、チャリオットは回避している。巨大な金属の塊が驚くほど素早く動き回り、激しい攻撃を躱していた。
高速なのにあり得ない角度で曲がるその軌道は、やはり風魔術などで制御されているんだろう。
だが、同時にばら撒かれた散弾のような邪気の礫が、チャリオットに襲い掛かっている。さすがに、空間を埋め尽くすような散弾は回避もできないのだ。
ただ、チャリオットには全く効いていない。チャリオットの纏う神気の鎧が、全て相殺してしまったのである。
次はチャリオットの番だ。前方に突き出された両掌が赤く輝き、大きな魔法陣がチャリオットの眼前に展開される。
神気を放つその魔法陣から、無数の何かが飛び出してくるのが見えた。金属でできた、三角フラスコのような物体だ。決して漏斗ではない。
細い口の部分は銃口のように見える。浮遊しながら、魔力放出を利用して動くことも可能であるようだ。
30近い金属フラスコは、宙を飛び回る雀蜂のように高速で動き出す。赤い光を棚引かせながら乱舞するその姿は、美しくさえ感じた。
だが、その能力は非常に強力だった。
フラスコたちは不規則に動き回りながら、銃口から赤い閃光を放ったのだ。一撃一撃に神気が混ざっているのが、遠目からでも分かる。
邪神の欠片の全身にはクレーターのような穴が穿たれ、悲鳴のような咆哮を上げた。明らかに効いている。
だが、相手は邪神の欠片。一筋縄ではいかん。その傷はすぐに再生してしまった。やはり、神剣でも簡単にはいかんか。
しかし、戦えている。しかも真正面から。今まで見た神剣たちとは違う強さだが、やはり神剣は規格外だな。
「邪人きた」
『こっちも頑張らないとな!』
「ん! マレフィセントたちは、先行って」
「こちらはお願いします」
マレフィセントとペルソナを邪神の欠片へと向かわせるため、俺たちは邪人の気を引かないとならない。
「派手にやる!」
『おう!』
「ガルルルル!」
マレフィセントたちの進路上にいる巨大邪人やゴブリンたち目がけて、とにかく魔術を叩き込んだ。
威力よりもインパクト重視である。だが、それで半分ほどしか倒せないとは思わなかった。巨大邪人だけではなく、ゴブリンやオークも呆れるほど強化されている。
『これは、出し惜しみしてる場合じゃないか?』
「……閃華迅雷」
『邪神気も使っていく』
「オン!」
ウルシも闇を纏い、本気モードだ。本当ならササッと邪人を片づけて、余力を十分残して援護に向かいたいところだったんだがな。
思い通りに行かせてはくれないらしい。こいつらを無視して邪神の欠片だけに集中するのもありなのかもしれんが、戦っている最中に背後から挟み込まれては厄介だ。何よりも、最大戦力である神剣使いたちの邪魔をされるのは避けたい。
結局、カレード、マレフィセントが邪神の欠片に集中するため、俺たちが周りの邪人を担当するのが一番手堅い戦い方だった。
巨大邪人を倒すため、数度魔術で攻撃を仕掛けた。頭部や心臓目がけて、高威力の魔術を叩き込んだんだが……。
想定以上の防御力と再生力によって、倒しきることができないでいた。
しかも、反撃も放ってくる。いつの間にか握られていた巨大な鉄棍を、上段から思い切り振り下ろしたのだ。
あの巨大さだけではなく、武器を生成する能力に、ある程度の武術スキルまで所持しているようだ。力任せではなく、しっかりと力の乗った一撃だった。
邪気を纏った棍は数軒の家屋を巻き込み、クレーターを大地に生み出す。当然だが、威力が凄まじい。巨大邪人たちの脅威度は、B相当だろうな。
『こりゃあ、長々と付き合ってられんぞ』
「ん」
やられる前にやる。それが最適解だろう。フランは空中跳躍で高く跳ぶと、宙を一際強く踏みしめ、ドンと飛び出した。
フランを迎撃しようと棍が振り回されるが、当たらんよ!
そして、そのままフランと巨大邪人が交錯した。
「はぁっ!」
『よし! 一体撃破!』
さすがの巨大邪人も、閃華迅雷からの天断なら倒せるか。神気による再生阻害も効いているし、俺たちなら戦える。
「ガオオォォォォ!」
「ウルシもやった」
『ああ!』
ウルシの必殺技、断界の牙が巨大邪人の頭部を噛み砕く。しかもそのまま連続でその四肢を噛み砕き、咀嚼している。
再生する間もなく、全身を喰らい尽くしてしまえばいいという発想らしい。巨狼であるウルシならではの倒し方だろう。
仲間たちも、連携しながら巨大邪人を葬っていた。
ジャンの呼び出した大型獣のスケルトンたちが群がり、アマンダの鞭が頭部と手足を一瞬で砕く。フォールンドの放つ無数の剣が足を切り刻んで足を止め、シエラが止めを刺す。ユヴェルたちも皆の援護をしていた。
そうして戦っていると、凄まじい音が鳴り響いた。同時に、空中で大きな爆炎が花を咲かせている。
「チャリオットが!」
『というか、やばいぞ! いつの間にか、邪神の欠片が2体に増えてやがる!』
巨大な爆発は、こちら側の攻撃で引き起こされたものではなかった。新しく姿を現した真紅の肉塊が、チャリオットに向かって放った攻撃だったのだ。
赤い巨人が、王都の地面を転がる様が見える。邪神の欠片が4体あると聞いていたが、2体目が復活しやがったってことか?
というか、この感じ……。
『邪気の柱がさっきよりもでかくなってる! 中から、でっかい邪気の塊が……! 時間がないぞ!』




