1291 赤き騎士王
「来い! 戦騎チャリオットォォォォォ!」
カレードの叫びに呼応して、王城の地下から赤い閃光が放たれた。黒い邪気の柱を一時的に掻き消し、赤い光が周囲を包み込む。
邪神の欠片が放った光ではない。それはもっと荘厳で、心を打つ神秘的な光であった。
同時に、地下から何かが飛び出してくる。凄まじい速度であったため、最初は赤い何かとしか分からなかったが――。
「あれが、チャリオット?」
「そうだ。神剣によって生み出された戦騎、チャリオットだ」
「おー。かっこいい。それに強そう!」
「そうだろ?」
「ん。あれならきっと、邪神の欠片に勝てる」
「……ああ!」
空に浮かぶのは、赤い人型ロボットだった。
一点の曇りもない、赫灼たる真紅のカラーリングだ。朝日を浴びた全身は、光り輝いて見えた。
全体的なフォルムは、武骨な他の従機に比べると細く感じる。どこか女性的な優美ささえ感じさせる丸みを帯びたフォルムなのだが、肩や踵、指などに鋭い刃のようなパーツが組み込まれていた。
さらに、その背には水平に二枚の翼が取り付けられ、それがまたカッコいいい。
細くとも、弱々しさのようなものは全くなかった。金色の両眼で大地を睥睨するのは、力強さを併せ持った、赤き巨人だ。従機のようなモノアイではなく、ちゃんとデュアルアイなのが主人公感を感じさせる。
オタク的な観点から言えば、ガーベ〇テトラの背にストラ〇クルージュのバックパックを付けて、ゴティック〇ードっぽくした感じ?
俺とフラン、ウルシはその威容に、言葉を失ってしまう。恐ろしいのではない。神気を放つチャリオットの頼もしい姿に、感動を覚えたのだ。
あれが味方というのは、これほどの安心感を与えてくれるんだな。
「では、互いに頑張ろう」
「ん」
チャリオットの胸から光が照射され、包まれたカレードの体がふわりと浮かんだ。トラクタービーム的なものなんだろう。
船首のように突き出した形をしていた胸部の装甲が左右に開き、カレードの姿はその中へと消えていった。だが、彼が乗り込んだことで、明らかにチャリオットに変化が起きる。
全身から放たれる神気が勢いを増し、明らかに強化されたのだ。
パイロットが乗ることで、真の力を発揮できるようになったんだろう。赤い神気を噴き上げるチャリオットから、大きな声が放たれた。
「邪神の欠片が、遂に復活した! 赤騎士たちよ! 僕と共に戦ってほしい! 僕は本体と戦う! 皆は、奴の生み出している邪人を頼む!」
チャリオットは静止状態から一瞬で高速に達し、王都へと飛び出していった。凄まじい飛行速度なのに、恐ろしいほどに音が聞こえない。ただ飛行しているだけではないんだろう。
「「「うおおぉぉぉぉぉ!」」」
チャリオットの姿を見て、テンションが上がらないわけがない。赤騎士たちは全員が手を振り上げて、叫び声を上げていた。
そのテンションのまま、赤騎士たちは出撃する。
「行くよ! 陛下の負担を少しでも減らすんだ!」
「「「おおお!」」」
率いるのは、シビュラ、マドレッド、ローザだ。彼らはこのまま王都の周辺へと散り、少しでも多くの邪人を削るために戦うことになるだろう。
対するクランゼル王国勢は、王都内で巨大邪人狩りをする予定だ。赤騎士と下手に同じ戦場だと、連携の問題もあるしね。
「私たちも行く」
「ええ。神剣使いだからって、子供に全部押しつけるつもりはないわ」
「うむ」
「ふははははは! 人の消えた荘厳たる王都での最終決戦であるな!」
アマンダもフォールンドもジャンも、腕まくりをしそうな勢いだ。
「神剣使いとして、使命を果たさねばなりません。私は邪神の欠片へと向かいます」
「私が、守るから」
「俺とおじちゃんも、できる限り戦おう」
マレフィセントとペルソナは、どこか悲壮感がある。ようやくペルソナの呪縛が解けたのに、邪神との戦いだからな。能天気ではいられないんだろう。
ただ、チャリオットとヘルが揃っていれば、何とかなるかもしれない。それだけは安心材料と言えるだろう。
シエラとその腰の剣は、かなりやる気だ。むしろ、希望に満ちている気さえする。自身のアイデンティティを失いかけていた彼らにとって、世界の敵との戦いは強い肯定感を得られるのかもしれない。
「オンオン!」
「――!」
ウルシとその周囲を舞うマールも、自分たちを忘れるなと言いたげだ。フランはウルシの頭をワシワシと撫でつつ、マールに魔力を与えた。
「俺たちは残り短い時間、主に付き従うだけだ」
「そういうこと!」
ユヴェルとオルドナは、笑ってさえいる。そして、フランを先頭に出城の屋上から飛び出す。
本来は王都防衛用に結界が張られているそうだが、すでに消滅してしまっていた。内側から溢れ出る邪気に、耐えきれなかったのだろう。
薄い靄のように邪気が漂う王都内を、屋根を伝いながら進んでいく。
フランとシエラは問題ない。俺と魔剣ゼロスリードが邪気を吸い取れるしな。問題は他のメンバーだろう。
強者であれば耐えられると言っても、これだけ濃い邪気を浴び続けていればどうなるか分からん。もし邪神に支配されてしまった場合、最悪なのだ。
そこで、俺の出番だ。全員俺を知っているので、普通に話しかけられる。
『アマンダ。どうだ?』
「全く邪気を感じないわ。さすがね」
『ならよかった』
俺が、みんなから邪気を吸い取っているのだ。普通なら仲間の邪気を引き受けていたらあっという間に邪気酔いになってしまうのだろうが、俺にはただの食事だからね。
『このまま、巨大邪人の近くまで行くぞ!』
「ん!」




