127 神殿での戦い
感想で序盤の展開を言い当てられてしまい、とても驚きました(笑)
感想を読ませていただく前に書き上がっておりましたので。悪しからず。
俺たちは意を決して神殿の扉をそっと開けた。
(誰かいる)
扉の隙間から中を覗き見ると、神殿の最奥に誰かが居るのが見えた。暗がりになっていて見えにくいが、小柄な人影が見える。
『リンフォードだ』
(オンオン!)
こっちには気づいていないな。まさかこんな早く追いついてくるとは思っていないだろうし。だが、奴には障壁もあるし、さっきみたいな奇襲は通用するだろうか。それに神殿を破壊するような真似が許されるかも分からない。悪人が居ましたと言う理由が神様に通用するかね?
とは言えここで何もしない選択肢はありえない。放っておけば、何をしでかすか分からないし。
それに狙い目もある。
『あの水晶、絶対に妖しいよな?』
(ん。きっと大事な物)
リンフォードの周囲には3つの巨大な水晶が置かれていた。青紫に光る水晶からは、邪気が漏れ出ているのが分かる。あれが神殿の魔力をおかしくしている元凶だろう。
『俺はリンフォードを狙う。2人は水晶に攻撃だ』
(わかった)
(ガル!)
(師匠)
『何だ?』
(手加減はいらない。奴は――ここで殺す)
『いいのか? 進化の情報が手に入らなくなるかもしれないぞ?』
(いい。師匠が約束してくれた。絶対進化させてやるって。だからあんな奴に頼らなくてもいつか進化できる)
確かに出会った日に、絶対進化させてやるって言ったけどさ。覚えててくれたんだな。しかも、そんなに信頼してくれて……。べ、別に感動して泣いてなんかないんだからね! でも、なんかメチャクチャやる気が出てきたぞ!
『フラン……。勿論だ! 絶対に俺が進化させてやる!」
(ん)
(オンオン!)
『ウルシも手伝ってくれるってさ』
(ありがと)
(オウン!)
『じゃあ、行くぞ! ――ショート・ジャンプ!』
俺は短距離転移でリンフォードの頭上に転移した。そして念動カタパルトを真下に向かってぶちかます。
「ぬううう! なんじゃ!」
こいつの障壁はオートで発動するタイプなようだ。今の攻撃なんか完璧に視覚の外からの攻撃だし。気配を察知して慌てて展開したにしては反応が変だ。
「小娘! またお前か! どうしてここにおる!」
リンフォードが怒鳴り声をあげるが、フランとウルシはそれを無視して水晶へ走った。
「くそ! なんじゃこの剣は! これでは動けん!」
ほほう。良いことを聞いた。障壁展開中は動くことができないらしい。俺は弾き飛ばされない様に念動の出力を調整し、その場でとどまり続ける。これで俺がいる限り障壁が発動し続け、リンフォードは動けない。しかも魔力が減り続けている様だ。
「――イビル・スマッシュ!」
リンフォードがフランたちに向けて魔術を放った。この障壁、中からの攻撃は通すのか! 普通に考えたらメチャクチャ優秀だな。オート発動で俺の念動カタパルトを止め、内からは攻撃可能。動けない程度のデメリットはあってしかるべきだろう。
リンフォードの放った30近い邪気の弾丸がフランたちを襲う。だが直線的な攻撃では2人を捉えることは出来なかった。
あっさりと魔術を躱したフランたちは、魔術を水晶に放つ。
「やめろ!」
リンフォードの悲鳴が響く中、水晶が吹き飛ばされる。魔術でも砕けないところを見ると相当強化されているらしい。でも僅かにヒビが入っているし、このまま攻撃を加え続ければいつか破壊できるだろう。
「やめんか! くそ、まずはこの剣を排除してくれるわ!」
やっぱそうなるよね。でもこいつを自由にはさせたくない。
『――バースト・フレイム』
俺は僅かに距離をとると、火魔術を放った。威力が低い代わりに、十数秒の間相手を包んで燃やし続けるという魔術だ。
『――――バースト・フレイム』
『――――バースト・フレイム』
これを連続で使用し続け、奴の障壁を発動させ続ける。しかも炎が目隠しとなり、俺の位置も分からなくなるという寸法だ。実際、リンフォードの攻撃は的外れの方角へ飛んでいく。
その間にもフランたちは水晶を攻撃し続けていた。
「はぁ!」
「ガルガル!」
魔術に剣に、牙に肉球に。とにかく間断なく攻撃を叩きこみ続け、ついに1つの水晶が砕け散る。
おお、神殿に満ちていた邪気が一気に薄らいだな! やはり水晶が元凶だったらしい。
「これは……よくもやりおったな!」
「ふふん。勝利」
「オウン!」
炎で視界を塞がれていても、水晶が破壊されたことは分かるらしい。リンフォードの憎々し気なうめき声が聞こえた。ふっふっふ、俺達の作戦勝ちだ。
「これ以上邪水晶を破壊されては回廊が閉じてしまう! こうなれば……! ぬううぉぉ!」
ドォオ!
決死の覚悟を決めたのだろう。リンフォードの障壁が消え去った。オートでの発動を止めたらしい。確かにバースト・フレイムは威力低いからな。ダメージを貰ってでも水晶を守るつもりなんだろう。
全身を炎に包まれたまま、リンフォードがフランに向かって駆ける。
「小娘ぇぇ!」
しかしこの事態は十分に予測できていたぜ。どこかで特攻に出るだろうってな。
『喰らえ!』
俺はショートジャンプで再びリンフォードの頭上に跳ぶと、溜めこんでいた念動を解き放った。
「ががぁあぁぁぁぁっ!」
直撃した俺は胴体をぶち抜き、リンフォードは血反吐をまき散らしながら悲鳴を上げる。
リンフォードの上半身と下半身は完全に分かたれ、美術室に置いてある石膏胸像の様な姿だった。
床も無事だ。リンフォードに当たったのとほぼ同時に、逆方向への念動カタパルトを発動させたからな。風魔術のおまけつきで。おかげで床に衝突することもなく、ギリギリで止まることができた。先端がほんの少しだけ刺さっちゃったけど。
神殿内で火魔術を使いまくっておいて今更だけどさ。あれだって一応は延焼しないように気を付けて使っていたのだ。床が少し焦げているけど、それくらいだ。いや、それくらいは許してくれるよね? 邪神の手先を懲らしめるためだし。
恐る恐る神像を見てみるが、特にアクションはない。うん、多分平気だろう。だってもっと酷いことをしているリンフォードに天罰が下る様子もないし。この程度、きっと許してくれるさ。いや、まじですんません。
「貴様らぁ! 許さんぞぉぉぉ!」
俺が内心で神様に謝っていたら、リンフォードの叫び声が響きわたった。あいつ、あの状態で元気過ぎだろ。というか、死なないのかよ!
「悉く邪神様への贄とし、その剣は叩き折って祭壇にくべてくれるわ!」
もう再生が始まっている。本当に人間辞めてるんだな。俺たちはリンフォードに止めを刺すべく魔術を放った。だが、再び障壁が展開され、攻撃は防がれる。
「――眷族召喚! 出でよ、ゼロスリード!」
こいつ、1人じゃ不利とみて配下を召喚するつもりか! 障壁の中に魔法陣が展開される。あれじゃ召喚された瞬間に飽和攻撃という作戦が使えない!
よりによってゼロスリード。出会ったことはないが、最悪の相手であることに違いはない。なにせ、元がランクB相当。イビル・ヒューマンになってどれほど強くなっているのか……。
ここは一旦引くべきだ。俺達だけで相手にするには危険すぎる。
とか思っていたんだが……。
「あ? な、何故じゃ! ――眷属召喚! ゼロスリード!」
何だ? 再び魔法陣が展開されるが、何かが現れる様子がない。
「ゼロスリード! 拒否するとは何事じゃ! う、裏切りおったのか!」
どうやら、仲間割れでも起こしたらしい。
『チャンスだ』
「ん。ここで倒す」
「グルル!」




