1285 宰相と少年
突如出現し、巨大な邪気を纏った生物と激戦を繰り広げた従機。
敵なのか、味方なのか。
それが分からぬまま、俺たちは身構えた。立ち上がった従機の顔が、こちらを向いたからだ。
まるでスキャンでもしているかのように、その顔の一つ目がこちらをジッと見つめ続けている。
その直後、従機から声が響き渡った。
「そこにいるのは、赤剣のシビュラか?」
「この声は……宰相!」
従機から聞こえた老人の声に、シビュラが大きく反応した。宰相って言ったか? まじ? 邪人と争っていたということは、邪神の欠片に支配されているわけじゃない?
「他の者たちは、どこの所属だ? 見たことがないが」
「その前に……あんたは今どんな状況なんだい?」
「……ふむ」
シビュラからの問いかけに、一瞬黙り込む宰相。緊張しながら相手の反応を待っていると、宰相がどこか疲れた様子の声で応答した。
「この従機には、陛下も乗っておられる。だからこそ、不審者を近づける訳にはいかぬのだ」
「陛下? 陛下は無事なのかい?」
「うむ」
シビュラの眼がこちらを向いた。フランたちの情報をどこまで与えていいのか、悩んでいるのだろう。そんなシビュラに、フランたちが頷き返す。
「教えていい」
「味方にできる可能性があるなら、ここで不信感を与えても仕方がないわ」
「そうだな。わかった」
宰相たちがどんな立ち位置か分からんが、こちらから敵意を示して協力の芽を摘んでしまうのは危険だろう。
シビュラがロボに近づいていく。そして、声を張り上げた。
「彼らは、クランゼル王国の冒険者たちだ! 邪神の欠片が復活することを知り、戦うためにやってきた! 我らとは、協力関係を築いている!」
「クランゼルの……。信用、できるのか?」
「できる! クソ公爵どもよりはよほど!」
一拍の無言があったかと思うと、従機――ロボがゆっくりと動き出す。その場で片膝をつき、両手で体を支えるような姿勢をしたのだ。
その直後、その胸部が内側から左右に開いた。
まず目に入ったのは、金属製の椅子に腰かけた老人だ。薄手のローブを着込んだ痩せ型の老人がコックピットに座っていた。魔術師というよりは、文官といった雰囲気だ。あれが宰相なのだろう。
その膝の上には、子供と思しき小柄な人物が寝かされている。厚手のローブにくるまれていて顔しか見えないが、少年だろう。
コックピットから梯子が伸び、地面へと降りる。その梯子を使って、宰相が降りてきた。器用に少年を片腕で支えながら、梯子をゆっくりと使っている。
色々と話したいことがあったのだが、そうもいかなかった。
老人がその場所に倒れ込んでしまったのだ。老人は頭部などから血を流しており、かなりの重傷である。それでも少年を抱いたままなのだから、余程大事なのだろう。
「宰相! 大丈夫か!」
宰相の状態を見てシビュラが驚きの声をあげるが、老人の方は安堵した表情を浮かべた。
だが、ゆっくり治療を施す暇もない。林の中から、黒い影が飛び出してきたのである。
全身が漆黒の邪気に覆われた、身長150センチほどの小柄な存在だ。
2足歩行だがややガニ股で、歩くチンパンジーっぽいシルエットである。一番似ているのは何かといえば、ゴブリンであろう。
いや、実際にゴブリンなのか? よく見れば、邪気を纏うゴブリンだ。となると、さっきの大型の邪人はやっぱミノタウロスか?
邪神の欠片のせいで、強化されているのかもしれない。
「私が黒いのをやる! フランは宰相を頼んだ!」
「ん!」
シビュラが宰相たちの盾になる様に立ちはだかり、フランが回復魔術を使用する。
「ギギッギィィ!」
「うるせぇ! おら!」
「ギガッ……」
ゴブリンとは思えないほどに素早かったが、シビュラの相手ではない。一刀のもとに斬り伏せられ、その肉体は崩れるように消滅していった。
やはり、タダのゴブリンじゃないな。
宰相たちから話を聞ければいいんだが、その前に回復が先だろう。俺たちは宰相の傷を癒すため、近づく。だが、宰相は腕の中の少年を隠すように抱きしめると、シビュラに視線を向けた。
「宰相、大丈夫だ」
「……わかった」
そう言いつつも、警戒は解いていない。よほど、俺たちが信頼できないらしい。いや、腕の中の少年が大事なのか。
宰相の話が本当なら、王様だもんな。
『フラン。範囲回復で少年の方も癒すぞ。下手に個別に対応しようとしたら、警戒されるかもしれんし』
(わかった)
少年は頭部しか見えないため、その下がどんな状態かは分からないのだ。
鑑定は使ったけど、弾かれたし。まあ、王様なら、鑑定阻害系の道具を身につけているのも当然だろう。
硬い鎧を着込んでいるのは、ローブの上からでも分かる。
顔色はあまりよくない。
よくよく見ると誰かに似ている気がするけど、誰だ? 俺が悩んでいると、フランも既視感を覚えているらしい。回復魔術を使いながら、首をかしげている。
(……どっかで見た、気がする)
『フランもか?』
(ん)
〈ベリオス王国で接触した少女、カーナと血縁である可能性、88%〉
レビューをいただきました。ありがとうございます。
ここまで褒めて頂くと、作品を書いていてよかったと心底思えます。
それに、オーレル推しとは渋いwww 私もジジババキャラが好きなので、気が合いますね。
うぉぉぉ! カレー!




