1281 ペルソナとシエラ
赤騎士たちは天へと帰り、残るはユヴェルとオルドナだけである。ただ、激しい戦いを経験し、相当消耗したはずだ。彼らの残り時間も、そう多くは残っていないだろう。
本当は、ユヴェルたちに美味い飯でも食わせてやりながら、ゆっくりとしたい。
だが、ここで長々と休憩することなんぞできるはずもなかった。
『王都の方角から、邪気が溢れ出している』
「邪神の欠片、復活した?」
『復活しつつあるって感じだ』
ラランフルーラが放った、邪神への攻撃。あれが復活を遅らせているんだろう。
『逃げる――わけないよな?』
(ん)
解ってた。フランが、人々を見捨てて逃げ出すような真似、絶対しないって。
フランの保護者としての俺は、ここから逃げ出してほしいと思っている。邪神の欠片なんぞと戦わないでほしい。あまりにも危険すぎるのだ。
しかし、フランの相棒の俺としては、フランが邪神の欠片相手に戦いを挑むことを疑ってはいなかった。
そうしなければ、フランではない。フランではなくなってしまう。そう思ってしまうほどだ。
逃げ出すのは、どうしても勝てないと理解してから。まずは挑む。フランの基本スタンスである。
だったら、グダグダ言わず、フランをサポートするのが相棒ってもんだろう。
『レイドスの王都へ向かおう』
「ん」
ただ、他の皆は戦えるのか? フランも俺も消耗は激しいが、まだ戦える。移動しながら回復する必要はあるが、戦闘不能ではない。
しかし、他の面々はどうなのだ?
皆に話を聞く。だが、ここで音を上げる者は1人もいなかった。明らかに消耗が激しいアマンダもジャンもフォールンドも、戦う気満々である。
「邪神の欠片を放置できないわ。多くの子供が、不幸になるもの」
「隣国で邪神の欠片復活ともなれば、クランゼルも無関係ではないからな」
「まだ、やれる」
それぞれの決意を胸に、王都方面を見つめていた。
「マレフィセントは、どする?」
「……行きますよ。私は。神からの命がありますし」
この大陸に3人いるという神剣持ちの1人として、神から邪神を討てと命じられたらしい。神剣の所持者がその使命を拒否すれば、神罰が下る可能性もあるそうだ。
「ですが……」
問題はペルソナだろう。意識を失った状態のペルソナを、戦場に連れていくわけには――。
「……私も、いく」
いつの間にか、ペルソナが目を覚ましていた。ずっと付き添っていた精霊のマールが、嬉し気に飛び回っている。
「ペルソナ! 目覚めたのですね! それに、言葉が?」
「もう、喋れる」
情報神の根源を失ったことで、ペルソナは言葉を取り戻したらしい。マレフィセントを見上げながら、しっかりと声を上げていた。
いや、今までだって喋れなかったわけではない。自身で言葉を縛っていただけだ。
だが、もうそれをする必要もなかった。あまりにも強力すぎるスキルを失ったというのに、ペルソナの表情は晴れやかだ。
マレフィセントも嬉しそうである。
2人にとっては、むしろ歓迎すべきことであるらしい。
そっと自分の顔を覆う仮面を取り外す、ペルソナ。あどけなくも美しいその顔で、ふっと笑う。
「……マレフィセント。ありがとう」
「ペルソナ」
マレフィセントの服を握るペルソナの手にキュッと力が入り、少女が相棒の首筋に顔をうずめる。ペルソナの背を撫でるマレフィセントの手付きは、優しかった。
実は、この中で最も消耗していないのが、ペルソナである。情報神の根源と共に、彼女の代名詞であった白紙の能力も消え、鑑定が通るようになっていた。
魂の傷は分からんが、ステータス上では体力も魔力もほとんど減っていない。疲れはあるだろうが、それも軽度であるだろう。
実力も、意外と言っては失礼だが、高い。魔術師として高位スキルをいくつも持っていた。情報神の根源がなくとも、普通にランクBに相応しい能力があるのだ。
「情報神の根源は、消えたのですね?」
「うん。もう、どこにもない」
巨大魔石が破壊されたことで、完全に消失したらしい。強力だが、人の身には過ぎたスキルだ。それでよかったのだろう。
その横では、シエラが気の抜けた様子で座り込んでいた。
「シエラ? だいじょぶ?」
「……ああ」
頷きつつも、どこか上の空だ。
「俺は……」
「ん」
「これから何をして生きればいい?」
「?」
シエラは元々この時代の人間じゃない。しかも、同一人物であるロミオも、存在している。帰ることもできず、復讐という目的を果たした今、アイデンティティを失いかけているのだろう。
本来自分が生きるはずではないこの世界で、どうすればいいか分からなくなってしまったのかもしれない。
だが、そんなシエラに対し、フランは首を傾げながらあっけらかんと言い返した。何を当たり前のことを聞いてるんだって感じの表情だ。
「好きなことをすればいい」
「……好きなこと?」
「ん。シエラは、もう何したっていい」
「……好きな、こと……」
シエラは少し考え込むように俯いていたが、ふっと力の抜けた笑顔をフランに向けた。
「そうだな」
「ん」
フランも微かに笑う。それで、2人の間では通じたらしい。
「まずは、邪神の欠片とやらを拝みに行こうか」
「ん!」
今年もありがとうございました。
来年の1/12頃にアニメの再放送があるそうです。
また、12/29にはABEMA様で全話一挙配信がありますので、年末年始にアニメもどうぞ。
次回更新は1/4予定です。




