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126 神殿

「ワシならば、お主を進化させることも可能じゃぞ? 今すぐにでもな!」

『フラン、従うふりをして情報を引き出そうぜ?』


 俺達には虚言の理があるし、嘘の情報を教えられる心配も少ない。リンフォードの言葉の意味を考えれば、黒猫族の進化には何か秘密がある可能性が高いし。ここは危険を冒しても情報を得る価値があるかもしれん。


(ううん。今の情報だけでも十分。あいつの言う進化は邪人への進化。どうせまともじゃない)

『そりゃそうだけどさ』

(それに、演技でもこんな奴に頭を下げるのはゴメン)

『そうか』


 まあ、リンフォードが言ってる神に見捨てられた云々が本当かどうかもわからないし、隙を見せたら何されるかも分からないしな。


「ん。あとは――あいつから無理やりにでも聞き出せばいい」


 フランはそう言って俺を構えた。


「ふぉ! そうか。まあ良い。従わぬのであれば、捕えて強制的に邪人にしてやろう」

「無理」

「ふぉふぉふぉふぉ! その程度の力で良くぞそこまで啖呵が切れるのう! 驚きじゃわい。何か切り札となる魔道具でも持っておるのか? じゃが、先程使った爆発の魔道具程度ではわしを倒すことは出来んぞ?」


 そうか、こいつ鑑定スキルを持ってるんだった。鑑定偽装で弱めに表示されたフランのステータスを見て、自分の敵ではないと高をくくっているんだろう。余裕の理由が分かったぜ。まあ、それがこのスキルの狙いなんだけどさ。


『油断大敵だぜ!』


 俺はリンフォード目がけて、念動カタパルトを発動させた。奴との距離は10メートル程。この程度なら一瞬だ。


 フランの手から飛び出した俺は、リンフォードの顔面に超高速で突き刺さ――らなかった。


「ぐぬぬ。凄まじい魔剣を持っておるな! じゃが、邪神様の加護を貫くには至らんかったようじゃな!」


 俺はリンフォードの前に張られた障壁に阻まれ、突撃を止められてしまっていた。そして、反発によって弾き飛ばされる。今のはオーバーブーストこそ使わなかったものの、手加減なしの一撃だ。属性剣も魔毒牙も振動剣も使っていた。それを防ぐとは!


 ちっ、フランとはかなり離れてしまった。


(師匠とウルシはそのままで)

『わかった。スキを窺う』

(ん)

(オン)


「おしかったのう。今の攻撃でわしを仕留めておれば、儀式の邪魔をできたものを。まあ、わしが死んだとて儀式は止まらぬが、10分ほどは遅らせることができたかも知れんのにのう」

「儀式?」

「ふぉふぉふぉふぉ。内容を知ってももう遅いぞ? すでに儀式は終えたからな!」


 リンフォードが叫んだ瞬間、隠蔽されていた魔法陣が直視できない程の輝きを放った。同時に凄まじい量の魔力が陣を通して周辺へと拡散していく。


「これにより残っていた資格者たちも進化を終え、新たなる邪神の奴隷が生み出された! 総数は330体。ふん。本来であればこの10倍は生まれる予定だったんじゃがな。まあよい、不足した分はゼライセの策とやらで補うとするわい」


 やはりあの魔法陣が要だったか! すでにバルボラ中に居た魔力水の被害者たちが、変身してしまったようだ。


「わしは行く」

「待て!」


 フランがデスゲイズを投げつけるが、やはり障壁のような物に防がれてしまった。


「ふぉふぉふぉ。その程度の投擲効かぬよ。やはり剣の能力だったのかのう。まあ良い。お主らは小娘を捕えよ。抵抗するなら殺してしまっても構わん」

「分かりました」


 2体のイビル・ヒューマンたちはいつの間にか回復してしまっていたらしい。リンフォードの命令を受け、フランに向かってくる。


「大人しくしろ」

「リンフォード様にその身を捧げるのだ」

「命乞いをすれば、許してやらんでもないぞ?」


 めっちゃ上から目線だな。まあ鑑定偽装で見えてるステータスは普通のランクD冒険者くらいだし。目の前のイビル・ヒューマンたちと比べても大分弱く見えるはずだ。


「誰がするか」

「ならばそこで死ね。さらばじゃ」


 リンフォードの姿が搔き消える。転移した? 邪術にはそう言った術まであるのか? くそっ! 逃がした!


「覚悟しろ小娘!」

「リンフォード様に逆らった罪、贖ってもらおう!」


 そう言って突進してくるイビル・ヒューマンたちだったが、直ぐにその表情が一変する。フランがイビル・ヒューマンの1体を瞬殺したからだ。


「馬鹿な! ど、どこから剣など取り出した!」


 次元収納からです。久々に登場した幻輝石の魔剣だ。


 驚いている1体も、直後に斬り殺される。攻防すらなく、2体は一瞬で斬り倒されていた。実際にはフランの方がステータスで上回り、スキルでも圧倒的に勝っているからな。相手が油断してりゃ、こうなる。


『フラン、一応魔法陣を破壊しておこう』

「ん。わかった」


 やつはゼライセの名前を出していた。合流した可能性が高い。ウルシなら追えるだろう。


 俺たちは魔術で魔法陣を徹底的に破壊すると、屋敷から飛び出した。町は夜だと言うのにザワザワとしている。遠くからは悲鳴や怒鳴り声が微かに聞こえてくるし。港の方から差し込む赤い光は、火事が起きている証拠だろう。300体以上のイビル・ヒューマンが暴れ出したのだから当然だろうが。


 全部を処理している暇はない。あちらは騎士団や兵士を信じて任せよう。


『俺たちはリンフォードを追うぞ』

「ん」

「オンオン!」


 向かう途中に遭遇すれば倒すけどね。先程の儀式とやらで無理やり邪人化させられた人々は、やはり理性がぶっ飛んでいた。理性を保ったままイビル・ヒューマンになれるのは、邪神の下僕であるリンフォードたちだけらしい。


 その暴れっぷりを見ると他の個体を放っておくのが躊躇われるが……。逃げたリンフォードやゼライセが何かをする可能性が高いし、俺達はそっち優先だ。


『ゼライセとリンフォード、近い方へ向かうぞ』

「オン!」


 さらに3体ほどを斬りつつ、俺達は20分ほどかけてとある場所へたどり着いていた。どうやらリンフォードの臭いがするらしい。


『まじでここなのか?』

「オン」


建物からは僅かに魔力が感じ取れる。人の気配は全くないが、ウルシの鼻もここだと言っているし、間違いないだろう。


『だってここ神殿だぞ?』


 そう、そこは紛れもなく神々を祀る神殿であった。


 この世界では~教という特定の宗派がない。神殿には全ての神が祀られている。職業や種族によって特定の神を特に信奉している場合もあるが、あくまで全員を崇める中で少しだけ特別扱いしているだけだ。


 教祖や司教的な奴らもいない。そもそも神殿には権力がない。神が自分たちの名前を個人の利益に結び付く形で利用することを禁じているからだ。その禁を破ったものは例外なく命を落とすと言われていた。都市伝説的な感じだが、こちらの世界の人間は本当だと信じているらしい。地球で適用したら宗教関係者の8割くらいは死んじゃうんじゃなかろうか。


 一応神官的な者がいるが、神託というスキルを持っていれば誰でもなることができる神殿の管理者と言う立場でしかなかった。


 職業というのは神の恩寵の1つとされており、神殿では神に祈ることで職業の変更ができる。むしろそっちの方が重要視されているほどだ。神殿で職業を変更する場合は3000ゴルドほどのお布施が必要だが、神殿の維持費や神官の生活費として神から認められているらしい。


 冒険者ギルドで職業を変更できるのは、それ用の魔道具が存在するからだ。これも神への不敬に当らないのかと思ったが、話を聞いた冒険者からは罰が下ったことはないから大丈夫なんじゃないかという何ともアバウトな答えが返ってきた。


 とは言え、神殿であることに変わりはない。むしろ全ての神が祀られ、俗さが排除されている分、神の加護は強いんじゃなかろうか。


 そこに邪神と繋がりのあるリンフォードがいるのか?


『何がどうなってやがる』

「行けばわかる」

「オン!」

『そ、そうだな』


 俺たちは気配を殺して神殿に近づいた。裏口はなく、窓は採光用で極小だ。小柄なフランでさえ通り抜けることは出来ないだろう。


 窓から中を覗いてみるが、人の姿も見えないな。ただ、魔力だけは感じとれる。


『明らかに邪悪な気配だ……。神殿が何故?』


 神殿を訪ねたことはないが、前を通ったことはある。その時は澄んだ清い魔力が感じられたはずなのだ。間違ってもこんな禍々しい魔力は感じられなかった。


 これは入ってみるしかないか……。


『……行くぞ』


 俺たちは意を決して神殿の扉をそっと開けた。


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