1264 金色のオーラ
『くっ! また失敗した!』
(ごめんなさい。ちょっと黒雷強すぎた)
『すまん! 今度は俺がミスった!』
(師匠、次)
『あー! 神気が少なすぎたか!』
(むぅ。属性剣の制御難しい……)
俺とフランの、強いもの全部混ぜてもっと強いものを作ろう作戦は失敗し続けていた。
そもそも、邪気と神気、邪気と聖浄の力が反属性のように打ち消し合うのだ。これを減退なく混ぜ合わせることが本当にできるかどうかも分からないうえ、黒雷も混ぜ込むとなると難易度倍増ドンなのだ。
(でも、師匠なら絶対やれる)
『そうか?』
(ん! スパイスを配合してカレーをあんな美味しく作れる師匠なら、魔力もきっと上手に配合できる!)
『……え? そういうことなの?』
フランが自信満々に俺ならやれるって言ってくれたのって……。
『カ、カレーと魔力はちょっと違くない?』
(そんなことない)
『そ、そう? まあ、俺ってば混沌の神の使徒だしな。混ぜ合わせるのはきっと上手なはずだ! 多分』
(ん! 師匠の混ぜ混ぜ能力は超すごい)
実際、糸口は掴みつつあると思う。
元々、邪神気は作れるし、そこに黒雷を纏わせることはできていた。新たな属性が聖浄なせいで難易度が上がり過ぎているだけで、絶対に不可能な合成ではないと思う。
というか、できる気がするのだ。
俺の直感でしかないが、間違ってはいないと思う。魔力の流れを見て、さらに集中する。
さっきまでより、流れが見えるな! 混沌識が、ビンビンと反応している。このスキル、混沌の女神様に関するものだけではなく、魔力なども視ることができるらしい。いや、混ざり合って、混沌としているから?
半分冗談で混沌の神の使徒だからとか言ったが、案外的を射ていたらしい。そして、しっかりと見えることで、問題点もよく分かった。
『フラン。次はできる。気がする。そこで提案だが、神気をフランに任せていいか? その代わり、聖浄の力は俺が受け持つ』
(それでいいの?)
『ああ。混沌識で見ると、どうもフランの神気の方が、他の魔力と親和性があるっぽいんだ』
俺が神気と邪気を担当していたのは、邪神気を作り出すノウハウがあったからだ。だが、神気が一番重要な気がするんだよな。
そして、獣蟲の神に認められているフランの方が、神気をより上手に扱えているようだった。他の魔力との反発が少ないようだ。
神気といっても、一概に同じではないのだろう。
(分かった。やってみる)
フランが神気と黒雷を混ぜ、黒雷神爪にも似た力を俺に纏わせる。俺はそこに邪気と聖浄の魔力を浸透させていった。
思った通りだ。神気が安定しているお陰で、さっきよりも制御がしやすい。4種の力をまとめて、より混ぜ合わせていく。
まあ、普通の人間なら頭痛どころの騒ぎではない神難易度の制御だが、痛覚の無い俺ならできる。
『ぐ……』
ただ、久しぶりに寒気がするな! 想像以上に負荷がかかるらしい。
ネームレスもラランフルーラも、控えめに言って化け物だ、倒す手段がなければ削り合いの末、かならず押し切られる。
なら、無理してでも通用する攻撃を繰り出さなくてはならない。
『うおおぉぉぉぉぉ!』
(師匠! すごい! できた! すごい! かっこいい!)
『やったぞっ!』
金色のオーラを放つ、俺の刀身。
凄まじい存在感と、強烈な力を放っているのが分かった。これなら、やれる! そう確信できた。
『フラン、長くは持たない! 一気に行くぞ!』
「ん!」
ネームレスはこちらに背を向けている。その気を逸らすため、英雄ゾンビたちが猛攻を仕掛けているからだ。しかし、奴はこちらに気付いているだろう。それだけの余裕があるのだ。
それでも隙を晒しているのは、この状態でも回避できる自信があるからだ。
そもそも、ネームレスは死霊だ。眼球で周囲を見ているわけじゃない。俺と同じような周りを俯瞰で見る能力があるに違いない。
だが、様子見などしている余裕はなかった。すでに金色のオーラの安定性が崩れ始めているのだ。あと10秒は持たない。
『フラン、このままつっこめ。俺たちが奴の動きを封じる!』
(わかった)
ネームレスの背中に、かなりの緊張が走る。今の俺が、自身にとっても危険であると分かっているのだ。
ユヴェルやベガレスの攻撃を捌きつつ、フランから意識を逸らそうとはしない。このままだと、回避されてしまうかもしれなかった。
だが、こちらには隠密のスペシャリストがいるのだ。
『ウルシ! 出番だぞ!』
「ガルゥゥ!」
「くっ! このクソ犬っ! どこに……!」
ウルシが全力を出して気配を消せば、ネームレスですら欺ける。戦闘中であれば、なおさらだ。
しかも、今回はネームレスの足元ではなく、ユヴェルの影から飛び出していた。ユヴェルの強い魔力に紛れることで、より気配を隠していたのだ。
ウルシの噛みつきによって、その足が鈍る。その隙を狙い、フランと俺がさらに封印を施した。まあ、守護神の盾や念動を拘束具のように使って、動きを止めただけだが。
「ぐぉ! なんだ!」
ウルシに脚を噛み砕かれても、瞬時に再生させてフランの行動に備えようとしたネームレス。だが、見えない障壁に捕らえられ、完全に動けなくなった。
奴が本気を出せばすぐに破れるだろうが、もう遅いのだ。
フランは既に、攻撃の準備を整えていた。
「てやああぁぁぁ! カレー斬りっ!」
『えぇ?』
そ、そのネーミング、ちょっと待ってっ!




