1257 宝具とは
シビュラに色々尋ねるフランに、俺が少し気になっていたことを質問してもらう。
「宝具って、なに? あと、シビュラの剣って、普通の宝具じゃないの?」
シビュラとアポロニアスが、下賜品がどうこうという会話をしていた。シビュラの赤い剣は、普通の宝具ではないっぽいんだよな。
それが、少し気になっていたのだ。
「む、それは……」
「大雑把であるな。まあ、レイドス王国において宝具というのは、公爵や赤騎士団長などが王から授与される強力な魔道具の一種、という感じだな!」
どう答えたものかと口ごもるシビュラに代わって質問に答えてくれたのは、ジャンとの会話を終えたアポロニアスであった。
王家から下賜された特別な魔道具である、宝具。それは身分の証でもあり、団長や公爵に正式に認められたものでなくては使用が許されないらしい。
ただ、それは俺たちも何となく分かっている。
もっと詳しいことが知りたいのだ。なんで俺が共食いできるのかとか、真の能力とか、どうやって作っているのかとかなどだな。
「宝具は、国王が作ってる?」
「分からん。だが、国王陛下がどこぞから持ってきて、下賜することは間違いない。その秘密に関しては、王、宰相、四公爵しか知らんはずだ」
宝具を生み出すスキル? いや、歴代の王が同じ能力を持つのだとすると、そういう魔道具ってことかな? 王家に代々引き継がれている、宝具を生み出すための魔道具があると考える方が自然だろう。
まあ、あれだけ凶悪な宝具を大量に生み出す魔道具ってなると、もう準神剣レベルな気がするけど。
シビュラとマドレッドは、スラスラと質問に答えるアポロニアスたちに対し複雑な表情だ。彼ら自身、宝具については黙秘してきた。というか、クランゼル王国側が気を使って質問しなかった。
シビュラたちはある意味国を裏切ったが、彼女たち自身の行動原理は民と国のためなのだ。民を虐殺した勢力に関しては情報を惜しまないが、国自体の重要情報などを自分たちから漏らすようなこともしなかった。
それが、今は英雄ゾンビたちがこちらの仲間になったせいで、機密も何もないからね。だが、邪魔をする気もないようだ。
「……シビュラの赤い剣は、他の宝具と違うの?」
「うむ! その通りだ!」
シビュラが渋い顔をするが、やはり止める気はないらしい。ここで無理やり止めたって、後でいくらでも聞けてしまうしな。
「かなり昔から、ダンジョンコアを核とした強力な魔道具の開発計画はあったのだ。だが、長らく扱える者もおらず、研究は停滞しておった。だが、ダンジョンコアをその内へと取り込んだシビュラであれば、扱えるのではないかという話が出てな」
「ダンジョンコアを取り込んだ?」
どういうことだ? いや、確かにシビュラは何でも食っちまうが……。
「あの娘はありとあらゆるものを食うことができる。食って、自分の力を増すことができるのだ。そして、ダンジョンコアも食ったのだ。我の目が黒い内は、シビュラを実験台にするような真似はさせなかったが、結局計画に協力したらしいな」
「なるほど」
「おい、クソ親父!」
シビュラが、思わずと言った感じで叫んでいた。目の前で自分の秘密と国の機密をベラベラと話されて、我慢できなくなったんだろう。
「なんだ? バカ娘? 我は今や、この黒猫族の主の配下! 問われれば語らぬわけにはいかぬ! お前がおねしょした話とかな!」
「あれは水差しひっくり返しただけだ!」
「では、駐屯地の食料を食い尽くして、副官にこっぴどく怒られた話はどうだ? ああ、偽物の骨董品をつかまされて、小遣いを全部すった話でもいいなぁ!」
「ええい! やめろ! だいたい、フランはそんなこと聞いてねぇだろうが! 勝手に暴露すんじゃない!」
「ふははははは! どうしよっかなあ!」
まあ、この二人が仲いいんだなってことは、よーくわかったよ。
シビュラを散々からかって満足したアポロニアスが、やや真面目な表情でフランを振り返る。
「それでどうする? もっと話すかね?」
「シビュラの話はもういい」
これ以上シビュラ個人の話を掘り返しても、仲が険悪になるだけだしな。シビュラの能力に関して、今は聞かずともいいだろう。
少し話の矛先を変えるか。
「宝具の能力を知りたい」
「いいぞ! それでは、ルッカードから行くか!」
「いいっすよ。何でも聞いて下さい」
やっぱ俺の支配下に入ってるから、何でも答えてくれちゃうね! アポロニアスに指名され、なんか下っ端感のある青年、ルッカードが自分の宝具について説明をしてくれる。
緋眼騎士団の宝具、ヴァーミリオン・アイは、視力や反射神経の強化だけではなく、弱点看破や数秒先の未来視まで可能にする、義眼型の宝具だった。
また、自身の魔力の流れを視て操作することで、繊細な魔力操作能力も身に付くらしい。つまり、弱点を見抜き、その部分へと魔力を込めた正確な一撃を叩き込むことが可能なのだ。
奥の手は、数種類の魔眼の同時発動だった。それによって、数分間異常なほどのパワーアップが見込めるという。
シンプルに強いタイプの宝具だな。現在この宝具を持つシュゼッカという女性は、過去最強と言われるほどの使い手であるらしい。
他の宝具に関しても、色々と情報が聞けた。まあ、物がそこにあるわけだし、鑑定もできるからね。
カーディナル・フラッグの奥の手が、仲間自身の生命力を削るタイプだとは思わなかったのだ。気軽に使う前に知れてよかった。
「じゃあ、シビュラの赤い剣は?」
見た目は赤い剣だが、どんな能力なのだろうか? ここまで、強い剣としての使い方しかされていないのだ。
「俺には分からん。もともと、赤剣騎士団は特殊な騎士団だった。他の赤騎士団と違って、宝具が下賜されないのだ」
「そうなの?」
「うむ。バカ娘の剣は、近年開発されたものだな。我が団長を務めていた時には、存在していなかった」
レイドス王国で最初に作られた赤騎士団が、赤剣騎士団だ。この騎士団には民のために国内を巡回し、魔獣や盗賊を倒すという目的以外に、隠された任務があった。
それが、権力者が暴走した際の防波堤となること。もっと詳しく言えば、王族や宰相が民に害を与える存在となった場合、武力を使ってでも止める役割が与えられていたという。
「宝具を持つ者は、宝具を失えばその力も失う。それでは、王を止めることなどできん。だからこそ赤剣騎士団には、王の権能によっていつでも奪うことができる宝具は与えられず、個人で優れたものが選ばれることになっているのだ」
シビュラの剣は本当の意味で宝具とは呼べず、魔剣の類でしかないらしい。
「へっへっへ。かっこいいだろ? 研究者どもが作り上げた、私専用の魔剣だぞ?」
「うーむ。専用武器かぁ! いいよなぁ!」
「だよな! 研究者どもは反吐が出るほど嫌いだが、この剣を作るってんなら協力してやったさ!」
結局、シビュラから聞き出さなきゃ、本当の能力は分からんってことか。だが、そんな余裕はなさそうだ。
「む」
『またきたな!』
「オン!」
レイドス王国へと侵入した俺たちは、再び死霊の軍勢の気配を捉えていた。
スマホゲーム、『Tap Dragon リトル騎士ルナ』と転剣がコラボ中です。
ぜひよろしくお願いします。
お伝えし忘れておりましたが、1255話を予約失敗で少し変な時間に更新しております。
読んでいない方がおられましたら、そちらからお読みください。
少し忙しく、次回更新は11/7とさせてください。




