1256 生き残った者たち
「ドナド、クリムトお願い」
「うむ。任された。そちらこそ、気を付けろ」
「ん」
「なーに! この私がいるのだ! 骨の船に乗ったつもりで任せたまえ!」
『骨の船って、沈みそうじゃね?』
まあ、ジャンがいてくれれば心強いことは間違いないが。
冒険者や騎士の生き残りと合流した俺たちは、今後のことを軽く話し合った。そして、ドナドにクリムトを預け、そのまま北を目指すことにしたのだ。
放置すれば大量の死霊がまた溢れ出す。そうなる前に儀式を止めてしまおうと考えたのだ。冒険者たちは一緒に行くと言ってくれたが、さすがに一度休むべきだろう。
彼らは結界内に取り残された後、気が休まらない日々を過ごしていたはずだ。
結界の効果によって魔力と生命力を少しずつ吸われ、時には死霊の軍勢に襲い掛かられる。
最後は、あの死霊の大群だ。アマンダたちを先頭に何とか呑み込まれる前に退避し、そのまま何とか逃げていたが、道中の戦いで8割近くが命を落としたという。
何とか死霊たちに見つからないように山中へと身を潜めていたが、突然の結界の消失だ。
その後は、死霊とかち合わないように無理してでも山越えをしてクランゼルへの帰還を果たそうとしていたが、結果的にそれが彼らの命を救った。
死霊の奔流に呑み込まれずに済んだのだ。
彼らが知る限り、ここにいる300名強が、クランゼル王国軍の全生き残りであるらしい。
ここは、一度アレッサに戻るべきだろう。アマンダとフォールンド、ジャンは絶対に着いてくると聞かないので、同行してもらうが。
「お気を付けてぇ!」
「隊長! ご武運を! カレー!」
「頼んだぞぉぉ!」
「カァァァレェェェェェ!」
さ、最後のやつ……。まあいい。フランズブートキャンプの生き残りがたくさんいてくれて嬉しいよ。
生き残りたちに見送られながら、俺たちは一路北を目指す。強者ばかりなので、普通に走っても速いうえ、テイワスの転移もある。
俺たちはあっという間にレイドス王国へと入り込んでいた。
その道中、ジャンがフランに質問をする。
「この者たちは、死霊であるな? 出所はジェノサイドグールたちと同じかね?」
「レイドスの死霊だったけど、今は私の部下」
「なるほど。これほどに強き死霊を召喚できるとは……。レイドス侮り難しであるな! しかも、普通の死霊ではなさそうだ」
ジャンは全く遠慮なしにジロジロとアポロニアスたちを見回し、何やら頷いている。多分、魂魄眼で検分しているのだろう。非常に興味深げだった。
強者であるはずの英雄ゾンビたちが、妙に落ち着かない様子である。ジャンの目が完全に実験動物を見るマッドサイエンティストのそれだからだろう。
「じょうほうのさいげん? だって」
「ふむ? そこの死霊殿、少しいいかね?」
「主?」
『答えてやってくれ』
「うむ! よかろう! 何でも聞くが良い!」
「ふははは! 死霊であるのに、なんとも精力的な! これは良い死霊であるなぁ!」
「はっはっは! 我らの凄さが分かるとは、なかなか見る目があるではないか!」
「ふはははは!」
「はははは!」
あ、やばい。こいつら混ぜるな危険だったかも?
その後は、ジャンがガンガンと質問し、アポロニアスがドンドンと返していた。
纏めると、まともな方法でアポロニアスたちは作り出せず、生前と変わらない力を保持しているのは奇跡という、あまり役に立たない内容だった。
ジャンは主に自分で再現する方法が知りたかったみたいだしね。
ただ、幾つか重要な情報も入手できた。アポロニアスたちは俺が支配しているが、その顕現には聖母の術が関わっているので、そちらに異変があれば消えてしまう可能性があるということ。
あと、完全破壊されてしまえば再召喚はできないことも分かった。
やはりアヴェンジャーみたいに盾代わりに使ったりは難しそうだ。
また、ジャンたちが話をしている間、フランがシビュラに質問をしていた。
「シビュラ、村はどうしたの?」
「クランゼルから騎士と文官が派遣されてきたし、エスメラルダも目を光らせてくれるっていうからね。任せてきたんだよ。レイドスの存亡がかかっているかもしれないのに、ジッとはしていられないからね」
赤騎士がいないのは、村人の守りのこともあるし、シビュラたちに対する人質でもあるんだろう。それでも、赤騎士団長2人を自由にするとは破格だろうが。
「ああ、監視はあるぞ? ほら」
「エスメラルダの鼠」
「その通りさ」
シビュラの腰の皮袋には、エスメラルダの砂鼠が入っていた。これで、遠隔監視しているんだろう。
俺たちの持っていた砂鼠は、魔力が抜けてただの砂に戻っちゃったんだよな。
「勿論、契約は結んでいるよ。私たちが戦えるのは、クランゼル王国に敵対し、かつ邪気を宿す相手だけだ」
クランゼル王国の上層部としても、色々悩んだんだろうな。シビュラたちがこちらの味方として戦闘に加わってくれればかなりの戦力アップだが、ただ戦場に送り出して裏切られてはかなわない。
しかし、レイドスのどの勢力が敵で、どの勢力が味方となりえるかも分からない今、ガチガチに縛ってはせっかくの戦力が使い物にならない可能性もある。
そこで、邪気を宿した相手となら戦闘可能という条件を入れたのだろう。
俺たちとしても有難いのは、クランゼル王国に敵対しているという条件だ。だって、邪気を宿しているだけでは、俺たちとも敵対できてしまうからな。
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