1255 英雄ゾンビと術者
俺たちの前には、10人の英雄ゾンビたちが静かに佇んでいる。まさか、全員を配下にできるとは思ってなかったのだ。
赤剣アポロニアス、朱炎ベガレス、血死ヴィオレッタ、茜雨ジンガ、緋眼ルッカード、紅旗ロブ、ユヴェル王、オルドナ、赤剣テイワス、赤剣ウィレフォの10人である。
何故か全員が笑っている。いや、紅旗のロブとユヴェル王は、やや憮然としているかな? ただ、全体的には楽し気だった。
因みに、時空魔術師の元赤剣騎士団長は、200年ほど前の人間で、テイワス。あまり特徴のない、地味な感じの中年男性だ。
対して、イケオジの精霊術師が250年ほど前の赤剣騎士団長ウィレフォ。もしかしたらエルフの血が入っているのかもしれんが、本人は元孤児で両親を知らないらしい。
アヴェンジャーと同じように邪気を通じて支配したが、彼らを俺の中に格納することができない。アヴェンジャーとウルシで、キャパオーバーなのだ。邪神の欠片も何も言ってこないしね。
このまま連れ歩くしかないだろう。消滅してしまえば修復することも難しいだろうし、アヴェンジャーほど雑な扱いはできないかな。
「フランちゃん? これって、どういうこと? みんな、急にこっちの仲間になっちゃうから、とりあえず放置してたけど」
「みんな、私の部下になった。このすーぱーすごい剣のすーぱーすごい力」
「すごいわ! さすがフランちゃん!」
アマンダはそれで納得したらしい。フォールンドと、ポーションを飲んで少し回復したクリムトも同様だ。俺の仕業だと分かるからね。
シビュラとマドレッドは驚いているが、宝具のような存在を当たり前に知っている赤騎士団長である。そういう魔剣があってもおかしくはないと、理解したようだ。
ただ、自分たちの先達であるアポロニアスやジンガが、フランに対して従っている様子に複雑な思いがあるらしい。
並んでいる英雄ゾンビに対し、フランが事情聴取を開始する。まあ、質問を考えたのは俺だが。
「お前らを生み出した、術者は誰?」
「聖母と言われる、黒骸兵団のアンデッドだ」
代表で応えたのはアポロニアスだ。それに対し、シビュラが呆れた顔で言い返した。
「なんだよ。やっぱ黒骸兵団だったんじゃないか!」
「ちっげーよ! 所属はそうじゃねぇんだ。なんつーか、聖母の直属なんだよ」
「何が違うんだい?」
「聖母が直接生み出して、命令も聖母から下されただけだ。ネームレスってやつには会ったこともない」
詳しく話を聞くと、大量の不死者を生み出してクリムトを疲弊させ、そこを英雄ゾンビで襲うというのはネームレスの発案らしい。
だが、その作戦の実行は聖母に任され、彼女からは手加減するように言われているそうだ。フランはその言葉に首を傾げる。
「手加減?」
「ああ。クリムトから杖を奪う際には、本気でいい。だが、黒雷姫と呼ばれる黒猫族の少女が出てきたら、奥の手は使うな。たとえ全滅することになっても逃げないようにと命令されていた」
フランのことが知られているのはもう驚かない。散々、レイドス王国や黒骸兵団の邪魔をしてきたのだ。
だが、フランが出たら何としてでも殺せではなく、手加減しろ? 意味が分からん。
まるで、フランに全滅させられることを望んでいるかのようだ。
「なんで?」
「我らにも分からんよ」
「そう……。じゃあ、次の質問。お前らみたいな強いゾンビは、たくさん作れる?」
そこは聞いておかねばならない。アポロニアス級とまではいかなくても、過去の赤騎士団員や強者の全員を召喚可能で、倒されても無限に再生できますなんて言われたら、勝ち目がないのだ。
「我らにも詳しくは分からんが、魔力の残りは少ないとは言っておったな。そう多くは生み出せんと思うぞ? 死霊兵たちも生前よりは弱くして、数を揃えておったようだしな」
「ほんと?」
「うむ。聖母は、節約したと言っておったが、それが必要な程度には魔力が貴重であるということだろうよ。節約した死霊兵どもであっても、もうさほどは生み出せんはずだ。20万は出せんと思うが」
いや、十分多いが!
フランも顔を曇らせる。そんなフランの表情に気付いたのか、アポロニアスが豪快に笑った。
「今や我ら10人が配下におるのだぞ? 20万程度の雑魚ども、どうとでもなるわ! 今の我らには邪気があるからな」
俺の配下になることで邪神の欠片と縁付いたおかげなのか、アポロニアスたちは邪気操作を身につけたようだ。
腕に邪気を纏わせている。
「邪気を扱えるようになってみると分かるが、こりゃあすげえもんだな。邪気なんて呼んじゃいるが、魔力の上位互換にしか思えん。しかも、魔力を乱す効果まであるとなりゃ……全盛期以上に戦えるだろう」
「……死霊が生み出されるのを止めるには、どうすればいい?」
「そりゃ簡単だ。術者か、魔法陣のどちらかを潰せばいい。案内するぜ?」
クリムトのお陰でこの近辺は掃除され、一気にレイドス国内へと攻め込めるし、アポロニアスたちの案内も期待できる。
支配権を奪ったとは言え、相手が何かすればアポロニアスたちは消されてしまうかもしれない。だったら、今がチャンスだろう。
ただ、クリムトをどうするか悩むところだ。
「私のことは、お気になさらず……」
息も絶え絶えにそう言われても……。少しはましになったが、まだ一人で動けないほどに消耗している。
そこで、俺たちは信頼できる相手にクリムトを預けることにした。皆を連れて、北へと移動を開始する。
テイワスの転移で、延々と移動し続けるだけだが。
10分後。
俺たちは目的の集団を視界に捉えていた。とりあえず、俺たちとアマンダ、フォールンドだけで接触する。
「ドナド! みんな!」
フランの姿を見た冒険者や兵士から、歓声が上がる。
「うおぉ! 黒雷姫の姐さん!」
「隊長! カレー!」
「た、助かったっ!」
絶望の表情を浮かべていた者たちの顔に、僅かながらに希望の色が戻ってきた。脚を引きずりながら必死に南下してきていたのは、生き残ったクランゼル王国の者たちだ。
アマンダとフォールンドが南へと向かったまま戻らず、心細かったのだろう。涙を浮かべて、歓声を上げていた。
予約を明日にしてました!
ごめんなさい!




