1253 新たなアヴェンジャーの同僚たち
『聖浄魔術の極大魔術は――使えるぞ!』
しかも、魔導神髄の効果だろうか? 火炎魔術のスルトを身につけたときよりも、魔術の効果や範囲が詳しく分かるのだ。
『フラン、後ろへ』
(ん!)
仲間たちから少し距離を取らせる。だが、これでいい。ここからなら、全てが視界にとらえられるのだ。
『初発動で多重起動たぁ、贅沢な使い方だぜぇ!』
聖浄魔術の極大魔術は、カンナカムイと同じ威力集中型の魔術だった。
『はぁぁぁ! 聖浄魔術、アガートラーム!』
俺の言葉に応えて、巨大な魔法陣が5つ生み出された。
『いけっ!』
数秒の溜めの後、扇状に並んだその魔法陣から銀色の閃光が奔る。
浄化の魔力を込められた、極太の銀色の光線。それが、Lv10聖浄魔術、アガートラームの効果だ。
カンナカムイに非常に似ているだろう。ただし、こちらに物理的な破壊力は一切ない。銀色の光に呑み込まれた仲間も、その場で何事もなく突っ立っている。
対して、死霊に対しては凄まじい効果を上げていた。触れた瞬間、ロブだけではなくアポロニアスなどもその動きを止めたのだ。
そんな光線を、俺は横に動かす。
まだ制御が完璧ではないので少しずれた程度だが、それで十分だった。たった10秒ほどで、英雄ゾンビたちに目に見えるダメージが入っている。
神気を含んでいるはずの黒雷神爪よりも、こちらの方が明らかに効いていた。邪気と死霊、双方に対して相性がいいのだろう。
『よし! 仕上げだ!』
「ん!」
『ホーリーパレス!』
使用したのはLv8聖浄魔術、ホーリーパレスである。まあ、強力で範囲が広い、聖浄魔術の結界だ。高位なだけあり、少しの邪気では揺らぎもしない。魔力を多く込めて結界を生み出すと、その内に閉じ込められたロブの動きすら止めてしまった。
『よっしゃぁ! 改めて、邪神の信頼起動だ!』
「ぐうあああぁぁぁぁぁ!」
いける! 明らかに、弱っているロブは抵抗が薄い。やつの中の邪気を掌握できている!
『俺に、したがえぇぇぇ!』
「うおおぉぉぉおぉぉぉぉ!」
俺の干渉とロブの抵抗がせめぎ合い、支配の綱引きが行われる。この状態でもこれだけ抵抗できるのは驚きだが、極大聖浄魔術と結界によって大きくダメージを食らっているせいで、その抵抗は完璧ではなかった。
「……ふぅぅ。我が主よ。残念ながら、我が支配権はあなたに移った」
『ようやく成功か!』
「ん」
ロブの闘志が消え、その内の邪気が俺に従属したのが分かる。心服したわけではないだろうが、こちらの言うことはしっかりと聞く。
これは、単純に相手の数が減ったという以上に、大きな変化を戦場へともたらしていた。
紅旗の効果である部隊強化の対象が変化したのだ。英雄ゾンビたちの強化が消え去り、こちらが強化される。
英雄ゾンビたちが驚きの表情でロブを見ていた。
それだけでも、戦況が大きくこちらの有利へと傾いたと言えるだろう。ただでさえアガートラームの余波で後手に回り始めていたジンガなどは、さらにマドレッドに追い込まれている。茜雨騎士団長対決は、マドレッドが圧倒する展開になり始めていた。
(師匠! 次いく!)
『おうよ!』
俺は再び、ホーリーパレスを使用した。閉じ込めたのは、フォールンドと戦っていたルッカードである。
連続して撃ち込まれる魔剣を回避しまくっていたが、さすがに結界魔術から逃げる余裕はなかったか。それでも前兆が分かっていたようなので、見えてはいたんだろうな。緋眼が想像以上に高性能なのは確かなようだ。
まあ、もう逃げられんけどな!
『さっきのでだいぶ慣れたからな! 今度はもっと早く終わらせる!』
「うおおおぉぉ! こんなもの……くあぁ!」
通った! そう確信した直後、ルッカードが膝を突いて頭を下げる。
「我が主、その言葉に従います」
『よし。このまま、アヴェンジャーの援護に入れ!』
「は!」
ロブとルッカードが、一番劣勢だったアヴェンジャーの助けに向かう。アンデッドが相手じゃ毒も呪いも効かんし、かなり厳しい戦いだった。
それでも、身を挺してユヴェルたちの相手をしてくれていたのだ。いざとなったら俺の中に逃げ帰ればいいし、それこそ捨て身の戦いをしていた。そこにロブとルッカードが加われば、ユヴェルたちは封じ込められるだろう。
その後俺は、次々と英雄ゾンビたちを配下に加えていった。ベガレス、ヴィオレッタ、ジンガと、赤騎士たちを邪神の信頼で取り込む。
次に目を付けたのは、名前も分からない赤騎士たちだ。今はウルシを中心に赤騎士にも攻め立てられ、逃げ回るだけだ。
そもそも、ウルシと1対2の状況だった時にも、逃げることしかできていなかったが。
どうやら、この二人は想定以上に戦闘能力が低かったらしい。片方は、運搬や輸送担当の時空魔術師で、もう1人は精霊魔術師である。
どちらもこの戦場では真価を発揮できていない。
時空魔術師は英雄ゾンビをここまで転移させることが一番の仕事だったらしいが、戦闘力はランクC冒険者程度でしかない。
精霊魔術師の方は、もっとかわいそうだ。クリムトの大精霊の影響なのか、精霊魔術が使えないようだ。精霊が逃げてしまって、周囲にいないのかね?
多分、クリムトと戦う際、その精霊魔術を邪魔するような役割だったんだろう。
転移で逃げる相手を追いかけ回すのが楽しくなったウルシに、ひたすら遊ばれていたな。ウルシの「オンオンオーン!」という声だけが響いていたのだ。
どちらも、碌な抵抗もなくこちらの支配下に入った。
『あとは、アポロニアスとユヴェルとオルドナだけだ!』




