1252 シビュラとマドレッド
フランとアポロニアスの間に立ち塞がり、攻撃をその身で防いだのはシビュラであった。
その肌にも、赤い髪にも、一切の傷や火傷はなく、平然とした顔で立っている。
「シ、ビュ……」
『フラン! 喋るな!』
「!」
今のうちに回復しちまわないと! マールと共に、フランの傷を癒していく。
なんせ、敵は元赤騎士団長たち。それこそ、シビュラとは仲間と言っても過言ではない存在だ。どう転ぶか分からなかった。
「オヤジ、どういうこったいこれは? 黒骸の奴らの先兵になったってことかい?」
「バッキャロー! 違うわい! まあ、色々あって、蘇ったってわけだ! お前さんは、なんでその嬢ちゃんを庇う? クランゼルのもんだろ?」
「民のためだ!」
「なるほど! それなら仕方ねぇな!」
なんだろう。血が繋がってないって聞いたけど、親子なんだなって分かる会話だ。
ただ、両者の闘志が高まっていくのがよく分かる。明らかに、互いを敵と見なしているようだ。
「……一度、親父とは本気でやり合ってみたかったんだよ」
「そりゃあ、こっちのセリフだ! かかってこいやバカ娘!」
「もう一度あの世に送り返してやんよ! クソ親父!」
え? 戦うの?
俺がどんな状況なのか理解できない内に、アポロニアスとシビュラが戦い始めた。
しかも、この場に駆け付けたのは彼女だけではない。英雄ゾンビとして蘇った茜雨のジンガが放つのとは別に、赤い矢が戦場に降り注いだのだ。
「マドレッド」
「……民のためだ。今は、共闘してやる」
シビュラもマドレッドも、こちらに味方してくれるということで間違いないようだ。
『心強い援軍だな!』
「ん!」
フォールンドも魔剣によって傷を癒し、戦闘に復帰している。これにより、敵の英雄ゾンビが分断された。
ウルシ、アヴェンジャー、アマンダ、フォールンド、シビュラ、マドレッドが英雄ゾンビと相対し、俺たちの前には紅旗のロブだけが立っている。
「自分を葬った相手と、再びまみえることになろうとはな」
「覚えてるの?」
「ああ。全てな」
そう言いつつも、彼の眼差しから恨みの念は感じられない。ゾンビなのに、潔ささえ感じさせるのだ。
「今ならば、シビュラの気持ちも分かる。だが、この身は縛られている故、手加減などできんぞ」
「ん!」
ロブは確かに強いが、一度は勝利した相手だ。フランは、余裕をもってロブの攻撃を捌いているように見えた。
ただ、戦ううちにフランの表情が曇り始める。
『どうしたフラン?』
(なんか、変)
どうも、フランが自身の動きに違和感を持ったらしい。動こうとすると、一瞬遅れるように感じるようだ。
『消耗のせいじゃなくてか?』
(違う)
他の人間ならレイドス王国を覆う微かな邪気の影響かとも思うが、俺たちにはそれはない。ならばと大地やその下に感覚を向けると、魔力が渦巻いている様子が感じ取れた。幻影魔術などの魔力に近いかな?
生命力や魔力を吸い取る結界は消えたが、それだけではなかったらしい。レイドスの大地の下では、生物の感覚を惑わせるような魔術が展開されているようだ。
レイドスの主力は死霊だ。非常に相性がいい魔術と言えるだろう。こちらの仲間たちが気づいていないのは、その影響が微弱なことと、邪気によってそもそも感覚が乱されているからだろう。
フランの周囲に、浄化魔術で結界を張ってみる。
『どうだ?』
(ん。変なの消えた)
フランの動きが、明らかに改善した。ここまで、フランの動きがやや鈍いのは、消耗のせいだとばかり思っていたのだ。もっと早く気付けていれば、アポロニアスとの戦いでも傷つかずに済んだかもしれない。
だが、フランの調子が戻ったのなら、ロブとの戦いはさらに余裕が出るだろう。俺も守りに割くリソースを減らし、ロブだけにしっかりと集中できる。
『邪神の信頼、起動!』
「むぅ! 何が……」
『抵抗が、やばいな!』
「ぬうううぅぅぅぅん!」
干渉が弾かれた!
アヴェンジャーは元から邪神に対して好意的だったが、ロブは邪神の信奉者ってわけじゃないからだろうか?
ともかく、このままでは支配は成功しないだろう。
『なら、こうだ!』
今度は、聖浄魔術のホーリーゾーンを使用してみた。浄化効果自体はピュリファイに及ばないが、一定範囲を浄化の結界で囲んで長時間浄化し続けることが可能だ。
結界で弱体化させて、支配してやる!
だが、ロブが強すぎて一瞬で結界が消し飛ばされていた。
(師匠、もっと強い術、今すぐ覚える?)
『……そうだな。聖浄魔術を成長させよう』
この先、邪神の欠片との戦いが控えているかもしれない。戦うにしろ逃げるにしろ、聖浄魔術のレベルを上げておいて損はないはずだ。
俺は、その場で聖浄魔術にポイントをつぎ込んだ。レベルを、5から10へと一気に上昇させる。
《聖浄魔術がLvMaxに達しました。聖浄強化がスキルに追加されます。フランが称号、聖浄術師を獲得しました》
《条件を満たしたことでユニークスキル、魔導神髄を獲得しました》
《フランが称号、神術師を獲得します》
せ、聖浄魔術だけではなく、なんか凄いスキルと称号ゲットしちゃったよ!
魔導神髄は、魔術使用時の反動軽減、消費軽減を併せ持ったスキルのようだ。上位の魔術を複数LvMaxにすることが条件らしい。
ユニークスキルだし、かなり強いんじゃないか?
神術師の称号は、その名の通り神術師に転職可能な称号っぽい。剣王の時と同じだろう。まあ、フランが術者系の職に転職するとは思えないが、持っているだけで魔力の使用効率が上昇するようだった。
魔導神髄と合わせたら、俺たちの魔術運用効率はかなり強化されただろう。守護神の盾といい、いいスキルを短期間でゲットできているな!
『聖浄魔術の極大魔術は――使えるぞ!』
(ん!)




