1251 アポロニアス猛攻
射出された数十の剣が、アポロニアスへと襲い掛かる。
回避は不可能。
無数の剣が、その体に突き刺さった。しかし、相手は普通ではない。
「やるでは、ないかぁ……!」
障壁などなくとも、その肉体は恐ろしいほどの強度を誇っていたのだ。魔剣は完全には突き刺さらず、先端が僅かに刺さった程度で止まってしまっていた。
そして、動きを取り戻したアポロニアスの全身から火炎が放出されると、魔剣が溶けて消滅する。
「この程度で、我はやれぬぞ! うぜやああああぁぁぁぁっ!」
『やべっ!』
咄嗟に、転移で上空へと逃げる。アポロニアスがその全身から、さらに強大な火炎を放出しやがったのだ。
攻撃が当たらないなら、周辺全てを潰してしまえってことなんだろう。他の英雄ゾンビたちは、しっかりと距離を取ってやがる。
アポロニアスがこういう攻撃に出ることを、分かっていたんだろう。
アマンダは鞭を高速で繰り出し、炎を掻き消しながら退避している。だが、フォールンドは炎に呑み込まれていた。突進してきたアポロニアスから逃げきれなかったのだ。
火炎のもたらすゴウゴウという音に紛れて、金属音が響いてくる。内部で、フォールンドとアポロニアスが戦っているのだろう。
そして、周辺30メートルほどを覆う火炎の渦が収まる前に、その中からフォールンドが弾き飛ばされてくるのが見えた。腹から血が噴き出している。
「フォールンド!」
『まてフラン!』
「!」
フォールンドを助けに向かおうとしたフランだったが、背後で殺気が膨れ上がっていた。俺も気づけなかった! 転移できたのか!
そこにあったのは、ハルバードを振り上げるアポロニアスの姿だ。しかも、武器の凶悪さが増している。アポロニアスの炎がハルバードに絡みつき、溶岩のように赤熱していた。
俺は咄嗟に、背後に障壁を重ね張りする。俺の障壁とフランの障壁が重なり合う、強固な壁だ。
だが、アポロニアスの渾身の一撃によって、多重の障壁は軽々と切り裂かれていた。それでも、一瞬抗したことによって、フランは刃をギリギリ回避する。
「くっ!」
「これで決まらんかっ!」
炎を目眩ましにした転移に気付けず、火炎による火傷を負わされたフランと、渾身の一撃を無防備な相手に躱されたアポロニアス。
双方が悔し気に呻く。
だが、フランが止まっていたのは一瞬だ。そこから黒雷転動でアポロニアスの背後に回り、斬撃を放つ。
神気を込めた一撃はアポロニアスの障壁を切り裂き、その腕を深々と切り裂いた。しかし、こちらの攻撃と同時にアポロニアスが背後に向かってハルバードの石突を突き出し、反撃を行っている。
フランは大きく跳び退き、両者の距離が離れた。
「……これも当たらんとは! ちょこまかと!」
アポロニアスが段々と苛立ってきたのが分かる。身体能力も魔力も自身の方が圧倒的に勝っているはずなのに、格下の小娘を仕留めることができない。
まともにダメージすら与えられないんだから、平静ではいられないんだろう。
アポロニアスのギアがさらに一段上がった。全身から火炎を放出し、その反動でトリッキーな動きを見せる。スピードもパワーも、最早操ることが可能な限界ギリギリなのだろう。
フォールンドと共に、アポロニアスと打ち合う。アマンダは、再びベガレスとジンガを抑えにかかっていた。本当に助かる。
フランに何も言われずとも、危険な遠距離攻撃持ちが邪魔だと判断したんだろう。その動きは、驚くほど速く、鞭の鋭さは俺たちでさえ感知できないほどだ。
以前、武闘大会でアマンダと戦ったが、あの時とは別人のように強い。称号のせいなんだろうな。
アマンダの持つ子供の守護者は、子供を守る時には力を与え、子供と戦う際にはマイナスの効果があるはずだ。場合によっては、称号が取り上げられる可能性もある。
武闘大会は殺し合いではなかったから戦闘行為自体は可能だったが、アマンダの能力はかなり減少していただろう。ステータスに変化はなかったように思うが、何らかのデバフ的なものはあったはずだ。
逆に、今のアマンダは子供の守護者の力を十全に発揮している。フランや、アレッサに住む子供たちを守ろうとしているからな。
「甘いわ! 私を無視してフランちゃんを攻撃できるなんて思わないことねっ!」
「くそ! 厄介な鞭め!」
「ええい! 躱せぬ!」
アマンダは、元赤騎士団の団長2人を完全に抑え込んでいた。これが、アマンダの本当の姿なんだろう。
アマンダのお陰で、俺たちの相手はアポロニアス、ロブ、ルッカード、ヴィオレッタだ。とは言え、まだ数では負けている。
それに、舐めてはいけない相手ばかりなのだ。
「ルッカード! 合わせなさい!」
「くらうっす!」
その証拠に、大人しいと思っていたヴィオレッタとルッカードが、いきなり火炎魔術と暴風魔術を放っていた。密かに準備していたのだろう。
ヴィオレッタの生み出した火炎が、ルッカードの放った風にあおられ、周囲を荒れ狂う。
アポロニアスごとの攻撃だが、火炎纏う英雄ゾンビは楽しげに笑い続けていた。それどころか、捨て身で近づいてきて、攻撃を放つ。
「ふはははは! 楽しくなってきたじゃないか! おらぁぁ!」
「!」
『やばい!』
イザリオと同じように、自身の体を火炎化しやがった! こんな能力を隠していたとは!
もう、回避も魔術も間に合わん!
フランの一撃を火炎化してすり抜けると、渾身の斬撃を繰り出すアポロニアス。ハルバードの刃が、フランの腹を薙ぎ払った。
深い傷とともに、フランの内臓が焼けるのが分かる。熱が肺まで炭化させたのか、フランの口から黒い煙が吐き出されていた。
「ごっほ……」
『フラン!』
回復魔術を使いながら転移で背後へと逃げて、さらなる回復を図る。だが、転移した直後、目の前にアポロニアスがいた。
「逃げられんぞ!」
転移して逃げたはずなのに、目の前にアポロニアスがいた。くっそ!
これ以上は逃げられん。こうなってはもう、潜在能力解放を――。
俺が覚悟を決めた瞬間、フランとアポロニアスの間に何かが飛び込んできていた。そして、アポロニアスが振り下ろしたハルバードを、赤髪の人影がその身を以って受け止める。
「どういう状況だい! これは!」




