1250 鞭と剣
アポロニアスに対して何度か反撃を加えるが、あっという間に再生される。この状態で、他の英雄ゾンビたちが隙をついて攻撃を加えてくるのだ。
1対1であれば、アポロニアス以外なら勝てる相手だろう。だが、これだけ完璧に連携されると、反撃の機会は本当に少なかった。
アポロニアスをカバーするように、他の5人が完璧に動いている。面倒なのが、血死の赤い霧と、茜雨の赤い矢だろう。
赤い霧が途切れないせいで浄化魔術を常に使い続けなくてはならず、リソースをかなり割かねばならない。
曲芸のようにあらゆる方向から襲ってくる矢も、回避するのに集中せねば危険だった。
あと、緋眼も地味に厄介だ。眼の強化というあやふやな情報しかなかったが、その実、非常に強力な効果だった。
こちらのフェイントは全て見抜かれるし、時おり放つ反撃も躱される。俺とフランの攻撃が、全て見抜かれているのだ。視覚が強化されるということは、脳そのものの情報処理速度も強化されているようだった。
それでも範囲攻撃や転移からの攻撃で時おり攻撃を当てるんだが、一瞬で回復されてしまう。普通だったら、心が折れてもおかしくはない。
それでもフランが戦い続けられるのは、クリムトを守るという覚悟と、近づいてくる仲間の気配のお陰だった。
最初に戦場に訪れたのは、鋭い鞭の一撃だ。視界に捉えられないほどの速さで、鞭が戦場を荒れ狂う。
英雄ゾンビたちもアマンダが近づいていることに気付いていたはずだが、想定以上の攻撃速度に対応しきれなかったようだ。
ヴィオレッタとロブが、鞭で吹き飛ばされていた。
「フランちゃん囲んでなにやってんじゃー!」
「アマンダ!」
「おらぁぁぁ!」
「ぐぼぉぉ!」
アマンダがブチギレているな。未だに暴れる鞭の隙間から飛び込んできたかと思うと、そのままアポロニアスにドロップキックをかまし、吹き飛ばしたのであった。
身に纏っていた風により、アポロニアスの炎も吹き消したらしい。足も無傷だ。
「フランちゃん! お待たせ!」
「ん」
アマンダはそのまま、後方にいた茜雨のジンガと、朱炎のベガレスへと突っ込んで行った。
そうやってアマンダに敵の視線が集まった瞬間、空から無数の魔剣が降り注ぐ。魔剣によって気配を消していた、フォールンドの仕業であった。
魔剣そのものは致命傷にならずとも、相手には強者が援軍にきたと見せつけられただろう。これでこちらがさらに有利になった。そのはずなんだが――。
「ふはははは! いいぞ! さらなる強者の登場とは! 滾ってきたぞおおぉぉぉぉぉ!」
アポロニアスが喜色満面で、叫ぶ。それだけではない、明らかに魔力が上昇していた。
「敵が強ければ強いほど、燃えてくるなぁぁ!」
そこからアポロニアスの猛攻が始まった。纏う濃密な魔力で眩いばかりに輝くハルバードを、目にも留まらぬ速さで振り回し、連撃を延々と繰り出し続ける。
攻撃のたびに火炎が津波のように放たれ、真っ赤な炎が舞い踊った。
アポロニアスは、さほど高度なことをやっているわけではない。武術スキルはフランやフォールンドの方が、明らかに上なのだ。
しかし、圧倒的なステータスによって繰り出される攻撃は、技術を補って余りある鋭さがあった。多少の技術の差などでは埋めることができない、凄まじい威力なのだ。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。
武器による戦いが行われているとは思えない、激しい破砕音と衝撃が周囲を揺らした。そして、大地が真っ赤に焼け焦げる。
フォールンドは、魔剣を入れ替えながらなんとか直撃を避けていた。火炎や衝撃波を防ぐ魔剣とか、あんなピンポイントの剣もあるんだな。
だが、防御に手いっぱいで攻撃を仕掛ける余裕はない。
フランも似たようなものだ。アポロニアスの手数の多さに遮られ、中々攻撃を返すことはできずにいる。
しかも、紅旗のロブや、血死のヴィオレッタが合間合間に攻撃を仕掛けてくる。休む間もなく、防御を余儀なくされていた。
対して、アポロニアスはまだまだ元気だ。ゾンビなのだから、魔力が尽きるまで同じことを繰り返すことが可能だろう。このまま、延々と削り続けられるかもしれない。
(師匠、少し無茶する)
『……仕方ない! 分かった! 合わせる!』
(ん!)
フランは軽く頷くと、一気に跳び出した。障壁を全開にして、斬撃の隙間に飛び込んだのだ。
左右に数度の衝撃があるうえ、凄まじい炎が周囲を包む。
守護神の盾はクリムトの周囲に展開中なので、普通の障壁を使うしかなかった。そのため、無傷とはいかないが、フランは止まらない。
「!」
驚くアポロニアスに一瞬で肉薄すると、無言のままに黒雷を纏わせた俺を振り抜いた。
今のフランは、一瞬で黒雷神爪を発動できるようになったのだ!
アポロニアスはハルバードの柄で受けようとしているが、それを邪魔したのは俺の念動だ。ハルバードの軌道を逸らし、防御を邪魔する。
黒い雷の残像とともに、がら空きとなったアポロニアスの胴体に俺が叩き込まれた。同時に黒雷がその全身を走り、焼き焦がす。
「ぐがぁっ!」
ダメージ自体はさほどでもない。だが、全身を打つ雷撃によって、その動きがほんの一瞬だけ止まった。ゾンビが体を動かすために必要な全身を流れる魔力が、より強い魔力で一瞬阻害されたんだろう。
その刹那を逃すような、フォールンドではないのだ。
「くらえ」
無防備なアポロニアス目がけ、10を超える魔剣が即座に射出されていた。




