表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/1337

123 ルゼリオ

 屋敷の外からの絶叫。そして、膨れ上がる気配と兵士たちの悲鳴。


 ちっ、外の奴らもブルックみたいに変身しやがったな。


「ブルック! おいブルック! どうしたのだ!」

「近寄っちゃだめ!」

「ブル――ぐっ!」


 フランの制止も聞かずウルシに押さえつけられているブルックに近寄ろうとした領主が、ブルックの蹴りで吹き飛ばされる。


「ローダス様! 大丈夫ですか?」

「う、うむ」


 ダナンに助け起こされるローダス。痛みとショックで呆然としているな。


 その間にも、ブルックの変異は止まらない。目が漆黒に染まって瞳は消え、皮膚が目と同じように真っ黒に変化していった。そして、全身の筋肉が異常な程に肥大化していく。それなのに顔だけはほとんど元のままなのでメチャクチャ気色悪いな。


 本当なら叩き斬るところだ。だが、父親であるローダスの前でブルックを斬ったら恨まれるかもしれない。


 それに、元に戻せる可能性があるかもしれないし。こいつからは色々と情報を聞き出せるはずだからな。だとしたら、生かして捕らえておきたいんだが……。


「ぐるぁぁぁ!」


 ウルシの前足の下でめっちゃ暴れてるな。理性もぶっ飛んじゃってるし、大人しく捕まってくれそうもない。


 とりあえずもう一度、快癒の水を試そう。だめか。


じゃあ、アンチ・カースだ。だめだ。


進化したこいつにとってこの状態は異常や呪いではなく、普通の状態ってことなんだろう。


 だとすると、姿を戻すとか以前に暴れ続けるのを止めさせることも難しいな。狂化、暴走がデフォルトってことなんだから。


『フラン、動きを止められるかちょっと試してみよう』

「ん。ウルシは離れる」

「オン」

「――スタン・ボルト」

「ぐろぉ――ぎゃ!」


 よし、成功だ。ウルシからの圧力が消え、立ち上がろうとしたブルックは再び地面に寝転がっている。意識はあるようだが、麻痺状態にできたな。


『ウルシはこのままブルックを押さえてろ』

「オン」

『俺たちは庭に行くぞ』

「ん」


 フランは廊下に出ると、庭に面している窓を突き破って空中に飛びだす。


『捕まえた奴らが全員変身してやがる!』


 捕縛されていた男たちは、自分を捕まえていた縄を無理やり引きちぎり暴れ始めていた。数は10体。対して兵士は30人だ。だが個々の戦闘力が違いすぎるせいで、兵士たちが劣勢だった。


「どうする? 全員捕まえる?」

『……いや、倒そう。どうせ犯罪者だし。全員を捕えておくのも難しい。それに元に戻せたとしても、どうせ死罪だ』


 クーデターの加担者だからな。


「わかった」


 フランが空中跳躍を使い、空を蹴って真下に加速した。その勢いのまま1体を唐竹割にする。同時に俺は風魔術を使い、2体の首を落とした。


 元々荒事をしていただけあって、ブルックよりは強いな。脅威度で言ったらEくらいはありそうだ。


 しかし、俺達の敵ではなかった。3分もあれば殲滅完了だ。残念なことに、こいつらには魔石がないようだった。これだけ強いんだし、かなり魔石値が高そうなんだけどな。スキルも色々あったし。まあ、無い物は仕方がないけどね。


 化け物が倒されたことを理解した兵士たちが、疲労困憊の様子で座り込んでいる。


 ただ、俺達には兵士に聞かねばならないことがあった。お疲れのところ申し訳ないが、ちょっとだけ豪華な鎧を着た兵士長っぽい人に声をかける。


「ねえ」

「な、なんですか?」


 フランの圧倒的な戦闘力を目の当たりにした兵士長は、背筋を伸ばして緊張気味だ。恐怖と敬意が半々てところかな。


「屋敷の中にいたのは、これで全部?」

「は! そうであります! あとはあそこにいる女性たちだけです!」


 兵士長の視線の先には、固まって震える少女たちが居た。鑑定しても、特におかしいところはない。


「ゼライセっていう錬金術師と、リンフォードっていう老人はいなかった?」

「いえ、いませんでしたが」


 てっきり兵士たちに捕えられていると思ってたんだがな。俺たちが倒したイビル・ヒューマンたちにゼライセの顔はなかった。老人と呼べるほど老けた者もいない。


 黒幕はブルックじゃなかったってことなんだろうな。そして、何らかの方法で俺たちの行動を察知して、時限爆弾を残して逃げ去ったと。それとも、遠隔操作で変身させられるのか? どっちにしろ厄介だ。


 どうするか。ウルシの鼻に期待して追跡を試みるか、家捜ししてなにか手掛かりを探すか。


(ねえ、師匠)

『どうした?』

(あそこ)


 フランが指差したのは、奴隷の少女たちから少し離れた場所に転がされている、簀巻き状態の門番だった。


 あれ、こいつは変身しなかったのか?


 状態異常が邪心・興奮となっている。こいつと変身した奴らの違いは、暴化が付いていたかどうかだよな。多分、魔力水の摂取量とかで変わってくるんだろう。だったら、町中にいる邪心状態の人間が、全員変身するわけじゃなさそうだ。


 だからと言って放ってはおけんけどな。


 領主は――まだ使い物にはなりそうもない。目の前で息子が化け物になったんだし、無理もないだろうが。


 なので俺達はダナンに声をかけた。


「これで分かった?」

「ええ、貴女の言葉は真実でした。しかも、我らの想像以上に不味い事態の様です」


 変身する可能性がある者がどれくらいの数居るかは分からないが、10や20しかいないという事はないだろう。そいつらが市民の集まる場所で変身したら? 大惨事は免れない。


「兵士を集めて」

「分かっております。緊急事態ですからな。騎士団も動かしましょう」


 俺達はダナンに見分ける方法を教えてやった。


「なるほど、鑑定ですか。状態異常で暴化が付いていたら危険だと」

「ん」

「分かりました。何とか鑑定持ちを手配しましょう。冒険者ギルドに依頼を出してもいい。ただ、大ごとにはできないので、どこまで人を集められるか」


 全部の事情を大っぴらにしたら、それこそ領主の進退問題になるだろうしな。秘密裏に次男、三男を始末。魔力水を飲んだ市民を変身前に見つけ出して癒し、逃げたゼライセ、リンフォードを捕縛というのがこいつらの理想の流れだろう。


「できれば引き続き力を貸していただきたいのですが?」

「問題ない。これから錬金術師ゼライセたちを追う」

「お願いいたします。報酬は弾みますので」

「わかった。手がかりを探すため、屋敷を少し見て回る」

「それは構いません。これだけの屋敷ですから、隠し扉などもあるかもしれませんし」

「ん」


 さて、ここからはウルシの出番だ。ブルックは押さえ役のウルシに代わり、兵士たちが持ってきたロープでグルグル巻きにして確保してもらっている。


『ウルシ、ゼライセたちの臭いが強い場所は分かるか? 研究室や、隠し通路、なんでもいい』

「オン!」


 ウルシがクンクンと匂いを嗅ぎながら、屋敷を歩き回る。暫く嗅ぎ回っていたウルシは、最終的には地下へと続く階段を降り始めた。やはり地下か。


 そしてウルシが立ち止まったのは1つの部屋の前だった。


「オンオンオン!」

「中から気配はない」

『ここか?』

「オン!」


 フランが扉を開けると、そこはまさに錬金術師の研究室と言った感じの部屋だった。ジャンの研究室にも似てるな。


 錬金器具も色々置かれている。ああ、欲しい! 使っても売ってもいいし。でもここは領主に接収された扱いだろう。勝手に貰ったら窃盗だ。ゼライセを追うのに必要と言っても無理がある。


『諦めるか……』

「ん」


 ただ、それ以外にはあまり貴重な物は置いてないな。薬や素材はあるけど、そこらで手に入る物ばかりだ。

 

 資料らしきものを見てみても、正直訳分からん。少なくとも、ゼライセたちの陰謀を突き止めるのに役立ちそうではないな。


 そう思ってちょっとがっかりしていたら、ウルシの目的はこの部屋ではなかったらしい。


 本棚の前に座り、カリカリと壁をひっかいている。


 もしかしてあれか? 隠し通路的な物があるのか? 俺は壁の前に立ってみたが、継ぎ目などがあるようには見えない。


 コンコンコンコン


 念動で壁を叩いてみる。他の壁と比べてみると、確かに音が軽いな。


 どこかに仕掛けがあるのか? 定番だと本棚とか怪しいんだけどな。もしくは壁のどこかに凹む場所があったり? うーん、ちょっと楽しくなってきたぞ。


「師匠、どうしたの?」

『いや、ここに隠し扉があるみたいなんだが、開け方が分からないんだよ。フランも――』

「こうすれば?」


 ドン!


 フランが思い切り喧嘩キックを壁にくらわせた。部屋全体に強化魔術が掛けられているはずなんだが……。隠し扉が後ろに押され、継ぎ目がはっきりと分かる。


『フラン?』

「もう一度」


 ドガン!


 今度は胴回し蹴りだ。部屋全体に揺れが走る。そして壁が後ろに倒れ、下に続く階段が露わになったのだった。


『……うん、開きゃいいんだけどね』

「? 行こう」

「オン」


 再びウルシを先頭に、階段を下りていく。しばらく下ると、土を掘って作った長いトンネルが続いていた。罠の類はないようだ。まあ、脱出路に罠はしかけないよな。


「……誰かいる」

『ああ、殺気むき出しだな』


 イビル・ヒューマンにも反応しなかった危機感知が反応している。単なる雑魚じゃなさそうだ。


『戦闘準備は万全で行くぞ』

「ん」

『ウルシは隠れておけ』

「オン」


 慎重に進むこと5分。20メートル四方のちょっと広い空間に出たな。その中央にこの空間を覆いつくす殺気の元凶がいた。


 見ているだけでムカついてくるニヤニヤ笑いを顔に張り付けた優男だ。


「あの隠し通路に気づいたのがどんな奴かと思ったら、まさかこんな小娘だったとはなぁ?」

「錬金術師ゼライセの部下?」

「はぁ? この俺様があんな根暗雑魚野郎の部下なわけねーだろ!」



名称:ルゼリオ  年齢:36歳

種族:人間

職業:隠槍士

状態:邪心

ステータス レベル:35/99

HP:266 MP:214 腕力:131 体力:129 敏捷:178 知力:90 魔力:121 器用:130

スキル

暗殺:Lv5、隠密:Lv4、回避:Lv5、気配察知:Lv4、剣術:Lv2、拷問:Lv6、瞬発:Lv5、槍技:Lv7、槍術:Lv8、短剣術:Lv3、毒耐性:Lv3、麻痺耐性:Lv6、罠感知:Lv2、気力操作、痛覚鈍化

称号

虐殺者、苦痛を与えし者、邪神の下僕

装備

ミスリルの尖槍、毒猿牙の短剣、黒狼の全身革鎧、ミスリルの暗器篭手、隠密の外套、耐暑の腕輪、逃亡補助の指輪



 拷問スキルか。初めて見た。


拷問:レア度3・拷問の際、アイディアが湧いてくる。また、相手の苦痛の度合いを測れる。


 しかも虐殺者、苦痛を与えし者の称号持ちだ。かなりのクズ野郎だと思われた。あと、こいつも邪神の下僕の称号がある。


 ブルックたちの称号は邪神の奴隷。こいつや、イビル・コボルトは邪神の下僕。どんな違いがあるのか……。でも、鑑定でも説明を見れないんだよな。不明としか表示されないのだ。


「じゃあ、ゼロスリードの部下?」

「は? なんて言いやがった? 俺がゼロスリードの部下ぁ? ざけんな! この俺様があの脳筋の下だっていうのか!」


 なんかスイッチ入っちゃった? フランの言葉が奴の癇に障ったらしい。ゼロスリードと知り合いなのは確からしいが、仲は良好とはいえないようだな。


「俺は偉大なる邪術師リンフォード様の部下よ! ゼロスリードみたいな戦い以外に能の無いカスと違って、優秀な俺様はリンフォード様の腹心なんだよ!」


 邪術師ね。初めてのリンフォード個人に関するまともな情報かもしれん。じゃあ、今回の騒動はゼライセよりもリンフォードの方が首謀者なのかもしれないな。


 それに、腹心をこんな場所の足止めに使うか? 使い捨て感が半端ないんだが。


『とりあえず捕まえて情報を吐かせよう』

「ん」

「くはははぁ! やる気か? 後悔させてやるよクソガキィ!」


 ルゼリオは哄笑をあげながら、槍を構えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  虐殺とか、拷問とかで善悪の判断してるけど、フランとか師匠もおなじことしてるよね。  暴力が普通の世界なら、もっと違う基準で相手の善悪を判断しないといけないのでは無いかと思う。まぁ、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ