1244 守護剣王
(師匠、どする?)
『うーん。戦いの前に、転職するのもな……。でも、明らかに剣王よりも上の職業だよなぁ』
俺が一番怖いのは、剣神化を失ってしまうことだ。あれは職業の固有スキルだからな。だが、今は神気だけであれば自力で使えるようになった。
これから行う魔術による大軍殲滅作戦では、剣神化を失っても大きなマイナスじゃないか? だが、強い敵が出たら使いたいしな……。
俺が悩んでいると、フランがねだる様に口を開く。
(転職していい?)
『したいのか?』
(ん。ネルがせっかく誘ってくれて、新しい職業見つけた。きっと、強い)
フランは、何か運命的なことを感じているらしい。
それに、剣王よりもさらに上位の職業となったら、それこそ最上位職と言っても過言ではないだろう。
『……!』
うお! なんだ? 邪神の欠片が、メッチャアピールしてやがる。どうやら、この職業を選べと言っているらしい。邪神の神託ってわけか?
『……!』
ああ! もう! わかったよ! このまま騒がれ続けちゃ、戦闘に集中できんからな!
(師匠?)
『いや、大丈夫だ。転職、してみるか?』
(ん)
邪神の欠片の後押しもあり、俺たちは守護剣王を選択した。
守護剣王:多くのモノを守護したいと願う剣王だけが選べる、その先。
明確な転職のための基準は表示されなかった。ユニークスキルなどと同じだ。まあ、これは予想していた。
しかし、予想外のことも多かった。まず、剣神化を失わずに済んだのだ。剣王職であれば、デフォルトのスキルなのかもしれない。
さらに、新たにスキルと称号を得ていた。新スキルは『守護神の盾』。神の力を借りて、障壁を張ることが可能になるスキルであるようだ。神気の障壁を張りやすくなるってことかね?
守備面が強化されたのは素直に有難い。剣王って、やられる前に斬ればいいって感じの攻撃特化職だったからな。
そして、称号だ。転職した瞬間、職業と同じ『守護剣王』という称号を得たのである。効果はこちらもフワッとしていて、『その剣を以って守護する存在が増えれば増えるほど、ステータスが上昇する』という内容だった。
アマンダの子供の守護者や、ダンジョンのスケルトンがもっていたダンジョンの守護者など、これ系統の称号は見たことがある。
称号の効果が発動している間は、かなり強化が見込めるだろう。いいものを手に入れたのだ。
「ネル、ありがと。おかげで、また強くなれた」
「ううん。私たちは応援することしかできないから。生きて帰ってきてね?」
「ん」
ネルは口では送り出すようなことを言いつつも、その瞳は不安で揺れている。仲の良いアマンダやドナドロンドが、未だに未帰還だからな。
強者と言えど、絶対に安全な戦場なんてないと思い知ったのだろう。それでも笑顔でフランの背中を押そうとしてくれている。
「絶対、戻ってくるから」
「ええ」
「じゃ、いってくる」
「はい」
ネルとクリムトに見送られながら、フランがウルシの背に跨った。
いや、彼らだけではない。職員や兵士、町の人々も。フランに手を振ってくれている。そんな彼らの声援を背に、再び俺たちは出撃した。
上空から見下ろすアレッサは、地震の混乱からようやく復活し、人々の賑わいも戻ってきている。だが、結界が消えたことで、何か起こるのではないかと不安げだ。
孤児院の庭には、子供たちが勢ぞろいしている。その中の誰かが、こちらに気付いたのだろう。皆で手を振ってくれるのが見えた。ああいうのを見ると、ジーンとしちゃうね。
「絶対に、護る!」
フランがそう呟いた瞬間、その体が青白い光に包まれた。間違いなく、守護剣王の効果だろう。実際、ステータスが1割以上上昇しているのだ。
『おう!』
「オン!」
俺たちが最初に目指すのは、最もアレッサに近い死霊の軍勢である。俺たちが散々嫌がらせをしてやった、あの大軍だな。
北へ進むと、再び邪気を纏う死霊たちの群を発見した。
『騎士たちは、もっと北にいるか?』
(ん。呑み込まれてない)
まずは、騎士たちの下へと向かう。
すると、小川の畔で馬を休ませながら、自分たちも休息をとっている騎士たちを発見した。結界の魔道具を使い、外から発見されないようにしているようだ。
俺やフランから隠れられるほどではなかったので、上位の魔道具ではないんだろう。
「無事?」
「おお、黒雷姫殿! 死霊どもは、どうなりました?」
「先頭が、この少し先にいる」
「なるほど……」
どうやら、俺たちが想像していた以上に死霊の足は速く、騎士たちは追いつかれそうになったらしい。疲れを知らない死霊と、騎士を乗せた馬では、長時間の追いかけっこは分が悪いってことなのだろう。
そこで一か八かアレッサへと一直線に進むルートから外れ、結界の魔道具を使って休息を取ることにしたらしい。
「もともと、我らのことなど眼中になく、最初からアレッサを目指していただけかもしれませんが」
疲労を隠せない様子で肩を竦める騎士団長に、フランが作戦を伝える。まあ、派手に魔術を使うから、巻き込まれないように距離を取れと言うだけなんだが。
騎士たちも、あの軍勢に自分たちが突撃を仕掛けたところで、無駄死にだと分かっているのだろう。
素直に頷くのであった。
「では、我らは迂回するルートでアレッサを目指します」
「ん。そうして」
「……ご武運を」




