表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1241/1337

1239 ポティマ

 ポティマに勝利した俺たちは、その遺体を収納し、急いで村へと戻った。


 すでに戦闘は終了しており、こちら側には被害なし。相手は数人を残して倒されていた。


 まあ、シビュラとエイワースがいるからね。


 すでに、尋問中だ。何とか耐えているやつらもいたようだが、変わり果てたポティマの姿を見て心が折れたらしい。


 その後はあっさりと質問に答えるようになっていた。


「では、今回の動きはポティマの独断であったということか?」

「そうだ……。団長が、北に邪神復活の兆候有りと言い出して……」


 今エイワースたちが話を聞いているのは、この中でポティマの次に強いと思われる男だ。副団長の1人であるらしい。


 そもそも、傭兵団『邪人狩り』は、複数の小国の出資で成り立っている傭兵団だ。決められた任地から全団員で離れるような真似、許されてはいない。


 傀儡のポティマは全く気付いていないが、その行動指針は小国家群の都合に左右されているのだ。


「最初は、団長の力を上手く使おうってことだったんだ……」


 今から十年以上前。


 いくつかの国境線が交わる、どこの所属なのかもあやふやな辺境の土地。どの国も積極的に自国に組み入れようとはせず、あえて所属を曖昧にして他国との緩衝地帯にしていたひなびた山奥。


 そこで、ある事件が発生した。


 オークの増殖と、暴走である。ダンジョンマスターであったというわけではなく、むしろ逆だ。


 オークがダンジョンを攻略し、オークキングへと成り上がったのだ。結果、死んだダンジョンを拠点にオークキングが配下を生み、オークの軍団が誕生した。


 辺境であったがために誰からも発見されず、膨れ上がっていくオークの数。そして、オークの軍団は遂にダンジョンから溢れ出し、周辺を侵略し始める。


 アレッサで発生したゴブリンスタンピードと似ているが、オークキングがダンジョンマスターではない分、補充は遅く、削れば削るだけ減らすことは可能だった。


 だからと言って、このオークスタンピードの方がアレッサのものよりも危険度が低いということではない。なんせ、ゴブリンよりも数倍強い、オークの集団暴走なのだ。


 10を超える村があっという間に飲み込まれ、周辺国ではその対処に頭を悩ませた。南方小国家群では魔獣が少なく、対処に慣れていなかったのだ。冒険者も少なく、傭兵は対人戦特化で魔獣に不慣れ。


 そもそも、この近辺の国々は小国家群の中でも特に小さく、王都の城塞都市以外には碌な町もないという規模の弱小国家ばかりだった。


 騎士団でさえ、千人は超えず。国内の全兵士と合わせても、三千には届かない。そんな規模なのである。土地が痩せており併呑する旨みもないことから、従属国として生かされているだけの国ばかりだった。


 とりあえず編成した300ほどの騎士団を送り込むものの、どの国の騎士たちも大きな戦果は挙げられなかった。


 むしろ、100匹ほどのオークの分隊に、散々に追い散らされる体たらくだ。


 そんな中、異変が起こる。各地で暴れ回っていたオークの分隊が、何故か一斉に退却し始めたのだ。まるで潮が引くように、完全に姿を消したオークたち。


 各国は嵐の前の静けさかと警戒しつつも、騎士と傭兵を使ってオークの捜索を進めた。そして、彼らは驚愕の現場に居合わせる。


 千を超えるオークの死体が散乱する村の中、1人の少女が血まみれで立っていた。状況から鑑みて、この少女がこの惨劇の立役者であることは疑いようもない。


 一体、何が起きたのか?


 少女の名前はポティマ。先年、獣人国から両親とともに渡ってきた移住者であった。両親は何らかの罪を犯したらしく、小国家群で身を潜めていたのだ。どうも、獣人国での政変で、負けた側に付いて汚れ仕事を行っていたようだった。


 小国家群に姿を現した時点で、獣人の奥の手である覚醒を会得していたそうだ。


 だが、さすがにオークの大軍勢には敵わない。父が倒れ、母が倒れ、遂にポティマも限界を迎えようとしていたその時、彼女は神の声を聞いたという。


 そして力を与えられ、オークの王を倒すことに成功したのだ。王の死によって混乱した群れを襲い、さらにその血肉を糧としながら戦い続けたポティマは、レベルアップとスキルの成長により、圧倒的な強さを手に入れていた。


 そこから始まるのが、ポティマの争奪戦だ。これ程の戦力、絶対に他国には渡せない。しかし、自国で保有しようにも、無理に断行すれば周辺国すべてを敵に回すだろう。


 しかも、ポティマは気狂いと呼ばれるほど、神に傾倒し、邪人への憎悪を募らせていた。邪人と見れば他人の獲物であろうとも殲滅し、邪気を少しでも感じる文物はどれほど無茶であろうとも破壊したのだ。


 王城の宝物庫に侵入して悪びれもせず「邪悪は滅ぼしました」と笑う少女を見て、各国はその手綱を自国だけで握ることは諦めた。いざというときに、責任を自国だけで負うことを嫌ったのだ。


 結果、複数の小国家が出資して、ポティマを上手く運用するための傭兵団が作られたという訳だった。


 最初は、小国家群から送り込まれた、元騎士や元兵士が傭兵として在籍していたらしい。邪人に復讐を誓う団員が増えた今でも、幹部は全員各国の息がかかった者だけで構成されているそうだ。


 普段は邪人狩りをしつつ、小国家から降りてくる任務を遂行しているという。それも半分近くは「あれらは邪人を匿っている」などの虚偽の情報でポティマを動かし、邪神とは何の関係もない山賊や反乱分子の処分をさせられていたそうだが。


 ただ、いつしかポティマは自身に盲目的に付き従う崇拝者を増やし、国の思惑を超える動きをするようになっていく。


 特に、今回の盗賊を使ったクランゼル王国への陰謀は、ポティマの独断であるようだ。いや、ポティマ崇拝者の中にそう言った陰謀が得意なものがおり、その男の策を承認したということらしいが……。その男も、他の小国家群から送り込まれた密偵であったらしい。


 そんな彼女の最終的な目的地は、レイドス王国だった。その行きがけに、最近情報を得られた邪竜と邪剣を排除しようと考えたようだ。


「ああ、我が国は、これからどうやって邪人を退ければ……」


 ポティマへの謝罪や悔悟のことばじゃなくて、最後まで自分たちのことかよ。


 フランはあれだけポティマに殺意を抱いていたにもかかわらず、どこか不機嫌そうだ。


『フラン?』

(ポティマは嫌いだけど……こいつらはもっと嫌い)


 そう言って、キュっと唇を噛みしめるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >「ああ、我が国は、これからどうやって邪人を退ければ……」 あれ?こいつらランクB~C相当の強さじゃなかったっけ? それくらい強さあれば小国なら十分強者の部類なような
[気になる点] >ただ、いつしかポティマは自身に盲目的に付き従う崇拝者を増やし、国の思惑を超える動きをするようになっていく。  ポティマの敵討ちとして崇拝者達が大挙して押し寄せる展開もあり得るかな?…
[一言] とりあえず邪人狩りの連中は正体不明の賊として処罰して小国家は放置でいいかなー ポティマは教え諭す人間が誰かしらいればここまでの暴走はしなかっただろうし、 それを怠って都合のいい道具として扱っ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ