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122 進展と急転

 多少の逡巡はあるようだったが、決断すれば領主の行動は早かった。1時間もしない内に、館内にいた兵士たちを率いて出発する。


 大事にしたくはないのだろう。特に演説のような物もなく、兵士たちにはローダスの息子であるブルックとウェイントを保護するとだけ伝えられていた。


 俺たちも当然一緒についてきている。屋敷までの案内役が必要だしね。


『ウルシ、屋敷に次男の気配はあるか?』

(オン!)

『そうか』


 強権を発動して屋敷に踏み込んで、次男が居なかったりしたら色々と面倒だしな。


 領主は屋敷が視界に入る位置で兵士たちを一時停止させる。やはり躊躇いがあるようだ。今のところ物証がなく、怪しげな小娘の密告だけだし。誰の所有物かもわからない屋敷に、兵を率いて踏み込んで間違いだったら責任問題に発展する可能性だってある。

 

 ここは俺たちが先頭に立たないとな。


『フラン』

「ん」

「お、おい! どこに行くのだ!」


 領主の言葉を無視してフランが駆けだした。目指すは門の前に立つ門番だ。ここで押し問答して中に伝えられても面倒だし、とっとと捕まえてしまうことにした。こいつからブルックが居るという情報が得られれば、領主も動きやすくなるだろうし。


「あ――?」


 門番は言葉を発する間もなく、フランの拳で沈められる。攻撃する前に鑑定を使い、犯罪者&邪心状態であることは確認済みだ。


 とりあえず猿ぐつわを嵌め、手を縛る。そしてヒールをかけてから男の目を覚まさせた。


「むぐぐ!」

「静かにする」

「むぐっ!」


 腹を蹴られた男が、体をクの字に折って苦しがる。そんなことを数度繰り返すと、男は完全に従順になった。


 そこに領主が数人の側近と共に駆け寄ってくる。


「お、おい。いきなり何をしているのだ」

「ん? 尋問」

「拷問にしか見えんが……。そもそもこの男は誰なのだ」

「さあ? でも敵の一味」

「証拠は?」

「見たらわかる」

「つまり証拠はないという事か?」


 ローダスは頭を抱えてしまったな。鑑定持ちの俺たちと違って確信がある訳じゃないし、これで間違いだったどうしようと思ってるに違いない。


「今から質問をする。素直に答えたら、もう痛くしない。でも騒いだら殺す」


 フランの言葉に門番は、真っ青な顔で何度も何度もうなずいた。猿ぐつわを外すと、神妙な顔で自主的に正座をする。


「この屋敷の持ち主は?」

「イースラ商会だ! お、俺は単なる雇われ門番なんだ。詳しいことは知らねーよ!」


 ふむ、嘘じゃないな。


「イースラ商会?」


 フランの呟きに応えたのは、領主の側近の1人だった。ダナンと言う老人で、侍従兼内政官のような人物らしい。しかもランクD冒険者くらいの戦闘力もあり、中々優秀な人物だ。


「イースラ商会はブルック様傘下のトルマイオ商会の、さらに傘下にある商会ですね。阿漕な商売で嫌われています」


 トルマイオ商会はブルックの影響力もあり、そこそこ大きな商会らしい。ブルックの紹介で貴族相手に嗜好品を売りさばいており、コネや伝手も豊富だ。領主と言えど簡単に自由にできる相手ではないらしい。


 イースラ商会はそのトルマイオ商会に庇護されており、査察などが計画されるたびに横やりが入っていた。


「ブルック様は商売は家臣に任せていて、傘下の商会のことなど知らないとおっしゃられていましたが……」


 いやいや、どう聞いても嘘だろう。


「中にブルックと言う男はいる?」

「ああ、いる! イースラ商会の会頭がペコペコ頭を下げている奴だ。何時間か前に入っていった! よく来るから見間違えない!」

「最後の質問。お前らは色々悪いことしてる?」

「は、そ、それは……」

「ふむ」


 ドガ!


 フランの蹴りが男の背中に炸裂した。その痛みに涙を流しながら男が懇願してくる。


「がはっ! わ、悪かった! 答える! 答えるからもう勘弁してくれ!」

「最初から素直に答える」

「悪いことなんざ幾らでもしてるよ! 攫ってきた女連れ込んだり、敵対する商会に火着けたりな!」


 イースラ商会はトルマイオ商会なんかがやれない荒事を任されているようだ。実質はトルマイオ商会の暗部部門なんだろう。罪が露呈しても、イースラ商会を切り離せばいいしな。ブルックの権力があれば、全ての罪をイースラ商会に被せることも可能だろう。そのイースラ商会の拠点ということなら、こそこそ隠れて悪いことするには使いやすい拠点でもありそうだ。


「それはブルックも知っているのか?」

「この場所をよくご利用されているようですし、トルマイオ商会との関係を考えれば当然ご存じでしょうな」

「まさか、ブルックがそのようなことをしているとは……」


 この領主。典型的な身内に甘いタイプらしい。いや、身内を無条件で信頼してしまうタイプと言った方がいいか。


「俺はブルックってやつがハッスルし過ぎて殺しちまった、闇性奴隷の処分を任された奴の愚痴も聞いたことがあるぜ!」

「ば、馬鹿を申すな……ブルックがそのような……」


 口ではそう言いつつも、領主は息子に対して疑念を抱き始めたようだな。口調は弱弱しい。


「平民を見下す発言が目に余る故に後継者候補から外したが……。それで反省してくれればと」

「むしろそのことを不満に思い、荒れておられたようですな」

「そんな……ブルックよ……」


 荒れてるとかそんなレベルか? 兄を殺して爵位を簒奪しようとしているんだぞ?


「良かろう。ここにブルックが居るというのであれば、直接話を聞こう。いまの証言で踏み込む理由は十分だ。逆らう者は全員拘束し、ブルックを――捕縛しろ」

「はっ! 了解いたしました!」


 門番から奪った鍵で門を開けると、半分が屋敷を封鎖し、残った30人程が屋敷に突入する。


 屋敷にはブルックの配下がいたが、武装した兵士には敵わなかった。抵抗するも次々と捕縛されていく。鑑定してみると、どいつもこいつも状態が邪心、暴化となっていた。ブルックめ、部下にも魔力水を飲ませてやがるのか。まあ、それも直接聞いてみればわかるか。


 突入から5分。俺たちは遂にブルックの下へと到達する。ウルシの気配察知に間違いはないだろう。扉の向こうには確実にブルックがいるはずだ。


 ドガン!


 フランが扉を蹴破ると、ブルックは何やら机を漁っているところであった。どうやら騒ぎを聞きつけ、脱出するために金目の物を準備しているところだったらしい。


「な、何者だ!」

「ん。悪党に名乗る名はない」

「不法侵入しておいて何を!」

「不法侵入ではないぞブルック。犯罪に関係あると思われる組織に対する、正当な捜査だ」

「な、父上! なぜここに……?」

「それはこちらの台詞だ。犯罪組織の拠点に、何故お前が居る?」

「何をおっしゃられているのか――」


 ブルックが何やら言い訳をし始めたな。だが、俺にはもっと気になることがあった。

 

 こいつ、状態が邪心じゃね? ついでに暴化もついている。


 どういうことだ? 自分で魔力水を飲んだのか? だが、なんでだ? それに、暴化っていうのは邪心と関係があるのか?


 そこに兵士が駆け込んできた。


「屋敷の制圧が終わりました。中には賞金のかかった指名手配の者もおりましたが、全員捕縛完了です。全員屋敷の庭に集めてあります。また、地下で違法奴隷と思われる少女たちを数名保護しました」


 賞金首に、闇奴隷。これは動かぬ証拠だな。この屋敷にいて、知らないでは済まされない。


「ブルック、話は騎士団詰め所でじっくり聞こう。下手な言い訳が通用するとは思うなよ」

「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な! 馬鹿なぁぁ! 何故気づいた!」


 いやいや、なんで気づかれないと思ってたんだ? けっこう杜撰だったぞ? 陰謀を巡らせる知性派気取りなのかもしれんが、計画は穴だらけだったし。


 そもそも、騒ぎを起こして父親に責任を被せて、自分が領主になる? 侯爵が罪に問われるくらいの騒ぎだったら、どう考えてもお取り潰しじゃね? 少なくともそのままクライストン家が領主を続けることはないだろう。うーん、馬鹿だね。


 まあ、クーデターが事前に防げてよかった。あとは三男のウェイントを捕まえて明日の販売を防げば、これ以上被害も広がらないだろう。


 この屋敷にいる奴らは快癒の水を飲ませて、状態異常を治してやればいいか。


 そんなことを考えていると、ブルックが急に絶叫をあげた。


「ぐががああぁぁぁぁぁががぎゅあぁぁぁ!」

「お、おい! ブルックどうした!」

「ぐがががががああああぁぁぁぁぁ!」


 ブルックの体から黒いオーラのような物が立ち上る。お、おい! やばいんじゃないか?


『フラン! 快癒の水を飲ませろ!』

「ん! ウルシ、そいつを押さえる!」

「ガル!」


 痙攣しながら絶叫を上げ続けるブルックを、ウルシが前足で押さえつけた。フランは食事用の器に快癒の水を注ぐと、ブルックの口に近づける。だが暴れるブルックには、それくらいで水を飲ませることは出来ない。


「ウルシ、ひっくり返す」

「オン」


 次はブルックを仰向けにすると無理やり口をこじ開け、顔面目がけて快癒の水をドボドボと降らせた。


 さすがにこれは飲んだと思ったんだが――。


『間に合わなかった!』


 鑑定してみる。これって、どういうことだ?



種族名:イビル・ヒューマン:邪人 Lv1

状態:狂化、暴走

HP:61 MP:70 腕力:26 体力:31

敏捷:19 知力:33 魔力:36 器用:24

スキル

威圧:Lv2、体術:Lv1

固有スキル

邪術:Lv1

称号

邪神の奴隷

説明:不明



 ステータスが完全に魔獣だ。しかも邪人。進化したという扱いなのか、レベルが1に戻っている。だが、ステータスが高いな。俺たちの敵ではないが、一般の兵士ではきついだろう。


 もっと強い冒険者なんかが邪人化したらやばいかもしれない。


「ぎががあぁあぁぁぁぁぁぁぁ――」

「ぐががががぁぁぁぁぁ――」


 そして、外から幾つもの絶叫が聞こえてきたのだった。



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