1228 復興参戦
約束の1週間が経過し、フランも積極的に復興に加わり始めた。
フランが全部やる形ではダメと言われているので、主に魔獣の狩猟や、木材の確保を頑張っている。あと、魔術で畑を耕したりもしているな。
フランが頑張った甲斐もあり、外壁の大穴はすでに補修済みだった。あそこが直らないと、いつまでも魔獣に侵入される不安が付きまとうからね。
村人たちからは感謝されるとともに、「調子が戻ってよかったね」と言ってもらえるのだ。調子が悪いと嘘をついて手伝いをしなかったことで心苦しく感じることもあるんだが、あれはシビュラなりの気遣いだったのだろうとも分かった。
もし馬鹿正直に、「あなたたちのためにならないから手伝いません」と言っていたら? 納得してくれる人も多かっただろうが、中には不満に思う人もいたかもしれない。
それに、1度は納得した人の中にも、苦しい重労働の最中にふと、「手伝ってくれればすぐに終わるのに、なんで?」と、フランへの不満を感じる人が出たかもしれない。
そう考えると、嘘をついてでもフランが働けないと説明していた方が、結果的には良かったんだろうと思う。
当のシビュラはここ数日、考え込むことが増えた。国のことや自分たちのことを考え、どうするべきか悩んでいるんだろう。
あと、フランは開拓に参加できるようになってからも、子供たちの面倒をしっかり見ているのだ。意外と性に合っているらしい。
「おねえちゃん、どうしたの?」
「お腹痛いのか?」
「だいじょぶ。それよりも、草をしっかり刈る」
「はーい」
「おう! がんばるぜ!」
今も、子供たちと村の近くで作業中だ。
力のない少女やまだ小さい子たちは、草刈りを担当している。背の高い、レモングラスに似た草だ。こちらはほとんど無臭だけどね。
これを乾燥させて編み込むことで、ゴザや籠を作るらしい。
「ビスドラちゃん、上おさえてー」
「キュオ」
「ビスドラー、これあっちに運んでくれ!」
「キュア!」
ビスドラも一緒だ。シビュラに子供を守るようにと言われているらしいが、明らかに楽しんでいる。
むしろ、こっちがシビュラの狙いだと思われた。竜となってレイドスの呪縛から解放されたビスコットに、子供たちとの触れ合いを経験させてやりたいんだろう。
「じゃあ、私はこれ運ぶ」
「うわぁ! フラン姉ちゃんすげー!」
「しゅげー」
刈った草の束を軽々と持ち上げるフランを見て、子供たちが歓声を上げた。
この運搬だって、収納を使えば一瞬である。採取だって、風魔術あたりを使えば簡単にできるだろう。
しかし、子供たちにも村作りに参加したという経験が必要だと考えたシビュラによって、この作業が割り当てられていた。
年長さんたちは、芋掘りだ。食料にもなるし、蔓が籠などの材料になる。
「ウルシ! すげー! 穴掘り名人だ!」
「オンオン!」
「ううぇー! ペッペッ! こっちにかかってるよ!」
「どろどろー」
「オン……」
調子に乗って土を掘りまくったウルシが、子供に叱られている。こんな光景も、ここにきてからよく見るようになったな。
刈り取った草や芋を倉庫へと運び、子供たちの仕事は終了である。レイドスにいた頃は井戸で体を洗って解散だったのだろうが、この村では新たな習慣ができていた。
「風呂行こうぜ!」
「だな!」
「フラン姉ちゃん! お湯入れてくれよ!」
「ん」
「やった!」
クランゼル王国では比較的多くみられるお湯を張った湯舟だが、レイドス王国では珍しいらしい。水が乏しいうえ、クランゼル王国よりもさらに寒いからな。
どちらかというとサウナがメインで、薄着でも平気な季節は川や井戸で汗を流すことが多いようだ。
村人たちは最初はサウナだけを作っていたんだが、フランが待ったをかけたのである。フランはお風呂好きだからね。そして、サウナがあまり得意ではない。
そこでフランは、サウナに併設して露天風呂を作ったのである。
村人たちは最初は必要性を感じていないようだったが、言葉少なでありながら熱心に風呂の良さを語るフランに負けて、仕方なく許可するという感じであった。
フランも、自分の言葉では風呂の良さが伝わっていないことが理解できたんだろう。
魔術を駆使して数時間で風呂を作り上げ、村人たちを次々と風呂の餌食にしたのであった。以前買ってあったボディソープも大盤振る舞いで、風呂の中で冷やしたジュースのサービスも万全だ。
これで、風呂の良さを全く理解できない人間はそう多くないだろう。
結果、村人たちの日課に露天風呂が加わったのであった。
取水排水、湯の準備は魔道具だ。この辺の道具はクランゼル王国ではそれなりに出回っているので、ペリドットに頼めばすぐ手に入った。
「よっしゃー! 俺一番!」
「まってよぉ!」
「体洗わなきゃ!」
準備ができたと伝えられた子供たちが、お風呂に駆け出す。あー、風呂場で走ったら危ないぞ!
「ウルシ、ビスドラ。男の子をお願い」
「オン!」
「キュオ!」
ちょっと不安もあるけど、ウルシたちに任せるしかない。ああ、因みに風呂は男女別だ。こっちの世界の感覚だと混浴でも文句言われんかもしれないが、フランも使うからね!
俺が男女分けさせた。
「わたしたちもいこう! お姉ちゃん!」
「ん」
ミーミに手を引かれ、フランも女湯へと向かう。
「お姉ちゃん、頭洗って」
「ん」
「あー、ずるい! 私も!」
「わたしもー」
「ん。わかった」
「やったー!」
フランは大人気だな。少女たちに左右から引っ張られている。取り合いされて満更でもなく見えるのは、気のせいじゃないだろう。




