1222 レイドス人たちの処遇
フランの長く拙い説明を聞き終わった大勢の大人たちが、揃って息を吐く。聞いているだけで疲れたんだろう。
俺も疲れたよ。フランてば、戦闘のことなら結構スラスラ答えられるのに、他の部分は油断してると「わかんない」「知らない」を連呼しかねないからな。
あと、カレーがいかに美味しかったかっていう情報、本当にいらないから! 隙を見て差し込もうとするんだから! もう!
しかも、商人たちはちょっと聞きたそうだったし!
色々と大変ではあったが、それでもある程度の情報は伝えられたと思う。
「転移の理由は不明。敵の宝具の誤作動の可能性もあり、か」
転移に関しては邪神の仕業だとは言えないので、敵の宝具の仕業かもしれないと報告しておいた。
その情報に、ミッシュが眉を顰めている。
敵が国内奥深くに一瞬で軍団を送り込める可能性があるとなれば、不安を覚えずにはいられないのだろう。
「レイドスの公爵は何を考えている? 民を殺し、大地を穢し、農地や拠点を破壊し……。そこまでやっては、人が住めない土地になってしまうだろう?」
「いや、それが目的だろう」
「どういうことですか? ローダス様」
「我が国がその土地を手に入れたとしても、すぐには収入収穫を得られないようにと考えたのだろう」
「なるほど」
発言をしたのは、前領主のローダス・クライストン侯爵だ。元領主で侯爵という立場の彼がいてはミッシュがやりにくいのではないかと思うが、意外と上手くいっているらしい。
ギスギスとした感じはない。二人で協力して、バルボラを盛り立てようという気持ちが伝わってくるのだ。
政治はミッシュ主導で、軍事的な部分はローダス主導なのかな? 以前、ガムドがそうなればいいと希望していたが、実際に得意な分野を分担するようになったようだ。
「しかし、焦土作戦だとしても、自分たちが取り返した時のことを考えていないのでしょうか?」
「話にあった超人将軍というのは、実際に子供であるようだ。この者が暴走している可能性はある」
「外見が子供に見えるだけなのでは?」
「アマンダが実際に撤退している。心の内まで子供なのであろう。あの者は子供とは戦えんからな」
「もしくは、それ以外に狙いがあるか……」
「その可能性はある。民を生贄に捧げ魔力を回収していたという話も、それを裏付けている。焦土作戦がついでで、何らかの儀式を行うことが真の目的であったということはあり得るだろう」
ミッシュとローダスがフランの話を基に色々と話し合っている。
ただ、レイドスの思惑はここで話しているだけではわからないし、すぐに本来の目的を思い出したらしい。
村人たちについての相談をし始める。
「逃げてきた民たちは、元々レイドスに対して忠誠心があるわけではなく、むしろ否定的。そこに今回のことがあったわけですね。無体な扱いをしなければ、逃げ出す心配はあまりないかもしれません」
「うむ。いずれ里心が付くかもしれんが、今すぐということはあるまい」
「では、問題は多数の赤騎士たちというわけですか」
「厄介な問題であるな」
今は大人しいとはいえ、いざという時に対抗することすら難しい敵国の戦力だ。少なくとも、バルボラの現有戦力だけで抑え込むことは不可能だろう。
そんな連中を、復興中の町に置いておきたくはないらしい。
だが、言い方は悪いが、人質扱いでもある村人たちとひき離そうとしても、赤騎士たちは了承しないだろう。
それに、今はまだバルボラの人々には知られていないが、どこかで情報が漏れた際に反発が大きいことが予想された。
バルボラでは大勢の人が死に、レイドス王国を恨んでいる人間も多い。レイドス王国の人間だというだけで、その恨みの念をぶつけようとするものは多いはずだ。
そこで、民を守るために赤騎士が出てくれば? 小競り合いとなっただけでも大問題だ。バルボラの民は、領主にどうにかしてほしいと訴え出るだろう。
その訴えを無視すれば民が不満を抱え、受け入れれば赤騎士と敵対することになる。
ミッシュにとってレイドス王国の面々は、抱えているだけで火種となる厄介者だった。
「まだ詳しくは決まっていないが、近いうちにバルボラ外のどこかへと移ってもらうことになるだろう」
「どこか?」
「無体な真似はせんよ。放棄された開拓村がいくつかあるのだ」
ここ数年、バルボラでは人を募って開拓村をいくつか作っていた。だが、今回のことで市民が減ってしまったことで、開拓村から人を呼び戻したらしい。
そこで無人となった場所がいくつかあるそうだ。人がいなくなったせいで多少荒れている可能性はあるが、住めないほどに荒廃していることはないだろう。
レイドス人たちにはそこで畑を耕しながら、人目に付かぬように生活してもらうことになるらしい。
「援助はある?」
「無論だ。赤騎士たちには憂いなく我が国で過ごしてもらわねばならないからな。商会の者たちにも、物資の輸送などで手を貸してもらう予定だ」
なるほどね。だからここに商人たちがいたんだな。
金銭的な利は薄いかもしれないが、国に恩を売れるのは大きいのだろう。
「そこで、黒雷姫のフラン。依頼を一つ出したい」
「なに?」
「開拓村の様子を見てきてもらいたい。いくつか選定してはいるが、状態の確認まではできていないのでね」
(師匠?)
これは、彼らなりの配慮だろう。レイドスの民に好意的なフラン自身に移住先を決めさせることで、安心させる狙いがあるのだ。
また、赤騎士たちにとっても、フランが間に入っていれば信頼度は上がるだろう。
『変な陰謀とかもなさそうだし、いいと思うぞ』
「ん。分かった」
フランとしては戦場に戻りたい気持ちも大きいのだろうが、仲良くなったレイドス人たちを放ってはおけない。結局、ここでしばらく彼らのサポートをすることになりそうだった。
夏バテがなかなか改善しないので、今月末に1週間ほど夏休みをいただこうと思っています。
ご了承ください。




