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1219 ペリドット


『よし、想定よりも早く到着できたな』

(ん。みんな頑張った)


 レイドス王国一行――特に村人たちは、最後の力を振り絞ってバルボラへと到着することができていた。フランの配下とすることで進軍の戦乙女の効果を発揮できたとはいえ、村人たちは相当無理を重ねただろう。


 敵国とはいえ安全な場所に辿り着けたという安心感が、彼らの吐き出すため息からもよく解る。ああ、彼らにはここはクランゼル王国であるとは、既に告げてある。


 最初は驚いていたが、シビュラがすぐに落ち着かせていた。レイドス人の赤騎士への信頼感、やはり半端ないな。


 バルボラに到着すると、そこには文官風のローブを着込んだ1人の女性が俺たちを待っていた。黒髪ショートボブの、言っちゃ悪いが地味な印象の女性である。


 村人の護衛は赤騎士たちに任せて、シビュラたちとともに女性へと近づく。


「お待ちしておりました」

「エスメラルダの部下?」

「はい。ペリドットとお呼びください」


 ペリドットは、一見すると人畜無害な文官にしか見えない。しかし、俺やフラン、シビュラとマドレッドには、彼女の強さが感じ取れていた。


 クリッカが微妙に分かっていないことから考えるに、ペリドットの実力は相当なものだろう。


「……クランゼルの暗部は大したことがないって聞いていたんだがねぇ……」

「ふふふ」


 ペリドットは笑っているだけだが、かなり強いことは間違いなさそうだ。まあ、個人の能力が優れていても、組織の強さにはつながらないってことなのかもしれない。


 実際、エスメラルダが復帰するまで、レイドスの工作員にいいようにやられていたわけだしな。


「全員揃っておりますね?」

「ん。誰も欠けてない」

「あたしも保証するよ」


 フランとシビュラの言葉に、ペリドットは静かに頷いた。そして、入り口の大門の横に並ぶ馬車を指し示した。


「では、あちらの馬車へとどうぞ。そのまま、一時的に滞在していただく場所へとお連れしますので。騎士団の使っていた館です」


 以前バルボラにきたときに、見た覚えがあるな。騎士団が寝起きするための施設が、バルボラの端にあったはずだ。


 今は出撃したり、レイドスの奇襲で命を失ったりして、空いてるのだろう。


「……入る前に色々確認しなくていいの?」


 普通なら、貴族でもなければ門の前でチェックされるはずだ。


「国交のないレイドスの人々では、身分証があったところでこちらではそれが本物かどうかも分かりませんから」

「なるほど」


 それだけじゃないだろう。ここで武器を取り上げることだって可能だろうが、それをやっては確実に心証が悪くなる。それどころか、シビュラやマドレッドが素直に宝具を渡すかも分からない。


 戦闘にでもなれば、被害は甚大なのだ。であれば譲歩してみせて、安全なうちは大人しくしておこうと思わせる方が得である。


「すでに領主様と冒険者ギルド、騎士団に話は通してありますので、ご心配なく。あとは、幾つかの商会も、協力を約束していますね。馬車も、足りない分はそれぞれから貸していただいたのですよ?」


 綺麗で装甲が付いている馬車は領主や騎士団。輸送量の多い大型は商会。一番小型でちょっと汚いのが冒険者ギルドかな?


 ギルド馬車に当たってしまった人は、我慢してほしい。


「騎士の方々は申し訳ないですがもう少し歩いていただきます」

「了解した。世話になるよ。クリッカ、皆を馬車に誘導しな」

「はい」

「ビスコット――じゃないんだね。ビスドラ、大人しくしとくんだよ?」

「キュア!」


 あざと可愛く頷くビスコット。いや、ビスドラ。そんな呼び方でいいのかと思ったら、本竜が普通に頷いているので構わないんだろう。


 20台ほどの馬車に村人たちが乗り込んでいく。赤騎士たちはその馬車を護衛するように、しっかりと隊形を組んでいた。今のところは友好的とは言え、敵地。油断はしないってことらしい。


 フランとウルシは最後尾から馬車に付いていく。ないとは思うが、馬車から抜け出そうとするものを見張るためだ。


 まあ、結局は何事も起こらず、騎士団の館へと到着したが。


 館と言っていたが、その見た目は石造りの砦だ。バルボラがまだ小さい町だった頃には、いざという時の避難場所でもあったらしい。そのため、大勢が立て籠もることができるように、広く頑丈につくられていた。


 馬車から降りた村人たちを、メイドさんたちが館の中へと案内していく。


 まあ、メイドとは言ってもペリドットの部下だ。動きも素人ではないし、暗部の人間なのだろう。潜入のために、メイドとしての修練を積んでいてもおかしくはない。


 クイナみたいな、戦闘の修練も積んでいる激やばなバトルメイドっていう可能性もなくはないけど……。そこまで強くはないかな?


「改めまして、皆様の世話を仰せつかりました、ペリドットと申します」

「ああ、よろしくたのむよ」

「キュ!」

「ふふふ、よろしくお願いいたしますね」


 ビスドラが「よろしくな!」とでも言いたげに、手を挙げて可愛く鳴く。ペリドットは柔らかく微笑んで、その鼻先をつついていた。


 一見すると、ちび竜と戯れる優し気な女性の図だ。しかし、小さいとはいえ相手は竜。普通の人間が、全く恐れずに接することなど不可能なのだ。


 それだけでも、ペリドットがただ者ではないと分かった。天然なのか、あえて脅し代わりに見せつけているのか、いまいち分からない。


 でも、エスメラルダの腹心が、天然ってことはないだろう。


「しばらくはここで生活してもらいます。ですが、敷地内から出ることは許可できません。騎士の方々だけではなく、市民の方々もです」

「分かってるさ。敵国で自由にさせろとは言わんよ。食い物はどうにかしてもらえんのかい?」

「むろんです。不自由はさせませんよ」

「悪いね」

「こちらにも益があることですので」

「そうかい」

「ええ」


 ペリドットはニコリと微笑むが、言外の圧力が感じられた。


 人権や、海外支援なんて言葉がない世界だ。善意だけで保護するなんて、まずありえない。


 赤騎士たちを懐柔、もしくは足止めするためには、村人たちへの支援が効果的であると判断したのだろう。捕虜から、赤騎士の情報も手に入れているはずだしな。


「よろしくお願いいたしますね?」

「ああ、こちらこそ」


 握手するペリドットとシビュラだったが、笑顔なのに笑っているようには見えなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言]ここから始まる、回生したらドラゴンだった件〜最強以外目指さねえ〜イバラのビスドラロード 乞うご期待。
[良い点] ビスドラを本人じゃなく本竜ってスッと呼べる師匠いいね [気になる点] ペリドットとセリアドット名前似てるけど何か関係あるのかな
[気になる点]  ナイトハルトを救出するための建前で受注したレイドス撹乱任務ってこれで達成した事になるのかな?  なんか当初思い描いていたゲリラ戦みたいなのとは違ったけど、結果的に村人200人はとも…
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