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120 取られた先手

 2日目終了後。明日売るための新作を作っていた俺たちは、貸家に近づいてくる複数の気配を感じ取っていた。だが、俺もフランも身構えたりはしない。


「師匠」

『おう、戻って来たみたいだな。ただ、他の気配は誰だ? ウルシが先導してるみたいだけど』

「4人」


 気配をさらに詳しく探ってみると、ようやく分かった。コルベルトに売り子3人娘たちだ。でもこんな時間に何の用だろうか。しかもウルシと一緒に。


「オンオンオン!」

「ん。今開ける」


 入ってきたのはやはり屋台で雇っている4人だ。だが、コルベルトはジュディスに肩を貸され、足を引きずって歩いていた。どうやら左足を斬られたらしい。止血用に巻いた布が真っ赤に染まっている。おいおい、何があった?


「怪我してる?」

「みっともないとこ見せちまったな。ちょっとしくじっちまってよ」

「私たちをかばって斬られたんです!」

「コルベルトさんだけだったらー、勝ってたはずですー」

「足手まといになるとは不覚」


 コルベルトは強い。ステータス的にも技能的にもランクBに相応しい力があるはずだ。緋の乙女の3人をかばったとは言え、これほどの手傷を負わされるとは……。


「手持ちのポーションだけじゃ、治りきらなかったんだ」

「最初は足が千切れかかってたんですよ!」


 俺の感じた以上の大怪我だったらしい。


「ウルシちゃんに助けられたんです」

「危ないところにウルシちゃんが駆けつけてくれて、襲ってきた相手を撃退してくれたんですー」

「影の中からの奇襲は見事だった。まるで暗殺者」

「かっこよかったですよ」


 なるほど。だから一緒に帰ってきたのか。


「まずは傷を治す。――グレーターヒール」

「おお、すげえ。傷がみるみる塞がる!」

「ま、まさか回復魔術までこのレベルとは……。魔剣少女恐るべし。私にどれだけの敗北感を植え付ける気なのでしょうか」


 とりあえず4人に椅子を勧め、事情を聴くことにした。


「何があった?」

「料理ギルドでフランさんと別れた後、私たちは宿に向かっていました」

「駆け出しの頃からずっと使っている宿なんだけどー」

「俺はこいつらを送り届けてから帰るつもりだったんだ」


 その道中、身長2メートルを超える大男に行く手を遮られたのだという。しかも単なる行きずりではなく、彼女たちと分かって声をかけてきたようだった。


「明らかにこの3人を狙っていた」

「それは確か?」

「はい。黒しっぽ亭の売り子かと確認されましたし」

「しかも、こっちがハイともイイエとも言う前に、いきなり襲い掛かってきたのー」

「ちょっとチビリそうになったのは内緒にしておいてください」


 3人の顔が完全にワレてるってことだろうな。さらに、泊ってる宿も。だからこそ帰り道で待ち伏せが出来たのだろうし。


「相手はどこの誰だかわかる?」

「ああ、何せ名乗ったからな」

「へえ」

「狂戦士ゼロスリード。噂は話半分だと思っていましたよ。今日までは」

「むしろ、噂以上―?」

「だれ?」

「ええ? 魔剣少女は知らないのですか?」

「ん」


 どうやら有名人らしいな。知らないというフランに全員が驚いているし。


「ふふん。では教えてあげましょう!」


 リディアが張り切って説明してくれた。


 戦闘狂で、敵味方関係なく目を付けた相手に襲い掛かる? しかも雇われていた国の王子を殺害して賞金首? メチャクチャ危険な奴じゃないか。


 元のランクはCだが、実力はそれ以上と言われていたらしい。リディアたちも誇張だと思っていたらしいが……。


「事実だったという訳です」

「ウルシに助けられたぜ。さすがの奴も、ダークネスウルフの奇襲には対応しきれなかったようだ。手傷を負わされて、逃げていった」

「ウルシえらい」

「オン」


 ただ、逆に言えばウルシの奇襲でも倒しきれずに、逃がしてしまったという事でもあった。褒められて嬉しそうにしつつも、ウルシがどこか悔しげなのはそのせいだろう。


 不安そうなジュディス。格上に襲われたのだし当然だろう。売り子を辞めるとか言い出したらどうしよう。


 だがそれは杞憂だったようだ。ジュディス達は寧ろムキになっている様で、明日も絶対に続けさせてほしいとまで言ってきた。冒険者としての矜持なのだろうか。コルベルトのやる気も俄然アップしたみたいだし。次は後れを取らないと、気炎を吐いている。


「じゃあ、明日もお願い」

「任せとけ!」

「こちらこそお願いします」

「がんばろー」

「次こそはあのゴリラ男に目にもの見せてやります」


 その後、コルベルト達を俺たちが泊まっている宿に案内した。ここなら警備兵もいるし、安心だろう。部屋が無ければ俺たちの部屋を使わせるつもりだったが、コルベルトが一緒だと分かるとあっさりと部屋を用意してくれた。


「魔剣少女はどうする?」

「ん? 明日の朝までには戻る」

「待て! 奴を探す気なのか?」

「違う、他に行くとこが出来ただけ」

「ならいいんですけど……」

「1人だと危険ですよー」

「1人じゃない。ウルシも一緒」

「オン!」

「……わかった。ただ、不戦敗は勘弁だからな。明日の朝までには絶対に戻って来いよ?」

「ん、大丈夫」


 さて、俺達は一旦貸家に戻る。そこで、ウルシから情報を得ないとね。


「オンオンオン!」

「ん?」


 ウルシが前足を振りながら何やら訴える様に吠えるが、フランには全く理解できていない。いや、俺達に伝えたいことがあるということと、焦っていることくらいは分かる。ただ、詳しくは理解できないのだ。


 だが、俺には1つ試したいことがあった。できないか試してもらうため、俺の思いついた案をウルシに説明した。


「オン!」

『できそうか? じゃあ、まずは俺に頼む』

「――オーン!」

『むぅ! 失敗だ……』


 Lv8闇魔術、ブレイン・トリック。術者の思い描いた偽の映像を相手の脳に直接流し込み、幻影を見せる術だ。幻影系の術と違い、脳が騙されているので見破るのが難しい術だった。


 これを偽の映像ではなく、ウルシが実際に見た記憶している映像を流してもらえば? 喋れないウルシでも見たことを俺たちに伝えられるのではなかろうか?


 俺はそもそも脳がないので、術自体の効果がないようだが。


『次はフランに頼む』

「オン!」

「こい」

「――オーン!」

「ん! 来た! ばっちりわかる。領主の次男が黒幕」

「オンオン!」


 成功したようだ。これでウルシとの意思疎通がよりしやすくなったぞ。


 フランがウルシが見てきたことを全て説明してくれた。


『じゃあ、領主の次男が黒幕なのか』

「オン」

『まさか気づかない内にバルボラを救っていたなんてな』

「驚き」

『そのせいで目を付けられたわけだが……』


 正直俺達だけでは手に余る事態になってきた。領主の次男ブルックに錬金術師ゼライセ。謎の老人リンフォードに、狂戦士ゼロスリード。あとおまけで領主の三男ウェイントだな。


 相手は組織立っているし、既に様々な陰謀を張り巡らせている。時間も残り少ない。


 ここはこっちも組織の力を借りるしかないか。借りれるかどうかは分からないが……。


『領主の館に行くぞ』

「ん」

「オン!」


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