1214 公爵ゾンビ
大量に呼び出された、南征公と西征公のゾンビたち。いったい、何が起きている?
こちらの驚愕が伝わったのだろう。ラランフルーラが勝ち誇った顔で口を開いた。
「ふはははは! どうだ! 各公爵たちの血肉から得た因子を元に、器を培養! 魂無き肉の器を死霊化し、邪気を使うことで強化したのだ!」
クローン的な感じで公爵たちを増やそうとしたが、魂がないから動かなかった? でも、それを死霊化したことで、動かせるようになったってことか? 死霊を邪気で強化するのは、アヴェンジャーたちで実験済みだったってことだろう。
「オオオオオオォォ!」
(あれ!)
『従機ってやつだ!』
西征公爵ゾンビたちが叫び声をあげると、その背後に全長3メートルほどの金属製の人型が出現していた。
砦前で戦った、従機というやつだろう。あちらはもっと大きくて、カラーリングも派手だった。それに対して、こちらは銀一色の統一された外見をしている。明らかに量産型という感じだった。
従機の胸部がパカリと開くと、トラクタービームのようなものが照射され、西征公爵ゾンビたちをコックピットへと引き寄せる。ああやって搭乗するのか!
問題は、西征公爵ゾンビたちが、従機を呼び出す能力を持っているという点だ。宝具を使うことができている?
さらに、南征公爵ゾンビが、その全身から無数の武器を生やしたではないか。剣や槍だけではなく、銃のような近代兵器に酷似したものも多数存在していた。
南征公は宝具を体に同化させることで、強化できるんだったか? こちらもまた、オリジナルと同じ能力が使えていた。
「さあ、やれ!」
ラランフルーラの命令に従い、南征公と、西征公が乗り込んだ従機たちが動き出す。シビュラに2体ずつ4体が群がり、残りは赤騎士へと駆けていく。
従機は、足裏の車輪を使ったローラーダッシュでその巨体からは信じられない急加速を見せる。南征公爵ゾンビも、背中の翼のような法具から魔力を放出することで、やはり凄まじい速度を見せていた。
「対巨獣群陣だ!」
「「「おう!」」」
赤騎士たちが10人ほどで固まり、それぞれが隊形を組み上げる。複数の強い個体のいる群れを相手にする際の陣形なんだろう。
今回は相手が悪すぎるかと思ったが、赤騎士たちはしっかりと戦うことができていた。さすが最強の騎士団だ。
魔獣と日夜戦い続ける技術と経験により、公爵たちを受け止めている。従機は、巨大で堅くて速いうえに熱線を放つが、魔術も使う上位の巨人と考えれば対処可能なのだろう。実際、前に立つ盾持ちたちは、慌てず冷静に従機のパンチやキックを捌いている。
南征公爵ゾンビも、またスペックは高い。全身の宝具から様々な攻撃を放ち、時おりその巨体を活かした突進まで見せるのだ。だが、やはり前衛たちを突破することはできていなかった。
赤騎士たちは全員強いが、その中でも盾士は特に実力者揃いだ。日々、仲間の盾となって凶悪な魔獣と戦っているからだろう。
冒険者で言えば、最低でもランクB。そんな男たちが揃っている。しかも、援護も充実しているからな。
現在、赤剣騎士団が前に出て、茜雨騎士団が弓での牽制と、回復や強化を担当しているのだ。
(みんな凄い)
『だな』
俺たちは公爵ゾンビは相手にせず、少し下がって戦場を見ている。逃げたわけじゃないぞ? 聖浄魔術を使い、公爵ゾンビたちを弱体化させようとしているのだ。
戦場を包んだ結界が、死霊たちへ確実に影響を及ぼしているのが分かる。しかし、結界はすぐに破壊されてしまっていた。南征公爵ゾンビたちは、結界を破壊するための宝具を持っているらしい。これは、聖浄魔術を何回使っても意味はないか?
ならば、こちらだ!
『邪神の欠片よ。奴らを支配するために力を貸してくれ!』
アヴェンジャーと同じように、支配できないかと思ったのだ。あの時とは違い、邪神の信頼を得ている。不可能ではないと思うんだが……。
『ちっ。無理か』
『――』
邪神の欠片から項垂れているような気配が伝わってくる。やつらは邪気に支配されているわけではなく、力の源の1つとしてしか利用していないからだろう。
供給を止めようともしてみたが、外部からの操作ではなかなかうまくいかない。せいぜい、邪気の運用効率を半減させるくらいが限度であった。
まあ、それでも十分援護にはなったようだが。赤騎士たちの戦いがさらに危なげなくなり、4体を相手にしていたシビュラが遂に従機を倒す。その倒し方が、かなり驚きだったが。
邪気の供給が滞って、動きが鈍くなった従機の外殻を破壊。そこからコックピットに乗り込んだかと思うと、10秒もせずに飛び出してきたのだ。直接、西征公爵ゾンビを倒したのだろうが、彼女の口周りは真っ赤に染まっていた。
あれ、明らかに食い殺してるよな? 悪食なのは分かっていたが、そこまで戦闘に活用しているのか……。
それを見て苛立つのは、これまで公爵たちの戦いを観察していたラランフルーラだ。戦況を覆すどころか、赤騎士と互角の状態は不満でしかないのだろう。
「こうも上手くいかぬとは……。そうだな。まずは陣形を崩すか」
赤騎士たちの想定以上の強さに、力押しを諦めたらしい。超人将軍は一瞬ひざを折ると、一気に宙へと跳びあがる。
その視線が向かう先は――。
(師匠! 止めないと!)
『間に合えっ』
ラランフルーラが何をしようとしているのか理解し、俺たちは阻止するために動いていた。ラランフルーラの背後に転移し、無防備な背中に斬撃を叩き付ける。
「無駄だ!」
「!」
神気を込めた斬撃が、奴が体に纏う障壁で受け止められていた。こいつの防御をぶち抜くには、それこそ天断並みの攻撃でなくてはならないようだ。
ラランフルーラはこちらを振り払おうとすらせず、そのまま攻撃を放った。村人たちへと向けて。
「はははは! 家畜どもが屠殺される悲鳴を聞いて、このまま戦い続けられるかな?」
100発近い魔力弾を、西へと歩き続ける村人たちに向けて放ったのだ。被害が出れば冷静さを失うだろうし、怪我人の救護をするために人手を割くだろう。それが赤騎士だからな。
膨大な魔力弾だが、茜雨騎士団長ならどうにかできる! そう思って彼の方を見たんだが、何故か棒立ちのまま動こうとはしなかった。険しい顔をしている。何か、異常が? ともかく、一発で100近い矢を放てる茜雨の宝具が頼れないことは確かだった。
(師匠!)
『ああ!』
俺たちは、転移で魔力弾を追う。斬っては転移し、斬っては転移し、魔力弾を次々と叩き斬っていった。
「1つ! 2つ!」
『うおおぉぉぉぉ!』
だが、全てを消し去ることはできない。
念動に極大魔術も使って魔力弾を8割近くは撃墜したが、残った分が村人達へと降り注ごうとしている。
『くそっ!』
「オ、オン?」
「きゃぁぁぁぁ!」
ウルシの焦った声と、子供たちの悲鳴が響き渡った。ウルシの魔術があれば、子供たちは助かるだろう。しかし、他の村人たちは――。
「させねぇよ! サクリファイス!」
(!)
ビスコット似の赤騎士が突如村人たちの前に出現すると、魔力弾は軌道を変えて彼に向かって殺到していた。盾技で、攻撃を引き寄せたのだろう。
突如出現したのは、転移系の能力か?
いくら防御力に優れているとはいえ、あの威力の魔力弾を20発近く食らっては、ただでは済まない。
男の鎧は所々ひび割れ、兜は完全に砕けていた。その下からは、初老の男性の顔が現れる。やはり、ビスコットにそっくりだ。親族なのだろう。
そう思っていたら、違っていた。
「無茶をしましたね。ビスコット」
「クリッカか。密かに補助してくれただろ? ありがとよ」
クリッカ? ビスコット? え? 本人たちなのか? どちらも、シビュラと一緒に武闘大会に出ていたが……。クリッカはあの時よりも10歳。そして、ビスコットは30歳は年経ているように見えた。




