1210 黒雷天断
フランの神気と、俺が引き出した邪気が混ざり合う。
邪神の信頼のおかげか? 驚くほどスムーズに2つの力は結び合い、新たな力が練り上がっていく。
白と黒が絡み合った、邪悪な神気。以前、獣蟲の神様に引き出すことを止められた、邪神の持つ神気に酷似していた。
生み出された膨大な邪神気は、とてもではないが人が操れる力には思えない。
そもそも、それは邪気の性質も持っているのだ。いや、邪神気となることで、他者を操って狂わせる性質も強化されている。
地球人である俺でなければ、扱うことはできない力だった。
そのはずだったのだが……。
「はぁぁぁぁぁ!」
『フラン、大丈夫なのか?』
「ん!」
いつものような、フランの技に俺が後から邪気を注ぎ込むような扱い方ではない。フランが自分の意思で、邪神気を操っていた。
神気操作のお陰か? それとも、邪神の信頼のおかげで、邪神の欠片がフランのことも守ってくれている? 後は、アナウンスさんが負荷を引き受けてくれていることも大きいだろう。
とにかく、フランは邪気を前にいつもと変わらぬ様子であった。
邪神気が黒雷へと変換され、フランの意思の下俺の周囲へと集まってくる。
黒天虎の奥の手、『黒雷神爪』。武器に黒雷を纏わせ、雷と神属性、双方を圧縮する必殺の技だ。最近になって、ようやく自分の意思で扱えるようになっていたのだが……。
『くぉ! す、凄まじい圧力だ……』
(師匠、だいじょぶ?)
『ああ、問題ない! 俺の制御力を舐めるなよ! むしろ、もっとガンガンこい!』
(わかった)
フランの作り出した黒雷の刀身は、今まで見たことがないほどに長かった。大剣サイズであるとか、そんなレベルではない。
軍艦相手に編み出した俺の斬艦モードよりも、さらに大きいだろう。全長は20メートル近く、最も太い部分は土管ほどもある。
黒雷を圧縮して、これなのだ。
邪神気がもたらす力の強大さが、これだけでもよく解った。
「いく!」
『おう!』
フランが迫りくる竜巻に向かって繰り出したのは、横なぎの天断。
上段からの振り下ろしでしか使えなかった天断を、今や他の斬撃でも放てるようになっているからな。
黒雷神爪と天断の組み合わせは、過去にも使ったことがある。なんせ、剣神化や潜在能力解放を除けば、フランの最強の技同士の組み合わせだからな。
だが、今回放った一撃は、過去の攻撃を遥かに超える。
言わば、邪神気を用いた超黒雷神爪と、剣神化時の斬撃に匹敵する真・天断の組み合わせなのだ。
それぞれを使うだけでも驚きなのに、それを組み合わせてしまっているのだから、どれだけ成長してるんだって話だ。
「てやああぁぁぁぁ!」
振り抜かれた黒雷神爪と天断――黒雷天断とでも名付けようか――が、拮抗すらせず巨大竜巻を一撃で2つ、吹き飛ばした。
圧倒的な威力だ。だが、竜巻はあと3つ残っている。まあ、フランの攻撃もまだ終わりじゃないけどな!
フランはさらに前に出ると、黒雷の巨剣を振り被る。
だが、風狼と刃鷹の合体技である竜巻も、ただでは終わらない。無理やり消し飛ばされた竜巻は、秘めていた力を暴発させた。
凄まじい爆風と、中に混ぜ込まれていた剣のように鋭い羽根が周囲へ撒き散らされたのだ。
全力の攻撃を繰り出したばかりのフランでは躱すことができない。というか、躱す気がない。
(師匠!)
『ああ! 任せろ!』
いつも通り、俺が防ぐと信じているからだ。その信頼に応えねばなるまい。
だが、障壁をただ分厚くするだけでは全てを防ぎ切ることはできないだろう。飛んでくる剣羽は魔力を纏い、まるで魔剣による一撃のような鋭さを秘めている。
それを何十発も食らえば、あっという間に魔力を消耗してしまう。
俺は感知と察知、全能力を駆使するつもりで、羽根の位置の把握に努めた。直撃コースの物はさすがに躱せない。
その部分の障壁をピンポイントで分厚くし、受け止める。そして、フランの手足や頭部など、末端に当たる位置の物。これに関しては、角度を付けた障壁で受け流すことで、最小限の力で逸らすことを狙った。
それでも間に合わない物に関しては念動を使って弾く。
『うおおおおぉぉぉぉ!』
自分でも信じられないほどに、演算能力を働かせた自覚がある。これで寒気や痛みに襲われないってことは、限界ではないのだろう。
驚きだ。邪神気っていうのは、恐ろしいほどに強力だったらしい。
そして、フランは一切ダメージを負うことなく、剣羽の嵐を抜けたのだった。
(師匠、凄い!)
『はっはぁ! フラン、残りも消し飛ばしちまおう!』
(ん!)
フランの黒雷天断が、再度繰り出される。さすがに黒雷神爪を維持できなくなったのか、その直後には弾けるように消えてしまった。
だが、その時にはすでに、残り3つの竜巻を消し飛ばすことに成功していたのである。
再び剣羽が周囲に襲い掛かるが、俺たちは転移で逃れていた。
「はぁ……はぁ……やた……」
『フラン。喋らなくていい。少し体を休めろ』
神気を扱えるようになったフランでも、今の攻撃は限界ギリギリだったのだろう。滝のような汗を流しながら、荒く息を吐くのであった。
だが、その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。




