表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1210/1337

1208 風狼たちの足掻き


 進軍の戦乙女の効果により、500以上の赤騎士が超高速で行軍している。その結果、追いつけるとは思えなかった超人兵たちに追いつき、追い越していた。しかも、称号の効果だけではない。今の俺には、紅旗から奪った部隊強化スキルがある。


 本来は村人たちを守るために戦う筈だった、紅旗騎士団。皮肉なことに、その長から奪った力が、彼らが守りたかったものを守るために使われていた。


 村人たちと超人兵の間に割り込み、立ち塞がる。


 だが、それだけでは超人兵を止めることはできないだろう。ある程度は足止め可能かもしれないが、半数以上はすり抜けて行ってしまうはずだ。


(師匠。あれお願い)

『おう!』


 こういう時こそ、安定の大地魔術である。魔力に余裕があるわけではないが、ここが使い時だろう。


 俺たちはグレイトウォールを多重起動した。敵軍を隘路に誘い込むように、カベを八の字に配置するのもお手の物だ。


「おお! こいつはスゲェ!」


 シビュラだけではなく、ビスコットや赤騎士たちも驚いているな。フランがあまりにも多くの魔術を使いこなすからだろう。


 だが、フランは彼らに構うことなく、短く告げる。


「ここ、任せる」


 それだけでシビュラには通じたようだ。


「おう! テメェら! 三隊に分かれるぞ! ここであたしと蓋をする隊と、左右に分かれて壁を迂回したのを叩く隊だ! ああ、マドレッドは弓使える奴ら連れて、壁の上から飛行型を狩れ!」

「了解」


 シビュラの察しが良過ぎて、驚くほど楽だな! 説明不要なのだ。


『フラン! ここは任せて、俺たちも空に上がるぞ!』

「ん!」


 赤騎士たちと連携しての戦闘は、驚くほどに順調だった。茜雨騎士たちの中でも弓を得意とする30名ほどが団長の魔術でグレイトウォールの上に飛び乗ったのだが、そこからの射撃が的確なのだ。


 部下たちはフランの周辺の超人兵をけん制するように矢を放ち、団長のマドレッドはフランから離れた場所の飛行型を狙い撃つ。


 相変わらずマドレッドからの殺意は突き刺さるが、彼の行動はこちらの味方そのものだ。


 自分の意思と行動を、完璧に切り離すことができているんだろう。フランが僅かに尊敬の念を抱いているのが分かる。フランは、まだそれが完璧とは言えないからな。


 彼らのおかげでフランは、抜けてくる飛行型を優先して迎撃が行えていた。

 

 無茶もしているし、消耗もするが、命を削るほどではない。


 そうして戦っていると、グレイトウォールが遠距離攻撃で破壊された。土台部分から爆破され、崩れ落ちたのだ。


 風狼と刃鷹の仕業だった。破壊まで少し時間がかかっていたのは、大技を溜めていたからだろう。


 ほぼ同時に、全てのグレイトウォールを粉々に破壊しやがったのだ。


 謎の魔力供給を受けているはずの風狼たちが、魔力を大きく減らしている。それだけの攻撃であったのだ。


 結果、半数以上の超人兵が瓦礫を乗り越え、赤騎士たちを迂回してさらに進み始めてしまう。


 だが、そこからの赤騎士たちの動きは、驚くほどに素早かった。超人兵に抜けられたと悟った瞬間には整列を始め、フランを待たずに駆け出したのだ。


 フランが追い付けばシビュラが、「また頼むぜ! 隊長殿!」と叫ぶ。その瞬間、彼らの指揮権はフランへと渡っているのだ。


 再度超人兵たちに追いつき、再び戦いが始まる。すでに、村人たちとの距離は数百メートルまで近づいている。なんせ、俺たちがいるところから、ウルシの姿が普通に見えているのだ。


(これ以上、絶対に近寄らせない!)

『ああ!』


 再びグレイトウォールを生み出し、赤騎士たちが蓋をする。空を守るのは茜雨騎士団に任せ、俺とフランは風狼たちに斬りかかった。


 こいつらの指揮を妨害し、グレイトウォールを守るのだ。倒すのではなく、少しでも注意を引き付けるように根気強く戦う。


 奴らもこのままでは赤騎士にも村人にも、大きな損害は見込めないと悟ったらしい。大きな勝負に出ていた。


「ガアアアアア!」

「ルオォォォオッ!」


 風狼が発生させた五つの竜巻が、刃鷹が撒き散らした無数の羽根を呑み込みつつフランに向かってくる。


 魔力を多く込めただけの攻撃ではない。グレイトウォールを破壊した時よりも、奴らの魔力がさらに減っている。枯渇寸前なのだ。風狼は明らかに痩せこけていたし、刃鷹は全身の羽根が抜けて剥げてしまっていた。


 全身全霊を懸けた、奥の手と言える攻撃なのだろう。


 一発一発が高位魔術級の超大型竜巻に、魔力が込められた万を超える鋭い羽根たち。


 巻き上げられて呑み込まれた小屋ほどもある岩石が、風と羽根に切り刻まれて一瞬で消滅するのが見えた。


 回避するだけなら、大きく移動するだけで簡単だ。だが、その進行方向には、赤騎士たちがいる。これが直撃したら、シビュラでもなければ死んでしまうだろう。


 赤騎士たちだけではなく超人兵も巻き込むだろうが、奴らにとっては全く問題ないんだろう。むしろ、あえて巻きこんでいる可能性すらあった。


 それに、竜巻が消えずに進めば、その先には村人たちがいるのだ。


 絶対に、逃げるわけにはいかなかった。


(師匠、止めるんじゃ、ダメ! 全部、吹き飛ばす!)


 カンナカムイや、メギド・フレイムを連発すれば、相殺はできるかもしれない。だが。それでは赤騎士にも余波が及ぶだろう。


『正面から攻撃をぶち当てて、蹴散らすしかない』

「ん!」


 フランが、覚悟を決めた瞳で迫りくる竜巻を睨みつけた。


コミカライズ最新話が更新されました。

こちらもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] やっぱりもう少しグレイト・ウォールを強化したいよな。 火炎魔法と風魔法を併用してセラミック化とか……脆くなるだけかな
[良い点] というか前の合戦で アレな行動のほとんどがフランとばれた気がする
[一言] 極大魔法ってその属性を極めて使用できる(魔力が足りなきゃ発動できない)から、周りからみたら天災だろうね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ