1201 封人剣
混沌の女神様が去り、俺はいつの間にか森の中へと戻ってきていた。まあ、これもいつものことだから、今更驚かないけど。
それよりも新システムだ! なんか、不吉なこと言ってたし!
『えーっと、ステータスは――』
なんか、メッチャ変わってるな!
まず、名前が変わった。これまでは人剣・師匠だったのが、『封人剣・師匠』に変化している。人剣なんてダサイ名前からちょっとでも変わったのは嬉しいが……。
人を封じる剣? 剣の中に人の魂が封じられているから? おかしくはないのか……?
攻撃力や魔力に変化はない。あくまでも新システムに移行しただけなのだろう。ハードではなく、ソフトの性能が上がった形なのだ。
その最たる変化が、新しく追加された『剣化深度』という項目だろう。61%と表示されている。俺の、剣化の度合いってことかな?
高すぎると向こうの俺みたいに剣に成り下がってしまうし、低いと剣の肉体に適合できずに狂うのだろう。こうやって表示してもらえると、非常に助かる。
『61%っていうのは、どうなんだ? ちょっと高いのか?』
これからさらに上がってしまうようだと、気を付けねばならないだろう。
スキルにも、大きな変化は――いや、あるな! 新しいスキルがいくつか増えている! あと、自己進化の名前も変わったし、ポイントちょっと減ったぞ!
自己進化の部分が『成長適合』となり、ランクの表示が消えた。魔石値は0/10000にリセットされ、メモリが100に増えている。そして、これまで自己進化ポイントが200近く残っていたはずなのに、残り80となっていた。つまり、100ポイント以上が消えたことになる。
多分、新しく得たスキルを、強制取得した扱いになるんだろう。以前も似たことがあったのだ。でも、これは減り過ぎなんじゃ……。
スキルで大きな変化は、混沌の神の加護、邪気征服が消え、エクストラスキルに『混沌の神の使徒』、『邪神の信頼』というスキルが追加されたことだった。100ポイントも使われたんだから、強いはずだ。強くあってくれ。
混沌の神の使徒っていうのは、まあいい。女神様が俺をそう呼んでいたし。加護の上位互換だろう。
問題は、邪神の信頼の方だ。これ、大丈夫なのか? そもそも、信頼? いや、まあ、最近は邪神が妙に懐いたというか、好き勝手やってんなーって感じだったが……。
少しだけ、邪気を引き出してみる。すると、あっという間に邪気を纏うことができてしまった。今まで以上に素早く大量に、それでいて反動がほぼ感じられない。魔力を使うのと、同じ感覚で邪気を使えた。
女神様が言っていた『神は神』っていうのは、これに関係した言葉なんだろう。邪悪でも神様だから、恐れずに力を使え? それとも、あまり頼らず、力を使い過ぎるな?
うーむ、分からん。ただ、普段使いし過ぎるのはまずそうだよな。邪気だし。危険な時だけにしておこう。
神気に関しては、以前と同じくらいかな? フランと同じ領域に達するには、何かが足りていないのだろう。あ、最後にもう1つ新しい項目があったぞ!
『カオススキル?』
ユニークスキルや固有スキル、スペリオルスキルなどと同じように、カオススキルという区分が追加されていた。そこには『混沌識』という謎のスキルが1つ。
鑑定してみると、『混沌を識るためのスキル』と、まんまなことしか書いていない。スキルを起動してみると、不思議な感じだ。
自分の内部がよく解るというか、新しく拡張更新された部分をより感じ取れている気がする。フェンリルさんや邪神の欠片が封印されている領域も、今までよりもよりシンプルになっているんじゃなかろうか?
まあ、感覚系というか、制御能力や処理能力に影響しそうなスキルであるということは解った。少しずつ試していけば色々分かるだろう。
『おっと、今は掃除が先か』
試したいことがたくさんあるけど、死体処理が優先だ。フランのことも心配だしな。
そうしてステータスを確認したい欲を振り切って、掃除を続けること3時間。時折、死臭に釣られて近寄ってきた魔獣を狩りながら、なんとか死体の掃除を終えた。
村では、死体が消えていると騒ぎになりかけていたようだが。ただ、普通の相手ではないため、死体が消滅しているのではないかと考えたようだ。
自分たちに直接被害が出ていないので、今は気にしないことにしたようだ。しかし、この不気味な現象も後押ししたのか、村人たちは今日中にでも避難をすることに決めたらしい。
フランが渡していた物資から食料だけを持ち、そのまま西を目指すと決めたのだ。
村人たちは荷車の準備や、子供を乗せる獣車の用意を始めている。フランのことも獣車に乗せて運んでくれるつもりのようだ。
そこで、俺たちも協力することにした。まあ、ウルシを巨大化させて、子供だけでも背に乗せるだけだが。
ただ、フランが眠っている今、どうやって伝えるか……。分体を生み出して、接触するか? それとも、ウルシの振りをして、念話でも使う?
俺が悩んでいる間に、ウルシが行動を開始していた。まずは、少しずつ巨大化する。
「こ、こりゃぁ、すげー」
「でっけー! ウルシでっけー!」
「ウルシちゃんのモフモフがもっとすっごくなった!」
ウルシがずっとだらけ姿を見せていたおかげなのか、村人たちはほとんど怖がる素振りはなかった。村のために戦ったしね。
子供たちはむしろ大興奮で、伏せをしたままのウルシの腹毛に群がっている。
ともかく、第一段階は成功だ。そして、ウルシは女性に抱きかかえられたフランのことを甘噛みして持ち上げると、自分の背に乗せた。さらに、ミーミの襟首を咥え上げると、フランの隣に下ろす。
そのまま、自分もとせがむ子供たちを、順番に自分の背に乗せていった。これで大人には意図が伝わったらしい。
「もしや、子供だけでも運んでくれるということかな?」
「オン!」
「おお! 助かりますぞ!」
これで、少しは村人たちの足が速まるだろう。今は、時間が重要なのだ。
 




