10 エリア5へ行こう
今日も今日とて、エリア5の探索だ。
昨日は南でスライムロードと戦ったので、今日は他を探索しようと、考えていた。
そして、東エリアで出会ったのが、全長20メートルを超える巨大なヘビの魔獣、ドッペル・スネイクだ。胴体の太さなんか、ドラム缶くらいあった。
こいつはその名の通り、分体創造というスキルを持っている。スキルや能力などを模した、自分のドッペル体を作れるというスキルだ。
最初に倒したドッペル体が、幻の様に消えてしまった時はマジで驚いた。ただ、ドッペル体を使い、安全な場所で指示を出して戦うという戦法故、本体はたいして強くなかったことが幸いした。
戦闘力は、エリア4の魔獣とそれほど変わらなかったのだ。地中に潜む本体を見つけてしまえば、一瞬でけりがついた。
そして、手に入れた分体創造スキルを早速使ってみたのだが……。
「あれ? 剣の体じゃない……」
『おいおい、生前の俺じゃん』
そう、分体創造で生み出されたドッペルゲンガーは、人間だったころの姿を模していたのだ。同時に手に入れた分割思考によって、同時に剣とドッペル体を動かせる。
「あれ? これって、装備者とかいらないっていうオチか?」
『まじ? 分身の強さは?』
このままドッペルゲンガーに自分を装備させれば良いんじゃ?
とか思ったが、そう上手くは行かなかった。
まず、分体創造は制限時間があった。現在で5分。しかも、分身は超弱い。知力以外の平均が5という、ゴブリン以下の弱さだったのだ。
しかも、スキルまで分割された。ドッペル体も俺の持つスキルを使えるが、本体、ドッペル体、共にスキルレベルが1になってしまったのだ。
これじゃあ、まともに活動はできないだろう。スキルが上がったらどうなるかは分からないが。分体創造スキルレベルが9だったドッペル・スネイクなんかは、本体よりドッペル体の方が強いくらいだったし。
これ以外のほとんどのスキルは、脱皮や熱源探知、鱗再生といった使えない、もしくは持っているスキルしかなかった。唯一利用価値が高そうなのが、王毒牙という毒の牙の上位スキルだ。猛毒牙というスキルを持っているが、それよりもさらに上のスキルである。
とりあえず、ドッペル・スネイクを収納してみた。この巨大蛇を収納しても、次元収納はまだ満タンにはならない。想像以上の容量だな。
午後からは、北エリアに向かう。勿論、道々で魔獣を狩りつつ、収納しつつだ。
南、東を攻略して分かったが、エリア5は広大な東西南北のエリアを、大型のボスが1体だけで支配しているようだった。エリアボス的な感覚だろうか。強いと思える魔獣は、スライムロード、ドッペル・スネイクしか出会わなかったのだ。他は、エリアボスの餌なのだろう。
ということで、次は北のエリアボスという事である。
『エリアボスは強いスキルを持ってるからな。楽しみだ』
そこにいたのは、今までのエリアボスで一番小さい、亀の魔獣だった。だが、その魔力は他のエリアボスに勝るとも劣らない。
全長は5メートル程。黒光りする甲羅から、10本の管が突き出し、中央からは太い砲身が突き出している。
『ブラスト・トータスね』
実は、この亀の下位種を倒したことがある。キャノン・トータスという魔獣だったのだが、そいつも管から周囲の空気を吸収し、砲身から圧縮して放つという能力を持っていた。
「ゴォォォォォォォッ!」
遠距離砲撃系の魔獣だけあって、その探知能力も広範囲に及ぶようだ。すでに、俺に視線を固定しているのが分かる。
「ゴッ!」
ボボボゥ!
圧縮空気弾が連続で放たれる。まさか連続で放てるとは思わなかった。キャノン・トータスは、1発1発溜めないと放てなかったのに。さすが上位種。
『あらよっと!』
高速で飛来する空気弾。回避する軌道を取ったのだが……。
ボボン!
『ぬあっ!』
空気弾が突然爆ぜた。四方で同時に爆発した空気弾に押しつぶされる。100近いダメージだ。余波でこの威力かよ! しかも、遠隔で爆発可能? すごく高性能じゃないか!
ボン!
『ぐっ、やばいやばい!』
動きを封じられたところに、更に空気弾の追い討ちがあった。直撃で、耐久値を400も削られてしまった。しかも、さらに飛来する空気弾が見える。
ちなみに、気流視覚のお蔭で、無色透明の空気弾を視認できている。これが無かったら、躱すことさえ難しかっただろうな。
とりあえず脱出しないと。俺は念動カタパルトで一気に降下して、空気弾を回避した。そのまま、最高速度でジグザグに飛行し、空気弾の弾幕を躱し続ける。
『調子に乗りやがって!』
俺は時おりダメージを貰いながらも、じりじりと亀に近づいていく。
『もらった!』
接近してしまえばこっちの物だ。俺は刀身を、亀の露出した首に突き立て――られなかった。
『あっ! 逃げるな!』
普段の鈍間な動きからは想像もできない速さで、亀は首と足をひっこめた。悔し紛れに甲羅を攻撃するが、少ししか切り裂けない。何十回も攻撃すれば、甲羅も貫けるだろうが……。
『でも、そんなこと許してもらえないよな!』
ボボボボボボボ!
首をひっこめた亀は、その場で高速で回転を始めた。まるでガ〇ラのように。そして、無差別に空気弾をばらまく。
意図しない攻撃だからこそ、読むことも難しく、避けるのが難しい。
俺の周りで着弾し、地面を巻き上げる空気弾。だが、距離を取ったって、また空気弾の的になるだけだ。
感知系スキルでこっちの動きを把握しているようで、死角になっている甲羅の真上に移動しようとしても、体を斜めに傾けて、空気弾を直上にもばらまき始める。
『おっとぉ! あぶな!』
上はダメ。なら下だな。地面の下までは攻撃できないだろう。
俺は亀の空気弾を躱しながら、ステータスをいじった。
思考分割スキルのお蔭で、回避行動を取りながら、ステータス操作も問題なくできている。
残しておいた自己進化ポイントを使用し、土魔術をLv4まで上げる。すると、お目当ての術が使用可能となった。
この土魔術スキルをゲットした相手。グランドインセクトの使っていた、トンネルを掘れる魔術だ。
『――ディグダグ!』
魔術で掘った穴に飛び込む。この穴は、亀の真下まで続いているのだ。
『ディグダグ! ディグダグ!』
それだけではない。連続魔術を使い、亀の足元に空洞を作っていく。そして、亀の重さに耐えきれなくなった地面が陥没し、その巨体が地面に飲み込まれる。
『おっしゃ! 計算通り!』
しかも、傾斜をつけて掘られた穴によって、亀の体が一回転する。完全にひっくり返った状態だ。
亀は起き上がろうともがくが、土魔術で地面を隆起させて亀を挟み込む。
くっくっく。その状態じゃ逃げられんだろう。
となると、亀はひっこめていた首と足を出し、再度甲羅を返そうと試みた。だが、俺がその隙を逃すはずがない。
スライムロードを倒した最速の一撃が、亀の頭部に炸裂である。
所詮は亀。俺様の閃きには敵わなかったな。
『勝利!』
とは言え、結構危なかった。やはり、エリア5は侮れないぜ。
俺は首の部分に開いている穴から、甲羅の内部に潜り込むと、心臓の横にある魔石を何とか吸収した。
もちろん、このブラスト・トータスも収納する。なんと、それでも収納はいっぱいにはならなかった。
『残りの魔力がもう少ないな。これは、一度戻ろう』
最後に残ったエリア5西部の探索は、明日にお預けとなったのだった。
亀から得たスキルの検証もしたいしね。
その後、台座の周りでスキルを試してみたが、使えそうなのは空気圧縮、空気弾発射の2つだけだった。まあ、その2つが有用なスキルだったから、いいけどね。
空気弾発射は、周辺の空気を固めて、弾丸として放てるスキルだ。ブラスト・トータスは、甲羅の中に空気を吸い込んで溜める機能と組み合わせて、連続発射を可能にしていたようだった。
俺の場合、気流操作や、風魔術と併用すれば、連打も可能そうだ。
空気圧縮は、空気を圧縮するという、一見使えそうにないスキルだが、実は地味に面白いスキルである。
例えば、空気弾発射と組み合わせてより弾丸の強度を増したりもできるし、体の周辺に圧縮空気の壁を作れば、盾としても使える。単体ではあまり強くなくても、複数のスキルと組み合わせて使える良いスキルと言えた。
『ただな~、良いスキルが多いと嬉しいけど、使いこなすためにはもっと修練が必要そうだよな』
強いスキルほど、簡単には使いこなせないのである。




