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117 初日終了

「はい、プレーン3つ、中辛2つですね」

「激辛4つですー」

「30ゴルドです」


 3時を越えても客が途切れない。常に100人くらいの行列ができていた。すでに2回、次元収納からの補充を行っている。


 フランはカレーパンを揚げて匂いを振りまき、コルベルトは行列の整理などを行っていた。


「1つ10ゴルドです! お子様でも食べれるプレーン、香辛料が利いた中辛、口から火が出る激辛の3種類があります!」


 コルベルトは並んでいる人たちにそう説明し、事前に何を買うか考えてもらうように誘導している。うちは速さ勝負だからな。


 ジュディスも言っていたが、半分以上の人は事前に買う店を決めてしまっている。だがそうじゃない人も多い。そういう人たちにしてみたら、行列が短い黒しっぽ亭は気軽に並びやすいんだとか。良い情報だね。


「貴重な魔力水を使った、癒しのグルメ! ここだけでしか食べられませんよ! 快癒の水をふんだんに使った最強グルメだよ!」


 さらに、コルベルトが魔力水を前面に押し出して呼び込みを行う。一般人にとっては高級品である魔力水が使われているというのは、かなりのアピールポイントらしい。


 だが、順調だった屋台に水を差す奴らが現れた。


「おうおうおうおう! 不味そうな物売ってるなぁ!」

「こんなパンの出来損ないみたいな喰い物、売ってんじゃねーよ!」


 うわぁ。世紀末の住人が来たよ。モヒカンに、鋲付きのレザージャケット。ファンタジー感ゼロの格好してるな。


 分かりやすい妨害だ。他の参加者が雇ったチンピラなんだろう。ステータスを確認すると、凄まじく弱い。厳つい外見なので一般人相手には威張れるんだろうが、冒険者相手だったら駆け出しレベルだ。いや、普通の料理人相手だったら十分か?


「おらおら、とっとと消えろ!」

「どうせクソ不味いんだろうが! 見てるだけで吐き気がするんだよ!」

「なんなら俺たちが手伝ってやるよ!」


 そう言って棍棒のような物を取り出すチンピラたち。お客さんからキャーという悲鳴が上がる。


 しかし、次の瞬間には全員が地面に倒れ伏していた。


 カレーパンを揚げていたはずのフランが、いつの間にかチンピラたちの後ろに立っている。まあ、奴らがカレーパンを不味いって言った瞬間から動き出していたんだが。


 雷鳴魔術で麻痺させられ、4人のチンピラは動けない。


 さっさと販売を再開したいが情報も欲しいな。


『フラン、とりあえずこれでいい。後は俺に任せておけ』

(ん。わかった)

『ウルシ、1人連れて来い』

「オン」


 俺はウルシが物陰に引きずってきたチンピラの1人をストーンウォールで囲んだ。サイレントも使い、これで悲鳴が外に漏れることもない。


『さっさと済ませないと。コルベルトが衛兵を呼びに行っちゃったからな』


 俺は分体を創り、男を平手で何発か叩いた。すぐに男が目を覚ます。


「あん?」


 ドガ


「ひぐぅっ」

「ヒール」


 目を覚ました男の頬を殴る。そしてすかさずヒール。


「えぇ?」


 ゴキャ


「ぎゃぁ!」

「ヒール」


 今度は足を蹴りで叩き折った。そしてまたヒールだ。


 殴ってはヒール、蹴ってはヒールを10回ほど繰り返すと、男に恐怖を刻み込むことには成功したようだ。俺がピクリと動いただけで怯えたような表情で悲鳴を上げる。


 よしよし。これでお話を素直にしてくれそうだ。


「聞きたいことがある。話すならこれ以上何もしないと約束しよう」

「な、何でも話す! 話すからぁ!」


 その後はスムーズだった。何を聞いても嘘1つつかずに素直に答えるし。


 こいつらは冒険者や傭兵になる勇気も気概もない、街中で一般人から金を巻き上げるくらいしか能がないクズどもらしい。


 昨日の夜、よく知らない男に雇われたという。1人1万ゴルドを気前よく払う相手だったとか。依頼の内容は指定した屋台に嫌がらせをし、屋台を破壊すること。どうやら複数の不良グループが雇われて動いているみたいだった。こいつらは普段8人くらいでつるんでおり、今日は半々に分かれて行動しているらしい。こいつらが襲う様に指定されたのが、黒しっぽ亭とバルボラ孤児院だ。


 雇い主の素性を聞いてみたが、何も知らなかった。本当に使い捨ての使い走りだったようだな。仕方ない。とっとと衛兵に引き渡そう。


「おい」

「は、はい」

「お前らはこれから衛兵に引き渡す。聞かれたことには全部答えろ」

「わ、わかりました」

「だが、俺のことは一切喋るな。喋れば殺す」


 そして、俺は指を魔力で光らせ、男の額に突き付けた。


「な、なにを……?」

「お前に呪いをかけた。俺のことを誰かに話したら、俺に伝わるからな」

「喋りません! 絶対喋りません!」


 別に何もしていないんだけどね。ただのハッタリだ。だが、男は信じたみたいだ。


「これからは精々改心するんだな。次に出会った時に馬鹿な真似をしていたら……」

「か、改心します! もう悪いことは絶対にしません! だから命だけはぁ!」


 ということで、チンピラたちはコルベルトが呼んで来た衛兵によって連行されていった。終始怯えた表情の男を見てコルベルトが訝しげな表情をしていたが、特に何かを聞いてくることはなかった。


『孤児院が危ない』

(師匠、行って)

『いいのか?』

(わたしはここにいないとダメ)


 ここの屋台の責任者はフランだしな。出場者は俺になっているが、代理としてフランが登録されている。ギルドの監視員もいるし。ここを離れたらいろいろマズいのだ。


『じゃあ、俺とウルシで行くさ』

「オン!」

(店は任せて)

『おう、頼んだ。行くぞウルシ』

「オンオン!」


 ウルシが俺を影にしまい込む。こういう時、剣の体は便利だね。生物じゃないから道具として収納されることができる。しかも影の中から外を見ることも出来た。


 ウルシは出来るだけ目立たない様に、かつ全速力で町を駆ける。途中で衛兵が追いかけてくることもあったが、人の足でウルシに追いつけるはずもない。また、目立つように付けられた従魔証のお陰か思ったよりも混乱は少なそうだった。全くないわけじゃないけどね。途中で驚かせて泣かせてしまった少年少女に心の中で謝っておく。


『見えた』

「オン」


 孤児院の屋台は特に混乱もなく、人々が列をなしている。300人以上並んでるんじゃないか? さすが人気店だな。


「オンオン」

「あー! ウルシだ!」

「ウルシ!」

「どうしたのー?」


 先日ほんの僅かに触れ合っただけだが、孤児院の子供たちはウルシを覚えていてくれたらしい。ワラワラと寄ってきた。おいおいお手伝いは良いのか?


 そう思ったのだが屋台の手伝いは主に年長の子供たちがやっているらしく、小さい子供たちは単なる賑やかし役らしい。


 子供たちに撫でまわされ、ウルシはご満悦である。普通の人には大抵ビビられるからな。子供たちは孤児院を救ったフランの飼い犬であるウルシに好意的なため、怖がる子供は全然いないみたいだ。


 ウルシも楽しんでいるし、しばらく待って見ようかね。何事もなければそれで良いし。


 そんなことを考えていた直後だった。


「おい! 何だこのスープは! こっちは金払ってるんだぞ! クズ野菜しか入ってねーじゃねーか!」

「す、すいません」

「許さん! 今すぐ店たため! そうしたら許してやるよ!」

「で、ですが……」

「逆らうのか?」

「うう……」


 既視感だ。さっき俺たちの屋台に来たチンピラにそっくりな男たちが、イオさんと売り子をしている子供たちに絡んでいた。


「ゆ、許してください」

「うわーん!」

「びえー!」

「うるせぇ!」

「俺達をイライラさせた罰だ! 土下座しな!」


 男たちに脅され青い顔のイオさんと、泣き出す子供たち。これは酷い。


『ウルシ』

「グルルル」

「ああん? 何だこの犬っころ?」

「なに唸ってるんだ! ぶち殺――ぎゃあ!」


 ウルシの体当たりが男の1人を吹き飛ばす。男は10メートル以上吹き飛んで、動かなくなる。


 残った3人にも次々と体当たりだ。弾丸のようなブチかましが決まり、男たちが空を跳ぶ。


「オウーン!」

「やった!」

「ウルシかっこいい!」

「オンオン!」


 ウルシは道に倒れる男たちを咥えて引きずってくると、1ヶ所にまとめる。そして、折り重なるように倒れる男たちの上に飛び乗ると勝利の遠吠えを上げた。子供たちがキャーキャーと声援を送っているな。子供たちにトラウマが残らなかったようで何よりだ。


 その後、チンピラたちは子供が呼んできた衛兵に連行されていった。


 ただ、俺たちがこなかったら結構ヤバかったんじゃないか? どこのどいつか知らないが汚い真似をしてくれるじゃないか。


『とりあえず戻るか』

「オン」


 さすがに日に何度もチンピラを送ってくる様な真似はしてこないだろうし。実際、俺達が屋台に戻った後も特に問題は起きずに終了の時間を迎えたのだった。



 屋台を預けるため、各屋台が料理ギルドに戻ってくる。そこで他の屋台にも妨害があったか情報収集してみたのだが、黒しっぽ亭、バルボラ孤児院以外にも、竜膳屋、ノーブルディッシュの2店にも妨害があったらしい。


「大丈夫だったの?」

「ああ、竜膳屋の店主は元々ランクA冒険者だったからな」

「じゃあ、強いの?」

「今でもチンピラくらい問題ねーよ。なにせ、昔は店で使う竜肉を自分で仕留めて手に入れてたって話だ」


 へえ。元ランクA? しかも竜殺し? 俺は料理ギルドの職員と話している竜膳屋の店主を鑑定してみた。


『え? あれで60歳?』


 てっきり40代半ばくらいだと思っていた。凄い若作りだな。それに強い。第一線を退いて長いせいか、戦闘系のスキルやステータスは下がってしまっている。数値的に見ればコルベルトよりもやや弱いくらいか。だが、戦いたくないのはどっちかと言われたら、こっちだな。


 数値じゃ表せない戦闘経験と老獪さ。それは単純な数値よりも厄介だし。


 ノーブルディッシュの代表は、何やら取り巻きを大勢連れた偉そうな男だった。領主の次男が代表を務める商会お抱えの料理人らしい。しかも、この男自身も領主の3男なんだと。


 あまり強そうじゃないが。どうやって切り抜けたんだ?


「自分はどうなっても構わないから、お客に手を出すなって土下座したらしいぜ。そうしたら、その気概に免じて今日は見逃してやるとかいう話になって、帰っていったんだと」


 その話が美談として、バルボラ中に広まっているらしい。明日以降、ノーブルディッシュに人気が集まるかもしれんな。


 結局は襲撃された4店に被害は出なかったのか。でも、明日以降も気を付けないと。面倒なことだ。


 バルボラ孤児院が明日も襲われるかもしれないし、できれば守りたい。そう思って話を聞いたら、孤児院出身の冒険者たちが明日から護衛兼手伝いに来てくれるらしい。だったら大丈夫だろう。良かった良かった。


 とりあえず初日は終了である。屋台を料理ギルドに預け、コルベルト達と分かれると俺達は店舗に戻ってきた。今日は思ったより売り上げが良かったからな。宿に戻る前に作り置きのカレーパンを補充しようと考えたのだ。初日だけで7千個も売れるとは思ってもみなかった。


 俺はカレーパンを揚げながら、襲撃について考える。参加者の誰かがライバルを蹴落とすために雇ったのは間違いないと思うのだ。ただ、20人も参加しているし。そいつらのスポンサーや仲間も合わせたら容疑者は100人を超えるだろう。除外できるのは今日襲われた4店だけだ。


 いや、待てよ? 考えてみたらおかしくないか? ノーブルディッシュだ。土下座したら帰っていった? 出来すぎだ。孤児院でだって謝ってたけど、屋台を壊されそうになってたし。


 怪しい。領主の子供って聞いたから多少の偏見はあるかもしれんが、やっぱり怪しい。


 少し監視するか?


『ウルシ』

「オン」

『領主の3男とかいう男の匂いは覚えているか?』

「オン」

『よし、今日の夜からそいつを監視しろ』

「オウ!」


 という事で、ウルシに頑張ってもらいましょう。俺はカレーパンを作らなきゃならんし。フランは育ち盛りだから寝ないといけない。明日も屋台に居てもらわなきゃならないしね。


『ウルシ、頼んだぜ』

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさになろう、 ゲームパラメータが、ちゃんと明示されていて、 強くなっていくワクワク感がたまらない作品でした。 [気になる点] この章。 分体、としか書かれておらず、剣なのか、人間の姿なの…
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