1187 ホルナ村の子供たち
ホルナ村へとやってきて数日。
俺たちは、思いがけず穏やかな日々を過ごしていた。
半蟲人たちが守っているお陰で防衛戦に駆り出されることもなく、村人たちは誰もが好意的。レイドス王国の兵士などが、逮捕しにやってくる気配もない。
そんな村でフランとウルシは、子供たちと遊びながら体を休めていた。レイドスに入ってからの激戦で、フランもウルシもかなり疲弊していたからね。
ここで肉体的にも精神的にもゆっくりと骨休めができるのは、非常に有難い。
「なぁ! フラン! 今日は何して遊ぶんだ?」
「昨日のドロケイ面白かった!」
「うん!」
鬼ごっこと隠れんぼくらいしか遊びがなかったこの村の子供たちに、ドロケイという革命をもたらしたフランは、子供たちから天才扱いである。
かなり懐かれていた。
まあ、本当は俺が教えたんだけどさ。この人気を維持するためにも、新たな遊びを教えなくてはなるまい!
(今日は何する?)
『今日やる遊びは、ベーゴマだ!』
(べーごま?)
『ああ。今朝フランの次元収納に仕舞ってもらった、箱を取り出せ』
(ん)
昨夜のうちに俺が夜なべして、ベーゴマを作っておいたのである。破損した武器を炎で溶かして、念動で成形したものだ。あまり綺麗なできではないが、子供のおもちゃならこんなもんだろう。
フランが取り出した箱を興味深く覗き込み、ベーゴマを手に取る子供たち。
「これなにー?」
「それはベーゴマ」
「べーごま? 玩具なの?」
「ん」
子供たちは興味津々で、ベーゴマを弄っている。独楽はあるはずだが、この村ではポピュラーじゃないんだろう。
まあ、事前にリサーチ済みだけどね!
「どうやって遊ぶんだ?」
「?」
「なんでフランお姉ちゃんが首傾げるの?」
(師匠、どうやって遊ぶ?)
すまん。先に教えとくべきだった。
俺はフランにベーゴマの遊び方を教えて、子供たちに実演した。フランはこれで器用だし、上手く紐を巻いて、箱の上に張った皮の上へと投げ放つ。
「おおー!」
「すっげ!」
「かっこいい!」
フランが回したベーゴマを見て、子供たちが歓声を上げる。よほど面白そうだったのか、あっという間に村中の子供たちが集まってきて、ベーゴマで遊び始めた。
フラン程上手く回せる子はまだいないが、その内プロ級の子が生まれるだろう。子供っていうのは、遊びに本気だからね。
そんな中、遊びの輪に加わらず、遠くからこちらを見つめるだけの子がいた。木の陰からこっちを見つめている少女だ。
「あの子は?」
「あー、ミーミな!」
「ひとみしりってやつなんだって!」
ハブられているわけではなく、見知らぬ相手に人見知りが発動しているだけらしい。仲良くなれば、少しは話してくれるそうだ。
フランはそんな少女としばし見つめ合うと、ゆっくりと近寄っていった。野生動物相手に、殺気を悟らせずに近寄るかのような、気配や存在感を限りなく薄めての行動だ。
『フラン、相手は子供だからな?』
(ん)
跳びかかって確保するのかと思ったが、さすがにそこまでは考えていないようだった。
少女は自分に向かってくるフランを見てビクリと体を震わせたが、そこから逃げるようなそぶりはまだ見せない。気配消しがよかったのだろうか? それとも、子供であることがよかったのかね?
互いの距離がゆっくりと近づいていき、フランが少女の目の前に立った。
「一緒に、遊ばないの?」
「……」
「……ん」
黙ったまま俯いてしまった少女を見て、何か理解したようにうなずくフラン。すると、少女の前でそっと屈むと、視線を同じ高さに合わせる。
「私は、フラン」
「……ミーミ」
「ミーミ、一緒に遊ぼ?」
「……うん」
ミーミは俺の予想よりもあっさりと頷いた。フランも、自分と変わらない子供だと理解したんだろう。よし、ここはダメ押しをしておこう!
『ウルシ、小さくなって出てこい! そして、この少女に媚びまくってフランの印象をさらに良くするのだ!』
「オン!」
「うわぁ! 可愛い!」
狙い通り、少女はウルシの可愛さにメロメロだな!
「ん。従魔のウルシ」
「撫でていい?」
「オンオン!」
「いいって」
「ありがとう!」
ミーミがその場にしゃがみ込んで、仔犬形態のウルシを撫で回す。最初は恐々と背中を撫でていたが、次第に頭や腹に手が伸びていく。その動きも大胆になってきたな。
「オフー」
ウルシがご満悦だ。意外とテクニシャンであったらしい。
すると、他の子たちもウルシのことに気が付いて、周囲に集まってきた。
「オ、オン?」
あーあー、撫で方がメッチャ強引だな! 毛は抜いちゃいけません! あー、尻尾は引っ張らないであげて!
だが、あえて止めはしない。
(クゥンクゥン!)
『すまんウルシ。だが、これもフランがこの村で人気者になるためだ。耐えろ』
(キャイン!)




