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1180 マレフィセントの慟哭


 マレフィセントの神剣開放を、命令で無理やり止めたペルソナ。


 神剣開放を使えば、マレフィセントに取り返しのつかない事態が訪れる可能性もあった。それを防ぎたかったのだろう。


「おっと、全員それ以上近づくなよ!」

「むぅ!」


 ネームレスが、腰から抜いた短剣をペルソナの首に付きつけた。どぎついピンクと紫色の魔剣である。


『魔剣・ゼライセ』

(嫌な魔力感じる)


 インテリジェンス・ウェポンとなったゼライセだ。その刀身から気色悪い魔力を立ち昇らせている。


「……!」

「どうした? 力を封じられて驚いたか?」


 なんと、魔剣・ゼライセにはペルソナの力を封じる能力があるようだ。魔力封じ的なことなのか?


「くかかか、こちらとしては死んでいなければ構わんのだ。脅しではないぞ?」

「やめる!」


 ネームレスが刃を肌に押しつけたことで、何とか助けようとしていたフランも、影の中から奇襲を仕掛けようとしていたウルシも、動くことはできなくなった。


「くかかかか! この魔力の波長! 間違いない! お前の力の源は、戦神の分け身に連なるスキルだな!」

「……」


 ペルソナに対して狂気じみた声でそう叫ぶネームレスだったが、不意に苦しげな声を上げる。自身の顔を押さえた手が、痙攣するように震えていた。


「く……子供殺しどころか、傷つけることすら厭うというのか? 死霊の皇帝が何を甘っちょろい! くそ! 我を侵食するな!」


 ブツブツと呟きながら、頭を振る。


「もうここに用はない!」

「ペルソナァァ!」

「ダメ!」


 再度動こうとしたマレフィセントだったが、やはりペルソナに止められてしまった。俺たちも、動くことはできない。ネームレスが何故か不調に陥っていても、魔剣・ゼライセがいるからな。


 直後、ネームレスたちの姿が消えた。


 誰もが、見送ることしかできなかった。


「うおおおぉぉぉぉぉ!」


 マレフィセントの叫び声を聞き、フランが悲痛な表情を浮かべる。彼の声に込められた、悲しみが理解できたのだろう。


 フランは、額を大地に打ち付けながら慟哭を上げるマレフィセントを見つめる。だが、すぐに顔色を変えて、後ずさった。


「マレフィセント……」

「……あぁ」


 ヤバイ。これは、俺にも分かる。


「あぁぁぁ……」

「クゥン……」


 ウルシが怯えるのも仕方がない。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 マレフィセントの体から、凄まじい魔力が溢れ出していた。


 深紅の魔力が、間欠泉のように噴き上がる。


『は、離れるぞ!』

「ん」

「オン!」


 本来なら、激怒している場面だ。だが、ペルソナに怒るなと命令されたことで、マレフィセントは怒れない。いや、湧き上がる怒りがすぐに抑えつけられているのだろう。


 結果、悲しみと嘆きの念を暴走させていた。


 地面に座り込んだまま、天を見上げて咆える。


「レイドスのぉぉぉぉクソッタレどもがぁぁぁぁぁぁぁっ! ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 だが、不意にその叫び声が途切れた。


 脱力したように、その腕が垂れ下がる。そして、マレフィセントの顔が、グリンと回ってこちらを向いた。


「……黒雷姫」

「ん」

「俺……私は、いく」


 そう告げた直後、マレフィセントが空へと飛び出した。その背中には、いつの間にか蝙蝠のような羽が生えている。服や鎧に変化はない。魔力で生み出したものなのだろう。


 そして、マレフィセントはレイドスの空へと消えたのであった。ペルソナを追っていったのは分かるが、大丈夫なのか?


 ペルソナも、マレフィセントも、レイドスも。


『フラン、ここでこうしてても仕方がない。クランゼル王国軍と合流しよう。半蟲人たちに話も聞きたいし』

「……ん」



 それから約1時間。


 奇襲で受けた被害の後始末がようやく終わった。


 砦攻めと合わせると、異常な被害だ。これはもう、レイドス攻めなんて言ってはいられないだろう。


 東の軍勢と合流することが即座に決まり、今は出立の準備をしている。兵士たちもかなり疲れているんだが、ここで休憩するのが恐ろしいのか、文句も言わずに陣を引き払っていた。


 そんな中、俺たちはジャンと共に、救援に現れた半蟲人たちと向かい合っている。


「援護、助かった。ありがとう」

「いえ。レイドス王国は我々にとっても敵ですので」

「敵の敵は味方ってやつですな!」


 代表してそう話す赤黒い髪の女性は、蠍の半蟲人だ。隣にいる禿頭の大男は、兜虫の半蟲人だろう。


 全員がピシッと背筋を伸ばして立っており、明らかに兵士であることが分かった。冒険者ではないだろう。


「私はクイント」

「俺はボルドール」

「我々は、傭兵団『触角と甲殻』のメンバーです」


 彼らは、ナイトハルトの部下だった。以前話に聞いた、レイドス王国との戦いで倒され、捕らわれていた団員たちらしい。


 鎖国をするレイドス王国は捕虜交換などに応じることはなく、そのまま奴隷とされたのだ。多くの者は戦闘奴隷や鉱山奴隷として、レイドス国内で酷使されてきた。


 しかし、つい最近になって、ナイトハルトに救出されたのだという。


 蟷螂の半蟲人ナイトハルトは、クランゼル王国を敵に回してまでレイドスへと向かった。仲間を救出するためだと話していたはずだが、その目的をしっかりと達成していたらしい。


 ただ、その割にはナイトハルトの姿が見えないな?


「ナイトハルト、どこにいる?」

「……そのことで、お願いがあります」

「団長を、助けて欲しい! この通りだ!」


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ぜひご視聴ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忙しいな。 ペルソナも助けに行きたいだろうに…
[一言] レイドスは最終的に消滅以外の選択肢なさそうだよね 神罰によってか人の手によってかは分からないが敵を増やしすぎだし恨み買いすぎだし色々とやりすぎてる
[一言] ゼライセの目標って神罰なく制御可能な「深淵喰らい」のようなものを生み出すことでしたっけ。 いずれにしても一方的な利用は神罰案件だし、レイドス王国自体が自然神によって滅ぼされる可能性の未来もあ…
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