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1176 邪気を支配する者


 突如戦場に現れた半蟲人たち。


「黒雷姫殿! 援護いたします!」


 ナイトハルトはいないが、どうやら味方で間違いないようだ。触角と甲殻の団員なのだろうか?


 半蟲人たちは一瞬で状況を理解したらしく、兵士たちに向かっていった。とりあえず、フランが半蟲人たちに大事なことを伝える。


「殺さないで!」

「了解!」


 かなり無茶なことを頼んだ自覚はあるが、力強く頷いた彼らは、本当に兵士を殺さずに戦い始めた。


 元々は一般兵士とはいえ、暴走で強くなっている。あの狂乱振りでは、痛覚だってもう機能していないだろう。


 そんな厄介な存在を相手にして、半蟲人たちは余裕をもって戦えていた。かなり強い。


 最初に声をかけてきた女性は、蠍の半蟲人だ。硬い甲殻に、腰のあたりから伸びる長い尻尾。当然、毒針も付いている。


 女性はその尻尾を操って相手に巻きつけたり、鞭のようにも使えるようだ。今は殺さずに戦ってくれているが、いざとなれば毒針で相手を刺し殺すのだろう。


 腕も、片方だけを鋏化させることが可能であるらしい。兵士の繰り出す武器を鋏で受け止め、さらに破壊している。


 強いというか、巧いという感じの戦い方だった。


 もう1人、頭1つ抜けて強い奴がいるな。どうやら、兜虫の半蟲人であるようだ。


 特殊な能力はないんだが、とにかく硬くて速くて腕力がある。


 兵士の攻撃を甲殻任せに受け流しながら、そのドラム缶のような太い腕でぶっ飛ばす。もしくは、ガシッと捕まえては、ぶん投げる。


 とにかく、肉体任せのパワフルな戦いが目立っていた。


 その2人以外も、手練れ揃いだ。


 蝶や蛾は遠目でも解るが、それ以外は中々判別できない。外見では、ほとんど人と変わらない者も多いのである。


 あえて目立つ戦い方をして、兵士の目を引き付けてくれているらしい。オンスロートが兵士を人質にとる気満々なので、かなり有難かった。


 彼らに任せておけば、少しの間は大丈夫だろう。


 しかも、良い材料はそれだけではない。


 邪気で暴走状態の冒険者の一部が、正気を取り戻すのが見えたのだ。なんと、自力で目を覚ましたらしい。


 しかも、1人2人ではなかった。どいつもこいつも、見覚えがある顔である。


「うぉぉぉぉ! カレェェェー!」

「カレー!」

「隊長! カレェ!」


 輸送部隊にいた元不良冒険者たちだ。もしかして、フランズブートキャンプで心が鍛えられたからか? それとも、フランを見て、何か精神的に刺激が与えられた?


 ともかく、邪気によって正気を失うと言っても、そこまで強い強制力があるわけではないらしい。邪神に直接操られているわけでもないしな。


「隊長に迷惑かけんじゃねぇ!」

「お前ら! 隊長の邪魔すんな!」

「今こそ隊長に恩返しするチャンス! うらぁ!」


 あいつら、フランをあんな風に慕ってくれて……。そ、そんなこと言ったって、フランはやらないんだからね!


 でも、あとでお礼は言わせてもらおう!


 正気に戻った男たちが周囲の兵士や冒険者を殴って、目を覚まさせている。驚くほどの判断力と決断力だ。やはり、フランズブートキャンプが彼らを覚醒させたに違いない。


 それに、元輸送部隊員のお陰で、正気に戻すのがさほど難しくないというのが分かったのだ。


『フラン! オンスロートの相手を頼む! 俺は、兵士たちを正気に戻せるか試す!』

(わかった!)


 俺は広範囲の邪気を集めるイメージで、邪気征服を使用した。効果は想定以上で、凄まじい量の邪気が俺に向かって集まってくる。


 周囲に漂う邪気だけではなく、暴走する兵士や冒険者からも邪気が吸い取られているのだ。


 これで正気に戻せると思うんだが――。


「こ、黒雷姫殿!」

「嬢ちゃん!」


 半蟲人だけではなく、正気を取り戻した冒険者たちからも悲鳴が上がっていた。やっべ、はたから見たらフランが邪気に襲われているような絵面に見えるのか!


 ただ、暴走状態の男たちが次々と目を覚ますのを見て、フランが自分で行っていることだと分かったんだろう。すぐに冷静さを取り戻していった。


「みんな! ここから逃げて!」

「「「了解! カレー!」」」


 よし! あいつらが即座に退避し始めてくれたおかげで、他の兵士たちも逃げ始めてくれたぞ!


『今のうちに、オンスロートをやっちまうぞ! ただ、俺は邪気征服を使い続けなきゃならん。攻撃は任せる』

「ん!」

「オン!」


 折角正気に戻しても、邪気が濃いままではすぐに暴走状態に戻ってしまうかもしれん。俺は、邪気征服を使い続けなきゃならなかった。


「ちぃぃぃ! こうなりゃ……!」


 オンスロートが何かをしようとして――驚愕の表情で動きを止めた。


「なんでだ! くそ! くそくそ! どうして道が通らない! 邪気の制御が離れる!」


 形勢不利と見て、転移で逃げようとしたんだろう。だが、転移が不発で、焦った声を上げている。


『はっは! 成功だ!』


 周辺の邪気は全て俺が支配してるからな! そりゃあもう、全力で! オンスロートが放出した邪気も、当然俺の支配下だぜ!


 邪気の扱いは、俺の方が一枚上手らしい。


 生命線である逃走手段を封じられた気分はどうだ?


「くっそぉぉぉぉぉ! こうなりゃ、ここでお前を食らって、俺の糧にしてやるよぉぉぉ!」

「やれるもんならやってみる!」


 勝てないから逃げようとしたんだろ! 向かってこなきゃいけなくなった時点で、詰んでるんだよ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 話せる範囲で説明しようとすると ・この剣の能力で邪神の支配を完全に無効にできます。 ・それどころか邪気を吸収して自分の力に変換できます。 ……ダメだ、完全に邪神の祭具以外の何者でもない。 …
[良い点] とにかく面白い。 [一言] 連載を続けてくれてありがとうございます。 好きなシーンはよく読み直して元気をもらってます。 本当に面白い作品だと思います。
[一言] オンスロートの攻撃が何一つ通用しませんね^^;。まあ、そんな日も有りますよ。
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