1170 情報神の根源
『なあ、クローム大陸の不毛の土地にペルソナが関わっているのなら、何歳なんだ?』
クローム大陸に残るヘルの傷跡は、推定で500年前のものだったはずだ。じゃあ、ペルソナとマレフィセントは500歳以上?
長命種と悪魔の力を持っている者だし、長生きでもおかしくはないが……。
でも、マレフィセントって最近滅んだ国の王子だよな? それとも、俺が勘違いしているだけか?
(これは、私にしか聞こえていませんか?)
『ああ、これは、俺とマレフィセントにしか聞こえてない』
(……正確には、ペルソナの持つスキルが、関係しています)
念話だと分かると、答えてくれた。やはり、ペルソナにはあまり聞かせたくない話なんだろう。
(ですから、ペルソナ自身が行ったわけではありません)
『スキル?』
(ええ。情報神の根源という名前の、危険なスキルです。遥か昔にも、ヘルが使われた場所には情報神の根源を持つ者がいて、ヘルの痕跡を永続化させたのですよ)
500年前に、ヘルの使用者と情報神の根源の所有者が出会い、今と同じように友好的な関係を持っていたらしい。
そして、時を超えてマレフィセントとペルソナが出会う。それは、偶然なのか?
(情報神の根源は、あまりにも不明なことが多い。異常なほどの万能性に、重い代償。そして、誰も名前を知らない謎の神)
『は? 知らないって……情報神って神様、いないのか?』
(少なくとも、私は知りませんね。可能性としては、邪神の――戦神の眷属神だったのかもしれません)
は? 戦神の眷属神? 聞いたことないが、そんなのいたのか?
邪神に質問をぶつけてみるが、焦った様子しか伝わってこない。焦ってるってことは、関係していると言っているようなものだが。
なんか、正しいけど正しくない的な雰囲気だ。しかし、それ以上はよく分からなかった。ただ、邪神に関係しているなら、普通のスキルではない可能性もあるだろう。
(ペルソナは、自分の願望が私を呼び寄せ、ローレライの国を滅ぼしたと思い込んでいます。私は否定していますが……)
情報神の根源と、ヘルが過去にも関係があったと知れば、やはり自分が原因なのだと考えてしまうかもしれない。
マレフィセントも、自信を持って影響がないと言い切れないのだろう。嫉妬の悪魔に体を乗っ取られかけていたマレフィセントが、ペルソナを殺さずに連れ歩いていた。それは、どう考えてもスキルの影響だろうしな。
(ただでさえペルソナは、情報神の根源を制御しきれていません。周囲の情報を覆い隠す白紙の能力も、無意識です。多分、自身の素性を知られたくないと思っているのでしょうね。ペルソナもそれを自覚している)
『自分のスキルが、勝手に発動している可能性も、否定できないか……』
(ペルソナも、分かっていないわけではありません。しかし、彼女が目をそらしている事実を、あえて突きつけることはしたくないのですよ)
とりあえずマレフィセントが、ペルソナのスキルと、ローレライの国関係の話題をしたくないのだということは理解した。話題を変えよう。
「黒い壁の中で、何があった?」
それは俺も知りたい。いきなりロボが現れたからな。
「最初に、邪気を纏っていた男が消えました。強力な転移能力を持っていたのでしょう」
邪気の男は、上手く逃げたらしい。だが、ハイドマンは仕留めたという。まあ、奴は復活するだろうが。
さらに、マレフィセントは空間操作を使ってペルソナを取り戻す。それで相手は諦めるかと思ったが、逆にアンデッドたちは立ち向かってきたという。
「奴らはペルソナを執拗に狙ってきました。聖母の器がどうこうと……クソレイドスどもが!」
「!」
「おっと、申し訳ない」
聖母の器ね。それだけじゃ何のことか分からんな。黒骸兵団の第二席が聖母と呼ばれているそうだが……。器? 聖母が乗り移るための体? もしくは、生贄って意味か?
まあ、まともに扱われないことは間違いないだろう。
「ペルソナは、白紙の力がある。なんで、ペルソナが聖母の器になるって分かった?」
「ああ、ペルソナの能力を見破ったというよりは、聖母という存在との魔力的な相性が判断基準のようでしたね」
聖母の器となるには、相性の良さが必要であるらしい。
聖母の器を得るというのはよほど大事なことであるらしく、ネームレスたちは神剣相手でも怯まなかった。
「そして、サイサンス殿を生贄にして、あの巨大な金属兵士を呼び出しました。その時にはすでに、中に人が搭乗していたようですね」
マレフィセントは一応反省している感じで喋っているが、ペルソナさえ返ってくればサイサンスを見捨てることもあり得るだろう。人質にならないと判断したネームレスが、邪魔になる前に殺したんじゃなかろうか? まあ、ここでは言わないけどさ。
「あの銀色の。あれ、なんだった? あと、中に入ってた奴、誰?」
「ペルソナが視た結果、あの大型金属兵の名前はアルマンドゥーラ。そして、乗り込んでいた人物は西征公爵でした」
「アルマンドゥーラ?」
『いや、そこじゃないだろ! 西征公爵だって? マジか?』
「……!」
ペルソナが大きく頷く。冗談ではないらしい。
『なんで公爵がこんなところにいるんだよ! しかも、死んだよな? え?』
敵の首魁が、あっさり死んだんだけど!
「大型金属兵は、公爵でなければ操ることができないのでしょう」
公爵が抉り出してどこかへと転送した、左右の義眼。右目が『上位従機召喚ユニット』、左目が『生体改造同化ユニット』というらしい。
従機というのが、ロボのことなのだろう。
「……遥か昔、見た覚えがあります。それこそ、我が祖国が滅ぼされたその時に」
レイドス王国にはあのロボのような金属製の兵士が何百体も存在しており、マレフィセントの祖国をあっという間に蹂躙したそうだ。
「先程戦った大型は、レイドスでも最上位の戦力でしょう。過去見た金属兵士たちは、あれ程大きくて強くはありませんでした」
公爵専用のワンオフの特別機だったのかもしれない。
左目の生体改造同化ユニットは、装備者の体と魔導機を融合させ、双方の能力を最適化するという能力があるそうだ。
魔導機っていうのが、どうも宝具のことらしい。宝具を自身と融合させて、強化できる装置ってことかな?
それを使い、従機と融合を果たし、強化していたってことなのだろう。
「小型の金属兵が近年姿を見せなかった理由は分かりませんが……。今後、レイドスもなりふり構わず使ってくるでしょうね」
神剣に敗北したとはいえ、ロボはかなり強かった。あれよりも小さくて弱いとはいえ、数が揃っていたら厄介である。
まだ、勝利確定じゃないってことね。




