1163 Side ペルソナ&マレフィセント
Side ペルソナ
私は、忌子って呼ばれてました。ローレライの忌子。
生まれちゃいけない子供なんだって。私を産んだせいで、お母さんは死んじゃいました。ごめんなさい。
ちっちゃいころは女の人にお世話されたけど、だんだんみんなが怖くなっていきました。お話ししてくれなくなって、この忌子ってどなられます。ごめんなさい。
でも、しかたないんです。だって、泣くたびに周りの人を攻撃しちゃう子供なんて、誰でも嫌ですから。それに、私が大きくなると、被害は大きくなっちゃいました。ごめんなさい。
私の言葉が、本当になっちゃうのです。治れって言ったら治って、増えろって言ったら増えて、枯れろって言ったら枯れて、死んじゃえって言ったら死んじゃう。
誰かが、世界を塗りかえる力って言ってた。概念というものを押しつけるんだって。
子供の力だと虫とか草にしかききません。でも、私がもっと大きくなったら、もしかしたら人も……。みんな怖い顔で災厄って言ってました。ごめんなさい。
そんな気持ち悪い子、誰もお世話をしたがらないです。私はお札とか鎖をいっぱいつけられて、暗い部屋に閉じ込められました。
話す人もいない、すごく暗い部屋。そこが、私の世界でした。一応食べ物は運ばれてくるけど、みんな私と話してくれません。話してくれても、悪口を言われて終わりです。
私は、ずっと独りぼっち。
最初からそこに閉じ込めていてくれれば、きっと悲しくなんてならなかった。でも、赤ちゃんの時に優しくしてくれた記憶が、邪魔をします。
寂しい、苦しい、悲しい、人と一緒にいたい。でも、私の力は封印をされて、言葉はもう何も起こしません。でも、そのせいで、私は自分の言葉の重さを忘れてしまってました。自分の言葉が、呪いなんだって。ごめんなさい。
そして、私は願ってしまいました。
暗闇に、心まで真っ黒にされてしまったんだと思います。私は、呟いてしまいました。
「こんな国、滅んじゃえ……!」
その時、私は確かに感じたのです。私の魔力が言葉に乗ってしまった。
でも、何も起きない。私は、自分で滅んじゃえって思っておきながら、ホッとしました。だって、本当に人を傷つけるつもりなんて、私にはないから……。
でも、何も起きていなかったわけじゃなかった。
私の言葉は、あの人を引き寄せたのです。
全部を滅ぼして、私を連れ出してくれた魔人さん。
あの人は、私のせいじゃないって言います。私の力に呼ばれたわけじゃないって。自分の意思だって。
でも、本当にそうなの? 私が、この国を壊したんじゃないの?
だから、私はもう、言葉を喋りません。人を傷つけたくないから。魔人さんに頼まれて、力を使います。
もう私は忌子じゃありません。私の名前は、ペルソナです。魔人さんが、そう呼んでくれるから。
Side ベネフィス・ソフィアード
ペルソナは、私があの国を襲ったのは自分のせいだと言います。もしかしたら、そうなのかもしれません。でも、私が彼女の後悔を肯定することはありません。
彼女が、余計に自分を責めてしまいますからね。どうしようもなく罪に塗れた私に、新しい罪が加わるだけです。
私の生まれは、小さな国。北にレイドス王国。南にクランゼル王国という、2つの大国に挟まれた、小さい国でした。
まあ、私が20歳のころにはレイドスに落とされ、消滅しましたが。父も母も妹も弟も、全員が惨殺され、私だけが生き延びました。
そして、私はレイドスの奴隷とされ、人体実験の道具となります。我が王家はフィリアース王家の遠縁ということで、目を付けられたのでしょう。
様々な人体実験によって尊厳を踏みにじられる代わりに、私は力を手に入れました。血に眠る悪魔の因子が覚醒し、強力な肉体と、魔力を手に入れたのです。
しかも、レイドス王国がどこからか持ってきた謎の魔剣が、私を主と認めました。その魔剣こそ、獄門剣・ヘル。
神剣の力を使って研究所から逃げ出した私は、復讐だけが目的となりました。戦力を確保するために闇奴隷や金を集め続ける日々。
ああ、ヘルの代償は、使えば使うほど、体と精神が悪魔に変貌してしまうというものです。ヘルを使い続けた私は、嫉妬の悪魔に体を乗っ取られかけていました。
そのおかげで嫉妬の原罪というスキルを手に入れ、稀少なスキルに、魔力に、寿命。時には経験や記憶すら奪い、力を増していきましたが……。
その対価として多くの物を失いました。
経験値、寿命、能力、スキル、感情。
それでも私は止まりませんでした。いつしか復讐心さえ嫉妬によって歪められ、ただ人のスキルを欲し、長寿の種族を羨み、力ある者を貶めることに力を使うようになっていったのです。
そんな私が、何故かペルソナだけは手放さなかった。無論、彼女がもつ、概念の上書き能力『情報神の根源』は強力です。
でも、それだけではありませんでした。その時は分かっていませんでしたが、彼女の境遇に強い同情を覚えたのでしょう。
そのため、彼女を奴隷として、連れ歩きました。同情しているのに奴隷にするあたり、昔の私の歪み具合が出てしまっていますね。
そして、嫉妬の衝動に突き動かされるままにゴルディシア大陸を訪れ、私は嫉妬の原罪を失い、永久の忠節を手に入れました。
忠節の対象は――隣にいたペルソナ。
スキルの効果は凶悪で、私はペルソナを主と思うことに全く違和感を覚えなくなりました。この忠誠心がスキルによって植え付けられた物だと理解できていても、忌避感はないのです。
ペルソナのために名をマレフィセントと変え、ペルソナのために組織を潰し、ペルソナのために言葉遣いを柔らかいものに変え、ペルソナのために彼女が好きな英雄譚を集め、ペルソナのために汚れ仕事から足を洗い――。
ペルソナのために生きることに、喜びを覚える日々です。
復讐心が消えたわけではありません。レイドスは憎い。しかし、それ以上に、ペルソナが大事なのです。
そんな私から、ペルソナを奪う? ペルソナの声にならない悲鳴が、私の怒りに火を付けました。
永久の忠節によって普段は抑え込まれている悪魔の性。嫉妬の悪魔としての力を失った後、次に宿ったのは憤怒の悪魔でした。
原罪を得るには至っていませんが、それも近いでしょう。
全てを破壊したくなるほどの、強烈な怒りの情動。ですが、私を踏み止まらせるのもまた、ペルソナです。
私の腕の中で震える少女を傷つけないよう、全力は出しません。出せないのではなく、出さないのですよ? そこは重要です。
私が、そう選んでいるのです。
「ぶちころしてやるああああぁぁぁ!」
まあ、言葉遣いが少し悪くなるのは、許してもらいましょうか。
出遅れテイマーと転剣の更新日を取り違えておりました。申し訳ありません。