1161 ロボ?
赤騎士たちが退っていく。ネームレスたちの救出には動かないのかと思ったが、相手が神剣では何もできないんだろう。
団長を殺された紅旗騎士たちは、こちらに殺気を向けている。しかし、怒りに身を任せることなく、撤退していった。
『マレフィセントたちはどうなってる……?』
気にはなるんだが、黒いドームは相変わらず戦場の中央にあり、内部の状況を見極めることはできない。
今のうちに、共食いの成果を確かめるか。
魔力が900ちょい増えているかな? あとは、部隊強化スキルを得ている。カーディナルフラッグほどの強化ではないだろうし、範囲も狭いようだ。
黒いドームを監視しているウルシに、少し影響が出たのが分かる。発せられる魔力が、強くなったのだ。
それだけでも十分役に立ちそうだが、進軍の戦乙女と合わされば結構凄いことになりそうだった。やはり、大部隊を率いた時に真価を発揮するんだろうな。
その間にも、両軍は互いの砦に下がっていく。レイドスに比べるとクランゼル側はかなり混乱しているな。
マレフィセントの生み出した、不気味な黒いドームが自分たちの方に近いからだろう。見ているだけで不安になって、心に焦りが生まれてしまうのだ。
そして、両軍の撤退がまだまだ完了しきっていない中、黒いドームが内側から弾け飛んでいた。
凄まじい衝撃が生まれ、周囲のクランゼル王国軍が吹き飛ばされる。
(なんか銀色のが出てきた!)
『おいおい! なんじゃありゃぁ! ロ、ロボじゃねーか!』
それは、全身が銀色の金属でできた、二足歩行の人型ロボットであった。全長5メートルくらいはあるだろう。
形状は、装飾がちょいと多めな細身の全身鎧とでも言おうか。ただ、俺が巨大ゴーレムやリビングアーマーと言わなかったのは、赤く光る単眼や、関節部のパイプやケーブル、背中のバックパック的な部分にメカメカしさを感じ取ったからだ。
銀色に輝くボディに、各所を走る鮮烈な赤いライン。もう、絶対に強いじゃん。アニメだったら、準主役やライバル機のカラーリングじゃん!
(ロボ?)
『えーと、あれだ。金属でできた、生きていないけど動く、かっこいい奴のことだ』
(アイアンゴーレムは違う?)
『似てるけど、違うんだ!』
(ふーん?)
しかし、なんで急にロボットが出現するんだ? 立ち位置からして、レイドス側の戦力のようだが。
ペルソナは、すでにマレフィセントの腕の中にいる。取り返したらしい。そして、ハイドマンと邪気の男の姿が消えていた。
ロボに乗り込んだ? それとも、マレフィセントに倒された? 分からん!
(どする?)
『うーむ……』
鑑定をしようとしたが、ロボには弾かれてしまった。だが、エンジン音のような重低音と共に内部から放たれる魔力は、相当なものである。それこそ、天龍よりもこいつの方が強いかもしれん。
そんな相手に、無策で突っ込むのは――。
「動いた!」
『ちっ! とりあえず、撤退の援護だ! このままじゃ、奴らの戦いに巻き込まれる!』
「了解!」
やることは変わらない。今までは矢と赤い霧を防いでいたものを、ロボとマレフィセントの戦いの余波を防ぐだけだ。
正直、こっちの方が危険そうだが。
そもそも、マレフィセントは正気に戻ったのか? 仲間のことなんか眼中になさそうなレベルでブチギレていたが。
慎重さをかなぐり捨てて、全速力での撤退に移ったクランゼル王国軍。彼らを上空から見守りながら、戦いを見つめる。
ロボが初手で放ったのは、掌の穴から放つ光線だった。いきなりレーザーかよ! さらに、腹部が開き、そこからは火炎が放たれる。
どちらも、上位魔術並の魔力が込められているだろう。
だが、マレフィセントは余波すら発生させず、その攻撃を完全に無効化していた。
神剣ヘルは盾のような形状なだけあって、守りもかなり強いらしい。しかも、防ぐだけではなく、転移のような能力でどこかに攻撃そのものを飛ばしてしまう。
今の二段攻撃も、火炎は門の形状をしているヘルの中へと吸い込み、レーザーは障壁で散らしてみせたのだ。
「ペルソナは返して貰いましたが、それでは到底許せませんねぇ。報いは受けてもらいますよ!」
よかった。怒ってはいても、ブチギレてはいない。ペルソナが手の内に戻ったことで、少し落ち着いたらしい。
「ふははは! マレフィセント君だけではないぞ! 我を忘れてもらっては困るな!」
さらに、ジャンがアンデッドを召喚して、ネームレスたちへとけしかける。ロボ以外の敵を足止めして、マレフィセントを援護するつもりだったんだろう。
だが、次の瞬間には、全ての死霊たちが消滅させられてしまう。
「マレフィセント君! 攻撃相手を間違えているぞ!」
「邪魔なんですよ! 下がってろ! あれは、私の獲物です!」
マレフィセント、落ち着いたように見えてまだ激怒中でした。ジャンのアンデッドを狙ったわけではないが、全く気にせずに攻撃したようだ。
『ウルシ! 下手に近づくなよ!』
(オン!)
ウルシはドーレを背に乗せて、空中から攻撃の機会をうかがっていた。しかし、今あの戦場に近づくのは危険だ。
未知のロボもそうだし、ブチギレ継続中だったマレフィセントも。
「神剣使いが出たことは予想外だが、その少女は聖母の器足る! 我らが母の贄だ! 逃さんぞぉ!」
ネームレスが、ペルソナを指さして叫ぶ。聖母? 確か、黒骸兵団の第2席だったよな? 理由はいまいち分からないが、彼女に目を付けたらしい。
それを聞いたマレフィセントが、ワナワナと全身を震わせる。
「贄、だと? ふざけたことを……! 薄汚い死にぞこないがぁぁぁぁ! その言葉、後悔させてあげましょう!」
「クカカカカ! 貴様らの命を我らによこせぇ!」
ネームレスの叫びに呼応するように、ロボが再び動き出す。
そこからの戦闘は、まさに地獄のような激しさだった。
ロボはその全身が武器庫であり、光線、火炎、凍結、電撃、弾丸など、ありとあらゆる攻撃が放たれる。勿論、その巨体を活かした物理攻撃も可能だし、機動力も恐ろしい。
全身の至る部分から衝撃波のようなものを放つことで、急制動が可能なのだ。
当然ながら、その戦場は広い。逃げ遅れたクランゼル王国の冒険者が、その巨体に潰される事故が何度も発生している。
マレフィセントは彼らを守ることはしなかった。ペルソナだけが大事で、他は些事なんだろう。
『これは、砦を放棄しなきゃマズいんじゃないか?』
次回更新は3/31予定です。
「転生したら剣でした」の原作、15巻、スピンオフ6巻が今月末に発売予定です。
3/24に発売されたコミカライズ13巻との同時購入特典があるお店もあるので、チェックしてみてください。