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1158 紅の旗

 ペルソナたちが連れ去られようとしている。


 だが、追えない。ここを俺たちが離れたら、兵士も騎士も冒険者も、赤騎士に蹂躙されて終わる!


『ウルシ! ペルソナを助けろ!』

(オン!)

「ドーレ! あっちお願い!」

「分かりました!」


 ウルシたちは即座に動き出したが、もう遅かった。ドーレが跳び、ウルシが転移で急襲を仕掛ける直前。


「くかかかかか! よい素体が手に入ったわ! 次に会う時には、皆殺しにしてやろう! では、さらばだ!」


 それぞれが離れた場所にいるネームレスたちを、邪気が包み込む。すると、その姿が綺麗に消え去っていた。


 転移、それも邪術の転移だ。離れた場所の仲間を同時に転移させるとか、どんだけの熟練度なんだよ!


 ペルソナを抱えている男か?


 ネームレスたちの転移先は、上空である。天龍の背の上に出現していたのだ。


『天龍が向きを変えた……?』

(逃げられる!)


 天龍が攻撃を止めて身を翻したかと思うと、そのまま上昇して戦場を離脱していく。


 天龍の空中遊泳速度はかなりのもので、俺たちでなくては追えないだろう。だが、ローザが逃がしてくれない。


「おほほほ。ここでもう少し遊んでいきなさいな!」


 天龍を気にするフランに対し、赤い鎧の血死騎士団長が迫ってくる。


「どけ! おばさん!」

「おーほほほほ! 口の利き方がなってないわね! どいて下さいお姉さまと言ったら、考えてあげてもいいわよ?」

「どいてくださいお姉さま」

「……あら? 随分素直ですこと」


 フランの態度に、女が一瞬だけ驚きの表情を浮かべる。だが、すぐにニコリと微笑んで赤い霧を放ってきた。


「ちゃんと言った!」

「考えるって言ったの。通すとは言ってないでしょう?」

「なるほど」

「調子狂うわね」


 そう言いつつ、女に隙はなかった。


「私の赤い霧をこれだけの範囲で無効化されたのは久しぶりよ? その歳でやるわねぇ」

「……」

「あら? おしゃべりは嫌い?」

「邪魔するな」

「おほほほ! 敵の邪魔をするのは当然じゃなーい!」

「むぅ」


 高笑いする女をフランが睨みつけるが、怯むはずもない。むしろ、さらに楽しげに笑い始めていた。


「もっと邪魔してあげるわ!」


 邪魔と言えば、矢が止んだか?


 フランに集中していたはずの茜雨の矢が、突然止まっていた。代わりに、上空に向かって矢が上っていくのが見える。


 空中跳躍で天龍を追っていたウルシとドーレを、牽制しているのだろう。ネームレスたちの逃走を援護するつもりらしい。


 そんな茜雨の代わりに、マルス砦からはさらに赤騎士が出撃していた。


 重鎧に身を包んだ、巨漢の赤騎士たちである。全員が身長2メートルを超え、その手には自身の体ほどもある巨大なハンマーを持っていた。まともに歩くことさえできるのか怪しくなる、超重装備である。


 だが、赤騎士たちは一糸乱れぬ動きで、駆け出した。


 その最後尾には、強い魔力を放つ騎士が立っている。あの魔力に、手に持った深紅の旗。さらには、戦場を見渡すためにあえてフルフェイスを装備していない。間違いなく指揮官――団長だろう。


 アヴェンジャーの情報によると、紅旗騎士団という赤騎士団があるらしい。あの旗が、宝具だろう。放つ魔力が配下の赤騎士たちを包み込み、強化しているのが分かる。


「仲間の撤退を援護する! 心してかかれ!」


 よく通る渋いバリトンボイスで、配下に命令を下す騎士。


『ここに、3人も赤騎士団長がいたって言うのかよ!』


 紅旗騎士たちは血死騎士団と入れ替わるように、フランの前に立ち塞がった。血死騎士たちは撤退というわけではなく、遠距離攻撃に切り替えるようだ。


 紅旗騎士団長の名前は、ロブ・ローデス。灰色髪の苦み走ったダンディさんだが、その能力はローザ以上の脳筋さんだ。


 腕力が1000、体力が500を超える代わりに、他の数値は300以下という、腕力こそパワーを地で行くステータスである。ただ、指揮系統のスキルが充実しており、指揮官としても優秀そうだ。


 そして、宝具なんだが、これがまた強い。名前は『魔導兵強化兵装・カーディナルフラッグ』。指揮強化、軍団強化、軍団統制、軍団再生、情報共有、範囲障壁、■■■■だ。


 配下を超強化するタイプの宝具だった。しかも、その強化率が半端なさそうだ。なんせ、重装備の紅旗騎士たちの動きが、異常なほどに速い。


 さらに、斬り飛ばした紅旗騎士の腕が、生えやがった。軍団再生の能力だろうが、効果が高すぎる。スキルで言えば、高速再生のレベル7、8くらいに相当するだろう。


 この宝具、戦場では最強なんじゃないか? そこらの雑兵でも、ランクB冒険者並みになるかもしれん。


 無言のままこちらを睨むロブに隙は無く天龍を追うことはできそうもなかった。


 どうする? どうすれば――。


 ゾワリ。


 突如として、凄まじい悪寒が走った。


 さほど強い魔力ではない。しかし、寒気を覚えずにはいられない、気持ちの悪い魔力が戦場に流れ出していた。


 何というか、全身に纏わりついて、肌からしみ込んできそうな気色悪さがある。フランの腕に鳥肌が立つほどの、禍々しさだ。


 その中心にいるのは、一人の男だった。口元しか見えなくても、激怒しているのが分かる。


「マレフィセント……」

『あの剣……なんだ?』


 マレフィセントが手にしているのは、黒灰色の石で作られた、歪な形の剣である。歴史の授業で習った黒曜石のナイフや鏃を、そのまま巨大化させたような形状だ。


「貴様らぁ……ペルソナを怖がらせたななななぁ! 許さんぞぉぉぉぉぉぉぉ! 全員ぶっ殺してっ、ペルソナに手を出したことを後悔させてやるぁぁぁぁぁっ!」


 うわぁ、ブチギレてるんだけど……。本当に同一人物か?


「死ね! 死んで死んで死にまくってペルソナに謝りながら終われ!」


 驚愕の豹変っぷりだが、本当の驚きはその後にやってきた。


「侵し穢せ! 顕現せよ、ヘル! 神剣開放!」


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― 新着の感想 ―
うぇぇぇぇ⁉︎持ってんのかよ!
[一言] やーいお前んちの赤騎士団、人さらい〜
[良い点] ヘルだと!? めっちゃ近くにいたじゃん!
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