113 月宴祭
料理ギルドから調理場に戻ってきた俺たちは、黙々と準備を進めていた。
まずはスパイスの調合だ。
カレーパンの味別にスパイスを分け、それぞれを配合していく。ここが味の決め手と言っても過言じゃないからな。じっくり丁寧に混ぜ合わせる。
おいウルシ、クンクンしちゃだめだ。鼻息でスパイス飛んじゃうだろ! ああ、フランもくしゃみしたらスパイスが!
『とりあえず、スパイスの調合は剣状態の俺がやるから』
「ん」
「クゥ……」
本当は味見をしたり、匂いを嗅いだりできる分体で料理をしたいんだが、余り長時間は使えないし。いざと言う時まで取っておくことにした。
フランには食材の下ごしらえを頼もう。
「任せて」
「オン?」
『うーん、ウルシにはやれることないな』
「キュンキュン……」
『いや、そんな縋り付かれても』
「オンオンオン!」
『やる気は分かるんだが』
「オン……!」
『そんな後ろ足で立ち上がられてもなー』
後ろ足がプルプル震えてるぞ、大丈夫か? しかし、ウルシでも手伝えることね。何かあったかね?
ウルシが使えるとしたら、前足か口だろ? うーん。口で咥えて、何か……。
『あ、そうだ。バターでも作ってもらおうか』
「オウ?」
『ちょっと待ってろよ』
次元収納から取り出したのは、ルシール商会で仕入れた今朝搾ったばかりの牛乳が入った木樽である。チキンカレーパンのコク出しに使うのだ。本来は魔術で時間短縮しながら作るのだが、ここはウルシに頑張ってもらうとしましょうか。
俺はウルシを本来の大きさに戻させる。
『ウルシ、あーん』
「オー」
『ほれ』
「オフ?」
『いいか、絶対に噛み砕くなよ。木製の樽なんだからな』
「オフ」
『じゃあ、あとはその樽をシェイクだ。力の限り振り続けろ』
「オ、オフ……?」
『手伝いたいって言ってきたのはお前だぞ? いいからやれ』
「オ、オフ!」
俺の言葉を合図に、ウルシは激しくヘッドバンギングをし始めた。この勢いなら、1時間も振ってれば大量のバターが出来上がるだろう。ウルシはフラッフラになるだろうが。
その間に、俺はスパイス調合だ。
ゴリゴリゴリゴリ――
集中して調合してたら、いつの間にか夕方だった。いやー、あっと言う間だった。
因みに1時間頭を振り続けたウルシは、今も部屋の隅で蹲っている。
『フラン、準備は一旦止めて、月宴祭の見物に行こうぜ』
「ん。屋台」
『いや、パレードとかもあるらしいぞ?』
「ん、美味しい物たくさん」
『ま、いいけどね』
外に出てみると既に道は人でごった返していた。露店も並び、まるで縁日みたいだな。
『活気があるな』
「ん、もぐもぐ」
『え? もう何か食べてるの?』
「ん、イカ焼き」
「ボリボリ」
『ウルシは骨付き肉か? 外に出てまだ1分くらいしか経ってないんだけど。早くね?』
と言うかウルシはさっきまでグロッキーじゃなかったか?
「美味しいものが呼んでいた」
「オン」
やっぱ全てにおいて食欲が勝つんだな。
あっちにフラフラ、こっちにフラフラしながらフランは進んでいく。
なんだか音楽が聞こえてきたぞ。縁日みたいなピーヒャラ的な音ではなく、もっと外国チックな音楽だ。ラテンとエスニックの中間とでも言えばいいのかね。
行ってみると、5人ほどの楽団が路上で演奏をしていた。バイオリンっぽい楽器やバグパイプっぽい楽器など、異世界でも楽器の形は似てくるらしい。
そうやって祭りを楽しんでいると、いつしか日が沈み、夜の帳が下りていた。
すると、一際大きな歓声が上がる。
『お、なんか来たな』
「おっきい」
『山車だな。上に誰か乗ってるぞ?』
「巫女」
『へー、言われてみたら、神秘的な衣装着てるしな』
鑑定したら職業が神託者になっている。本当に神様の声が聞こえるのか? さすが神様が実在している世界だな。
この後祝詞と舞いを奉納すると言うので後をついていったが、人込みに捕まり、先に進めなくなってしまった。皆、考えることは一緒なんだな。このままじゃ、奉納の儀式に間に合わんかも。
『フラン、上から見ようぜ』
「ん」
ちょっとずるいが、特等席から見物させてもらうとしよう。俺たちは人込みを抜け出し、家屋の屋根に飛び乗った。そのまま屋根伝いに広場を目指す。時には空中跳躍を使い、時には木々を足場に闇夜を跳んで行く。
そして、奉納が行われる神殿前広場の横に立つ、時計塔の屋根までやってきた。ここからなら広場が良く見渡せるぞ。
大通りを見れば、もうすぐ山車がやってくる。グッドタイミングだったな。
しばらくすると眼下の広場では、巫女さんが神に捧げる祝詞を朗々と歌い始めていた。観客たちの騒めきも治まり、静寂の中に祝詞と楽団の奏でる神秘的な音楽だけが響いている。今度の音楽はどこか和っぽいな。
同時に、巫女さんとは別の女性が広場の真ん中に進み出て、舞いを踊り始めた。15、6歳くらいの華奢な体格の美少女だ。肩で切り揃えた銀髪を夜風に靡かせ、一心不乱に踊り続ける。
「綺麗」
『そうだな』
それに、動きが凄い。戦っても結構強いんじゃないか?
名称:シャルロッテ 年齢:16歳
種族:人間
職業:戦舞士
状態:平常
ステータス レベル:30/99
HP:146 MP:198 腕力:68 体力:77 敏捷:141 知力:96 魔力:100 器用:111
スキル
回避:Lv6、歌唱:Lv5、風魔術:Lv3、瞬発:Lv3、戦舞:Lv7、戦舞技:Lv6、体技:Lv3、体術:Lv4、舞踊:Lv8、水魔術:Lv3、気力操作、魔力操作
固有スキル
魅惑の舞
称号
戦巫女
装備
魔鋼の戦環、雪猿の耐寒服、真珠狼の外套、真珠狼のサンダル、耐魅の腕輪、美容の足環
鑑定してみたら、色々と面白い情報が見れた。戦舞士? 面白い職業だな。この戦舞っていうスキルがメインスキルなのかね?
戦舞:舞いながら戦うための体術スキル
戦舞技:見る相手を魅了したり、仲間に活力を与える舞
魅惑の舞:舞いの効果を強化する
舞いながら戦うとか、どこの漫画のキャラだ。武器も、手に付けてる金属の輪っかみたいだし。めっちゃ興味ある。
フランはじっと舞を見つめながら、収納から温かい生姜ジュースを取り出して飲み始めた。最近のお気に入りだ。
この辺では生姜を食べたりはしても、味付けに使うということが少ないらしい。地球のやつよりも辛みが少なく、大分甘いしね。なので、ジンジャージュースとか、生姜焼き的な料理は見たことがない。フランもジンジャージュースは初めて飲んだと言ってたな。
「うまうま」
「オウン!」
傍らに座るウルシの毛皮に体を埋めつつ、ホット生姜ジュースをチビチビと飲む。リラックスしてるみたいで、フランは滅多に見せない緩んだ顔でご機嫌だった。
眼下では幻想的な儀式が続いている。マジでここは特等席だったな。俺たちはそのまま静かに奉納の儀式が終わるまで見続けた。
『終わっちゃったな』
「ん。綺麗だった」
そろそろ戻って、仕込みを再開しないとな。いやー、儀式が綺麗すぎて、俺も見入っちゃったよ。でも、良い息抜きになったな。これでまた頑張れそうだ。




