1143 復活の報復者
アヴェンジャーが消えてしまい、なんとなくしんみりする一同。
砦跡地から少し離れた場所に軟着陸した後も、その雰囲気は変わらない。フランとウルシだけではなく、マレフィセントとペルソナも、どこか落ち込んでいるように見えた。
特にマレフィセントは、明らかに様子がおかしい。表面上は今まで通り微笑を浮かべたままなんだが……。悲しんでいるように見えた。
ただ、その様子を観察している余裕はない。俺たちの周囲に、アンデッドが湧き出していたのだ。
「アンデッド!」
『ウィッカーマンてやつが、生き残ってるんだ!』
さすがに、神炎が使われる前に退避していたらしい。どこだ? アンデッドたちは攻撃するというよりも、こちらに抱き着いて動きを封じようとしているようだ。
俺たちがアンデッドの相手をしていると、赤い閃光がマレフィセントを襲った。
「どこっ!」
『あそこだ!』
やはり、ロアネスがまだ生きていたか。さすがに自身の攻撃で自爆はしなかったらしい! 少し離れた場所から、こちらに対して砲撃を放ってきやがった。
マレフィセントは咄嗟に展開した障壁で何とか弾くが、消耗しきった今の状態では何度防げるか分からない。神炎励起を放つ前よりも大分威力が下がっているが、まだまだ凶悪なことに変わりはなかった。
『フラン! 跳ぶぞ!』
「ん!」
周辺を覆っていた神気はすでに消え去り、転移が使える。俺たちは一気にロアネスに近づき、斬りかかった。
だが、宝具によって防がれてしまう。あれだけのダメージを受けたあとに、神属性の派手な攻撃をぶっ放しても、まだ動けるらしい。
「チィ! コノ、餓鬼ガッ!」
「!」
『何だこりゃ!』
いや、もうダメージが回復したのか?
ロアネスの声が妙に甲高いと思ったら、その首が赤黒く変色していた。フランが切り裂いたはずの傷は、既に塞がっている。
魔力の質がおかしかった。人のようで、人じゃない。
鑑定すると、何が起きているのか理解できる。ロアネスの種族が、半死霊・変異中となっていたのだ。どうやら、死霊へと作り変わる最中であるらしい。
まさか、生きた状態で自らを死霊に変えているとは思わなかった。無理矢理実験体にされているわけじゃないのは、見ていればわかる。
死んだ後も戦えるように、あらかじめ術式を体に仕込んでいたんだろう。ウィッカーマンが協力すれば、不可能ではないかもしれない。
「死ネ! 死ネ死ネェ!」
ロアネスが宝具のトリガーを連続で引くが、少し変だな? 砲撃の発射タイミングが僅かにズレ、少し遅い。それどころか、速度も威力も半減していた。
使用者の状態次第で、放つ攻撃の威力が上下するのか? まあ、銃の形状をしているとはいえ、決められた弾丸を放っているわけじゃないだろうしな。
「クソ! 死霊ノ肉体デハ、使用者権限ニ引ッ掛カルカ……!」
『チャンスだフラン!』
「ん! はぁぁぁ!」
「餓鬼ガァ! ハシャグナァ!」
おいおい、フランの三連撃を受け止めやがったぞ! 消耗で多少速度は落ちているとはいえ、今までのロアネスならば火炎化を使わねば回避できなかったはずだ。
それを、受けきっただと? 鑑定すると、先程よりもステータスが上昇していた。それに、皮膚の赤黒い部分が先ほどよりも広がっているように見える。
死霊化が進むことで、能力が上昇していっているらしい。死霊術士――ウィッカーマンから魔力が流れ込んでいるようだ。それに、疲労などを感じなくなっているんだろう。
対して、フランは疲労が蓄積している。負けることはないが、決定打に欠けた。敵地でこれ以上消耗したくはないが、剣神化か潜在能力解放を使うべきか?
だが、そこで俺は違う方法を思いついていた。まあ、思いついたというか、そうしろって言われた感じだが……。
とっさにフランたちと打ち合わせ、準備を即座に終える。
『よし! いけるぞ! フラン!』
「ん!」
「馬鹿ノ一ツ覚エガ!」
再び斬りかかるフラン。同時に、ウルシが影からロアネスに跳びかかる。しかし、その奇襲はしっかりとロアネスに見破られていた。
砦の屋上での攻防と同じように、ロアネスが真下からの攻撃を火炎化で回避する。しかし、今回はこれで終わりではないのだ。
「ふはははは! 我、復活! 神よ! 巫女よぉ! 感謝しますぞぉぉ!」
「ナ、ナニィィ!」
ウルシの影から飛び出したのは、消滅したはずのアヴェンジャーであった。
いやね、俺の中でアヴェンジャーがうるさかったのだ。言葉が理解できるわけじゃないんだが、明らかに死霊属性の何かがアピールしてきていた。しかも、邪神の欠片もウゾウゾと主張してくるし。
そこで、死霊魔術のスキルレベルを上げて、アヴェンジャーをウルシの影の中に密かに召喚したというわけだった。やはり熱を持たない死者のアヴェンジャーを、ロアネスは感知できなかったな!
高位のグールなだけあって数分程度しか呼び出していられないだろうが、奇襲にはそれで十分である。最初は毒を使って少しでも消耗させられればと思っていたが、自信満々に「ロアネスの動きを止めて見せましょう!」とか言ってきたので、任せてみたんだが……。
驚いたことに、アヴェンジャーの鋭い爪が火炎化しているロアネスを捉えている。邪気の効果だろう。どうやら邪神の欠片から邪気を分け与えられているようで、凄まじい邪気を纏っているのだ。
ロアネスの火炎化が邪気によって乱され、解除される。
『今だ!』
「クソガァァァァァァ!」
「我が巫女はクソではないわ!」
アヴェンジャーうるさい!