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1142 神炎の雨


 降り注ぐ神炎の雨に対し、俺たちは協力して障壁を張った。俺とフランの使用した火炎魔術フレイムバリアに、ウルシとアヴェンジャー、マレフィセントの魔力障壁。そして、ペルソナの結界だ。


「!」

『ちぃぃぃ!』


 障壁を張り終わった瞬間、凄まじい負荷が俺たちを襲った。


 細く小さい神炎。最初の一粒が障壁に触れた瞬間、魔力がごっそりと削られる。一見頼りなげにさえ見える炎の粒は、それ1つ1つが上位魔術並の破壊力を秘めていたのだ。


 いや、それだけじゃない。


 ロアネスの宝具が放出する僅かな神気が周辺に渦巻き、こちらの魔術が阻害されていた。使用ができなくなるほどじゃないんだが、消費が倍増している。


 俺が転移で逃げなかったのも、嫌な予感がしたからだ。この状態で転移を敢行しても、狙い通りに逃げられるか分からなかった。下手したら、神炎の只中に放り出されるかもしれない。


 そして、本格的に神炎が降り注ぐ。


 俺たちの維持する障壁の外側が、朱一色に覆い尽くされる。同時に激しい振動と爆音が、障壁を通して伝わってきた。


 バチバチという音は、トタン屋根に豪雨が打ち付けているようにも思えるが、その破壊力は雨などという生易しいものではない。


 ただの障壁じゃないのだ。強者たちが協力して生み出した、この世界でも有数の強度を誇る壁だった。


 それが、大きく揺るがされている。極大魔術ですらあっさり防げる障壁が、薄くて頼りないものに感じられた。


「くぅ……」

「グル……」

『二人とも、頑張れぇ!』


 僅か数秒が、永遠に感じる。全員が魔力を限界まで放出しながら、踏ん張った。フランやウルシだけではなく、マレフィセントたちも苦しそうだ。ただ、このままいけば、何とか持ちこたえられるか?


 だが、安心するのは早かった。


 グラリという振動と共に、フランたちの足元が大きく揺れたのだ。そして、そのまま俺とフランの体が浮遊感に包まれる。他の皆もそうだろう。


 砦が神炎によって大きな損傷を受け、フランたちが立っていた屋上が崩落したのだ。俺は咄嗟に念動で全員を受け止めたが、完全に静止状態とはいかない。


 普段だったら問題ないが、今は緊急事態だ。僅かな集中力の乱れが、命取りになる状態だった。


 まずはアヴェンジャーの障壁とペルソナの結界が揺らぎ、次いでフランの魔術とウルシの障壁が歪む。マレフィセントの口元も、噛みしめられていた。


 障壁と念動を維持しながら、祈るようにして神炎からの解放を待つ。いや、もつのか? このままでは――。


 俺が僅かに焦りを覚えた直後、不意に俺の奥深くで邪気が蠢いた。この現象には、すぐ最近にも覚えがある。


 邪神の欠片だ。悪さをしているわけじゃないんだが、急にやられると驚くな! というか、封印されているくせに、自由度が高くね? 邪神の欠片さんだよ? もっとガチガチに封印されてなきゃいけないんじゃないか?


 気軽に邪気を発するとか、ピクニック気分かよ。しかも、驚きはこれで終わらない。


「ぬおおおぉぉぉぉ!」

「!」

『アヴェンジャー?』


 なんと、アヴェンジャーが突如雄たけびを上げながら、飛び上がった。


 そして、フランたちの盾になるように手足を広げながら、漆黒の障壁を張り直す。邪気を感知できなくとも、それが邪気であると全員が理解しただろう。


 そこにいる生者全員が鳥肌を立てるほど、凶悪な邪気が秘められていた。


 今までの経験上、邪気は他のスキルなどを乱す効果がある。しかし、アヴェンジャーが完璧に邪気を制御しているのか、俺たちの障壁に影響は一切なかった。


 対して、神炎には効果絶大だ。消滅するわけじゃないが、明らかに俺たちへの負荷が減少したのだ。もはや邪気というよりは、邪神気とすら呼べる力があった。


 俺の中の邪神が、力を分け与えたんだろう。


 そして、雨が止む。最後の数滴が、アヴェンジャーの体を穿ちながら。


 俺やマレフィセントであっても、ギリギリ耐えられなかった。しかし、アヴェンジャーのおかげで、フランたちは守られたのだ。


 灼熱の煙が立ち上る中、俺は念動を操作してゆっくりと降下していく。いや、このままではまずいな。砦があった場所は完全に全てが消え去り、深い穴と化していた。砦の残骸すら、燃えて消えてしまったのだろう。底が光って見えるのは、硝子化しているからか?


 ともかく、このまま降りてはフランたちが危険だろう。俺はなんとか念動を維持しながら、見えない滑り台で滑り落ちるように斜めに下っていった。


「アヴェンジャー!」

「ふは、死にぞこないと……」

「ん。死にぞこない。だいじょぶ?」


 フランは体液が付くのにも構わず、アヴェンジャーを抱きかかえる。首から下が消滅し、台座の壊れた胸像のような状態だった。


 再生が始まらないのは、神炎に焼かれたからだろう。これはもう、助からない。それが分かるフランは、悲しげである。


「我が巫女よ。我は、ここまでのようです……」

「……死にぞこないなのに」

「ようやく、死ねるわけですなぁ。巫女よ、我の中に渦巻く怨念の多くは、この場所にあった、今は亡き国の者が源となっているのです……」

「この辺の、国?」

「我らが故国、ソフィアード王国……。レイドスに……南征公に攻め滅ぼされ、我らは奴隷とされました……」


 アヴェンジャーの力の源泉である怨念。俺たちは勝手に、最近買われてきた奴隷の物だと思っていた。だが、昔から非道なことをやっていたらしい。浮遊島の研究成果のせいかもな。


「我が巫女よ……。我らの無念、どうか……」

「ん!」

「ありが、とう……。ああ、神よ……我なんぞを? 光栄、です……」

「!」


 フランが目を見開く。アヴェンジャーの体が黒い光に包まれたかと思うと、なんと俺の中に吸い込まれたのだ。俺は何もやっていない。邪神の欠片が、アヴェンジャーを迎え入れたのだ。


 だから、自由過ぎだってば!


次回更新は2/9予定です。その後は通常通りに戻せるはず!


レビューをいただきました。

アニメから知ってくださったんですね。

こちらこそ、長い作品にお付き合いいただき感謝しております。

しかも、地図! 地図を描いて下さった方は初めてですね!

ありがとうございます。


ネットで近所のカラアゲ屋さんを調べてたら、転したら剣でしたという文字が。

よく見ると、アニメ内に登場したフライドチキンを再現したという記事でした。

しかも、その再現度が凄いんです。写真とか、まんまアニメに登場する異世界フライドチキンでした。

スゲーと思って見てたら、師匠のカレーを以前に再現してた方でしたね。

いやー、チキンもカレーも再現度高すぎですわ! 明日、作ってみようかな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人剣と名前のつく割に人以外の同居人の多い師匠の中身
[良い点] だんだん邪神の欠片ちゃんがかわいく思えてきた。 もちろんフランが1番ですけどね!
[一言] アヴェンジャーは真の仲間ではなかった
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