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1140 宝具?


 マレフィセントが生み出した血の魔法陣の中から、全身くまなく漆黒に覆われた、人型の悪魔が姿を現す。


 手足は痩せすぎに思えるほどに細いが、白と黒が人とは逆転した黒目白瞳の眼には妙な迫力があった。のっぺりとした卵型の顔には、好戦的な猛々しい笑みを浮かべている。


 ただ、不思議と、武の匂いがしなかった。立っている姿からも、武術スキルのレベルは高そうに思えない。純魔術師か?


 この悪魔が戦場を単騎で支えられるほどかと言われれば、疑問であった。


 ランクB冒険者相当ってところかな? そう思ったんだが、この悪魔の真骨頂は戦闘力ではなかった。


「オオオオォッ!」


 悪魔が両手を前方に突き出して一咆えすると、視線の先にいたデュラハン数体が動きを止める。その直後、赤鎧の首なし騎士が、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。


「戦う力はそこそこですが、対死霊能力に特化しているのですよ。フォールンド殿と連携すれば、アンデッドの1000や2000、押し止められるでしょう」


 それでも純粋な戦闘力の面などで多少の不安は残るが、今は信用するしかないだろう。相変わらず砦からは火炎魔術が飛んできて、被害が出ているのだ。


 一瞬、デュラハン軍団を押し切って逃げた方がいいのではないかとも思ったが、ここで幹部を討ち取ればレイドス王国に痛手を与えられることは間違いなかった。


 それに、冒険者もだいぶやられている。その弔いをしたいという気持ちが、フランだけではなく俺にもあるのだ。まあ、フランの方がはるかにやる気だけどね。


(師匠! いく!)

『ああ、そうだな』

「マレフィセント。ペルソナは、どする?」

「勿論連れて行きますとも」

「……」


 マレフィセントに赤子のように抱えられた状態で、ペルソナも首をコクコクしている。そんな状態で平気なのかと心配になるが、マレフィセントが問題ないと判断したなら大丈夫なのだろう。


「わかった。ウルシの背中乗る!」

「おお! ありがとうございます!」

「……」


 先に背中に乗せられたペルソナは、ウルシの背にしがみ付きながらその毛をモフリまくっている。その口元は緩み、明らかにお楽しみだ。けっこう元気そうだなこいつ。


「お待ちを巫女よ! 我もお連れ下さいませ!」

「……わかった。マレフィセントの後ろにのる」

「はっ!」

「えー、毒出さないでくださいよ?」

「無論である。まあ、匂いまではどうもならんので、そこは諦めるがよい」


 アヴェンジャーって、フラン以外には偉そうなんだよね。それにグールだから、ちょっとネチャッとしている部分もある。


 ただ、連れていくならそこに乗るしかないのも事実。ここはマレフィセントに我慢してもらいましょう。


「うぅ。ペルソナ、後で全身浄化してください」

「……」

「フォールンド、ドナド、ここはお願い」

「ああ」

「あっちは頼んだ! だが、無理はするんじゃないぞ? 生き残ることが、冒険者の最も大事な仕事だっ!」

「ん!」


 ウルシは姿を隠すこともせず、そのまま砦へと突進していく。どうせもう、フランたちは目立ちすぎるほど目立っている。ここで姿を消したところで、警戒されるだけだ。


 ならば、正面から堂々といってしまおうと考えたのだった。


 案の定、火炎魔術の矛先がこちらに向く。

 

 これで、フォールンドたちの負担がかなり減るだろう。


『ウルシ、いけ!』

「オンオーン!」

「ウルシがんば!」

「……」


 少女たちの応援を受け、ウルシがさらに加速した。空中を駆け巡りながら、火炎魔術を華麗に躱していく。


 段々と激しくなる弾幕。向こうもムキになり始めたか? だが、ウルシの回避能力と、俺とマレフィセントの障壁があれば問題ない。


 空中を彩る無数の爆炎の中を、ウルシは軽快に進んでいった。


(師匠、こっからどする?)

『結界は……もうないな』


 砦に向かって攻撃を放つが、特に障壁などで守っている様子はない。こちらの想像以上に、砦の防衛機構は機能していないらしかった。


『だったら、このまま朱炎騎士団長のいる屋上へと突入だ!』

「オン!」


 さらに激しくなる攻撃を躱しながらウルシが屋上へと降り立つと、青年が歯ぎしりをしながらこちらを睨んでいる。近くで見ると、副団長イオネスに本当にそっくりだった。


 鑑定が通じるな。赤騎士団は対魔獣戦が主な任務なうえ、対外的な戦闘を想定していない。そのため、鑑定されることに対する備えをしていないのだろう。


 単純に、強い。魔力は1000を超え、火炎魔術のレベルが9、無詠唱に分割思考などの魔術師に有用なスキルをいくつも所持している。それでいて、剣術のレベルも7と高かった。


 素の能力でも、ランクA冒険者並みである。


 だが、この男の中で最も目立つのは、その装備品だろう。手に持つ、金属製の不思議な道具が、凶悪な魔力を放っている。


 形状は、全長2メートルほどの筒だ。そこに持ち手と撃鉄、引き金が付いている。それは、まるで銃であった。いや、銃というか、もっと近未来的な? SF作品で、二足歩行のロボットがビームをぶっ放すときに使う、レーザー砲とかそんな感じの見た目であった。


 名前も、とてもファンタジー世界の作品とは思えない。鑑定では『火炎術式制御武装・カーマインフレイム』と表示されていた。


 砲撃、火炎制御、火炎増幅、火炎吸収、効果共有、■■■■、という能力を有している。あれ自体が強力な大砲であり、配下に火炎制御などを共有することが可能であるようだ。


 しかも、■■■■の部分が不穏だ。以前、ソフィのステータスを見た時には、神剣開放が隠れていた。


 まさか、これも神剣ってことはないよな? 多分、これが宝具なんだろう。


 だが、男に問いかける前に、その銃口が赤々と光を放っていた。


「死ねっ!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ※以下の文は単なる一読者の妄想です※ マレフィセントがヘルの使用者な場合にありそうな動機は―― 大口顧客(レイドス)の(購入)持続可能性が怪しくなりそうなので確認、とか? 冒険者の…
[気になる点]  他の団員はいずこに? アヴェンジャーの情報が確かなら赤騎士総勢300人の内、出撃数が200人で、残りの無事な100人ほどがまだ何処かにいるはずだが……。  団長と宝具を守るために近…
[気になる点] そういえばヘルの使い手とマレフィセントの共通点優男という見た目の印象のほかに肌の色も同じなんだよな トリスメギストスが 「ヘルの使用者は、金銀妖眼、金髪黒肌をした、男娼の如き優男であ…
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