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112 カレーパン完成

『よし、完成だ』


 良いできなんじゃないか? 見た目は店で売っているカレーパンと同じに見える。


「師匠、味見はまかせて」

「オンオンオンオン!」


 カレーパンを網に置いて油をきっていると、おやつを食べていたはずの2人が尻尾をブンブン振りながら近寄ってきた。


『もうちょっと待て。まだ油っぽいからな』

「えー」

「オウ……」


 待ちきれないのか、2人はカレーパンの前で座り込んで待ち始めた。そんなじっと見たって、出来上がりが早くなったりしないぞ。


 こんがりキツネ色に揚がった、豚を使ったプレーンタイプ。生地にトウガラシを少しだけ練り込んで赤くした、牛を使った中辛タイプ。衣にパセリっぽいハーブをまぶしてアクセントを付けた、鳥を使った激辛タイプ。それぞれを6個ずつ作ってみた。


 揚げたカレーパンは網の上に15分ほど置いて、粗熱が軽く取れてきたら完成だ。


 半分は料理ギルドへの見本として提出するので、次元収納に仕舞いこむ。残りは涎を垂らして見つめているフランたちのオヤツだ。


『ほれ。食べていいぞ』

「ん!」

「オンオン!」


 待て状態の2人に「よし」と声をかけてやると、一斉にカレーパンに飛びついた。


「うまうまうま」

「オフオフオフ」


 プレーンタイプのカレーパンを3口で完食だ。モキュモキュと口を動かすフランたちにカレーパンの感想を聞く。


『どうだ?』

「これはこれで最強。カレーライスは至高だけど、カレーパンは究極」

「オン!」


 至高と究極って、どこのグルメマンガだ。まあ、美味いなら良かった。


「こっちも美味しい」

「オン」

『ウルシはこっちの方が好きか。フランはどうだ』

「甲乙つけがたし」


 中辛ならフランでも大丈夫と。激辛はどうだ?


「辛い。でも美味しい。でも辛い」

「オンオンオン!」


 フランはやっぱ中辛くらいまでが好きか。ウルシは激辛が1番気に入ったみたいだな。


 販売割合はどうしよう。激辛はやっぱ人を選ぶし……。初日はプレーン5割、中辛5割にしとくかな。2日目から味を増やせば話題にもなるかもしれないしね。激辛は様子見しつつ、売り出していけばいいかな?


『味に問題ないみたいだし、料理ギルドに行こう』

「ん。分かった」



 料理ギルドにやってきた俺たちが通されたのは、地下にある広い部屋だった。天井も高いし、まるで体育館みたいだ。


「ここに使う食材を出していただきます。大丈夫ですか? 持ち運びが難しい食材があれば、こちらから出向くことも可能ですが」

「だいじょうぶ」

「そうですか? 見たところアイテム袋もそんなには……」

「ん。じゃあ、出す」

「え? ええ?」


 そういう事ね。フランが手ぶらなのを見て、アイテム袋から少しだけ食材を出して、残りは倉庫かどこかに仕舞ってると思っていたんだろう。


 どうやら他の参加者も商品の提出には出向くものの、食材の査定は料理ギルドの職員を呼んで行うのが普通らしい。


 次元収納から食材を出し続けるフランを見て呆然としている職員だったが、直ぐに職務を思い出したのだろう。


 スキルを使って査定を始める。


「野菜に、小麦粉、こちらの樽は油か。あとは、香辛料が大量だな……」


 表に色々と書き込んでいるな。


「これは魔力水か? これはまた豪勢な。しかも魔獣肉? おお、グリンブルスティに、アピスに、グリンカムビとは!」


 1時間ほどかけて査定をしてもらった結果、すべての素材を合わせて15万ゴルドほどだった。材料を全部使ったら、カレーパン3万個は作れるだろう。つまり、1個5ゴルドの材料費ってことね。10ゴルドで売るつもりだから、原価率5割だ。想定よりも大分高いな。


 でも、勝負できない程の原価ではない。地球だったら光熱費とか人件費もかかるから、商売として成り立つか微妙なレベルだが。


 コンテスト参加者たちはあくまでも料理人なので、どの料理も味を追求するあまり、採算度外視で原価は結構高いらしい。薄利多売で大量に売りまくれば、勝つことは十分可能だと思う。


 因みに、販売に使用する食器や、人件費は勝負の中には含まれない。そっちは全部自費負担という事になるのだ。ただ、あまり凝った食器は使ってはいけないと釘を刺された。かなり昔、安いスープの器に超高級な食器を付けることで客寄せを行った参加者が居たらしく、それはさすがに反則扱いになるそうだ。まあ、当たり前だよな。


「では、そちらの試食と鑑定をさせてもらいますね」

「ん」

「では、いただきます――ほほう。これは美味しい! しかも不可思議な……」


 さすが料理ギルドの職員だけあって、カレーパンの美味さと珍しさが理解できたみたいだ。一口食べるごとに何やら頷いている。


「なるほど、味の違う物を用意しているのですね。材料も用意したもので問題ないようです」


 食べながら材料を特定していたらしい。「分析の舌」っていうスキルの効果なようだ。食べただけで全ての食材を言い当てるスキルとか、本気で料理マンガの登場人物みたいだ。


 その後は屋台を見せてもらった。使う屋台は料理ギルドが用意したものと決まっており、幾つかの種類から選ぶことができた。


 俺たちは調理台が最低限しかない代わりに、陳列棚が広めの物を選んだ。これなら、3人は販売員を配置できるだろう。


 屋台に掲げる看板は、デザインを渡せば料理ギルドが手配してくれるんだとか。なので、黒しっぽ亭という名前にちなんで、黒い猫の尻尾のデザインと名前を入れてもらうことにした。


 あとは、レシピを提出して終わりかな?


「あと、これ」

「は、レシピも確かに。こちらは責任をもってお預かりいたします」

「ん。じゃあ、これで終わり?」

「は、はい。しかし、あっさりとレシピを渡してくれましたね?」

「?」

「いえ、普通はレシピを渡すとき、皆さん結構躊躇されますので。大抵の人は封筒に入れて渡されるんです。開ける時は、絶対に人に見られない様に念を押されますし」


 俺たちはメモ紙に走り書きだ。職員さんが戸惑うのも分かる。


「特に、このような斬新で珍しい料理の場合、レシピの取り扱いにはかなりうるさい方が多いので」

「だいじょうぶ、信用してる」

「勿論、絶対に外部には漏らしません」

「ならいい」


 それに、レシピが流出してもそこまで困らんしね。だって、俺が1から作った訳じゃないし。むしろ、地球にあった奴を借りてるだけだ。思い入れもそこまでない。


 カレーのレシピを上手く利用すればかなり稼げるだろうが、お金に困ってるわけでもない。というか、魔獣を狩って売った方が儲かる気がする。


 レシピが広まってくれれば、この世界にしかないオリジナルレシピとかが誕生する可能性もあるし。そっちの方が、フランが喜ぶだろう。

 

 ということで、タダでレシピを広める気もないが、流出にそこまで神経質になる必要もないのだった。


『じゃあ、帰って仕込みだな』

「ん」


 これから徹夜でカレーパン作りだ。とりあえず各味5000個ずつ作り、次元収納にしまっておく計画である。店頭で揚げる分はあくまでも客寄せのためだ。売り物の大部分は事前に完成させておく。そうすれば補充も気にせずに売り続けられるからね。


 最悪余ったとしても、フランたちのオヤツになるだけだし。


「お、フラン嬢ちゃんじゃないか!」

「コルベルト? どうしているの?」


 料理ギルドのロビーで声をかけて来たのは、コルベルトだった。


「いや、実は嬢ちゃんを探してたんだよ! 今日ここに来るって言ってたから、待ってたんだ。もう直ぐコンテストだろ? 何か手伝えることはないかと思ってな」


 コルベルトが鼻息も荒く詰め寄ってくる。めちゃくちゃやる気満々だな。


「いや、本当に手伝いたいだけだぜ? 決して、お師匠さんの料理にありつけるかもとか思ってない!」


 なるほど、そういうことか。いや、それで手伝ってくれるならいくらでも奢るが。


(師匠? どうする?)

『どうせだから、売り子のあてがないか聞いてみるか?』


 レンギルに紹介してもらおうかと思ってたんだが、冒険者だったら護衛代わりにもなって都合が良い。


「当日の売り子を探してる。計算が出来て、料理もできるとなお良い。できれば3人」

「任せておけ! 明日には集めてみせる!」

「賃金は弾む」

「わかった。なら絶対に大丈夫だ。最高の人材を用意するぞ!」


 これで売り子の手配もオーケーだ。コンテスト開始まであと2日。最高のカレーパンを作って見せるぜ!


『フラン、手伝ってくれよ?』

「ん、頑張る」

『ウルシも見張り番よろしくな』

「オンオン!」



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― 新着の感想 ―
[一言] カレーパンを網に置いて油をきっていると、おやつを食べていたはずの2人が尻尾をブンブン振りながら近寄ってきた。 ウルシさんは兎も角、猫系獣人のフランさんも嬉しい時に尻尾振るのかな?現実のぬ…
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