1136 アヴェンジャーたちの扱い
「ドナド! だいじょぶ?」
「うむ……」
チャードマンを倒した直後に倒れ込んでしまったドナドロンドに、慌てて回復魔術を使う。やはり反動が大きい技だったんだろう。傷は治っても、即座には立ち上がることはできなかった。
「最後の凄かった!」
「あれは、今まで受けたダメージを、相手に返すという技だ。さらに命を削れば、感覚的に使える気がした」
変異して覚えた技を、ぶっつけ本番に使ったらしい。しかも、一定以上のダメージを負わなきゃ使えないっぽいな。それを死にかけながら狙うなんて、大胆だな!
「聞きたいことはいくらでもあるが……。今は貴族どもを助けるぞ」
「ん!」
フランたちがどうやってここに現れたのかとか、あのグールは何なのかとか、色々と気になっているんだろう。だが、今は戦闘中だ。後回しだと決めたらしい。
再び、周囲のアンデッドを駆逐し始める。
「どらぁぁぁ!」
ドナドロンドの斧が、敵のアンデッドをあっさりと真っ二つにした。敵のアンデッドの中でも、それなりに強い相手だ。
少なくとも、以前のドナドロンドなら苦戦必至であっただろう。だが、大きく消耗していながら、今は楽勝である。その斬撃は驚くほど豪快で、鋭かった。
「ドナド、すごい!」
「ふはははは! 力が漲っているからなぁ! 多少の疲れはあるが、筋肉はむしろ絶好調だぞ!」
「おおー」
ドナドロンドが「ふん!」と、鼻息荒く力瘤を作って見せる。モリッと膨れ上がった上腕二頭筋は、丸太のようだった。
元々筋肉質な鬼族だったのだが、今はさらにパンプアップされて2回りは大きく見える。その姿が強そうに見えるのか、フランはキラキラとした目でポージングするドナドロンドを見つめていた。
そして、自分でもポーズを取り始めた。ドナドロンドと同じ、バイセップスってやつだ。まあ、フランは余り筋肉質じゃないから、プニッとして見えるけど。
それが不満だったのか、フランはスンとした顔ですぐにポーズを止めると、アンデッドに斬りかかった。完全に八つ当たりだ。
だが、ドナドロンドとフランの活躍は周囲の冒険者たちを勢いづかせ、さらにアンデッド殲滅の速度が上がっていった。
マレフィセントはあまり目立ってはいないが、その援護が凄まじいことは分かる。挑発系のスキルで敵を引き付けつつ、周囲の冒険者に障壁を張ったり、バフをかけたりしているのだ。さらにデバフを撒いて敵を弱体化させてもいて、驚くほど万能だった。
それはペルソナも同じで、結界魔術と大海魔術を使い分け、冒険者たちを支えている。
敵の指揮官であるチャードマンは倒され、アンデッドを生み出していたスカベンジャーたちはグールが全て倒した。敵の指揮系統はもうズタズタである。
フォールンドとウルシが一時離脱していても、形勢はこちらに大きく傾き始めていた。すでにドナドが放っていた白い光は途切れているが、もう問題ないだろう。
敵の数はどんどん減っている。そうして余裕ができてくると、問題になることがあった。
「あのアンデッド、なんだ?」
「邪気を感じる気がするんだけど……」
「まじかよ!」
邪気を感じる者たちから、アヴェンジャーたちが異常であるという話が広がっていく。ドナドロンドも分かっているらしく、どこかアヴェンジャーを警戒しているようだった。
やはり、ただの死霊だと言い張ることはできそうもなかった。
そんな邪気を撒き散らすグールを使役しているフランも、遠巻きに見つめられる。
「おい! 小娘! 貴様は何者だ!」
生き延びた貴族の1人が、邪気を感じ取る能力を持っていたらしい。戦闘の影響で心身ともにボロボロになっているところに怪しいグールが現れたため、不安が爆発したんだろう。
こちらを指さして、喚き立てている。あまり周囲から好かれている貴族ではないが、その声の大きさは馬鹿にできない。
兵士や騎士、冒険者の一部は、フランに対して疑いを持ち始めているように見えた。
「私はフラン。ランクB冒険者」
「あのアンデッドは! 邪悪な気配を纏うアンデッドはなんなのだ! き、貴様、邪神信奉者ではあるまいな!」
さて、どうするか。マレフィセントたちは完全に他人事な感じだし、ドナドロンドも事情を知りたいだろう。
どう説明すればいいかね。
俺が悩んでいると、フランが先に動いていた。何故かドヤ顔で前に出ると、俺を高々と掲げて皆に見せたのだ。
「全部、この剣のおかげ」
「なに? 確かに、かなり強力そうな魔剣ではあるが……」
「このすーぱーすごい剣は、邪気を支配して操る力がある!」
「そ、そんな力、聞いたこともない! 嘘を吐くな!」
「ふふん。でも本当。それ以外にも凄い力がある、神級鍛冶師のちょーすごい剣!」
「おお! 我が巫女よー!」
「「「ミコよー」」」
アヴェンジャーたちが、フランを崇める言葉を口にしながら跪いた。ちゃんと操られている感を出そうとしたんだろうが……。わざとらし過ぎるだろ! これで信用しろなんて言ったところで――。
「も、もしや神剣なのか?」
「違う。でも、神級鍛冶師が作った」
「おお! なんと!」
あれ? この貴族、普通に信じたな。チョロすぎん? でも、フランの戦いは見ていたはずだし、俺がそこらの魔剣じゃないっていうのも見れば分かるはずだ。だとしたら、意外と信憑性はあるのか?
それに、敵地で大きな被害を出した今、何でもいいから縋る存在が欲しいのかもしれない。ドナドロンドはフランが嘘を吐くとは思っていないようで、やはり信じてくれたらしい。
そこに、さらなる援護があった。
「俺が、保証する」
「おお! フォールンドさん! 無事だったか!」
「そなたが百剣のフォールンドか!」
「ああ」
ウルシと一緒に戻ってきたフォールンドだ。冒険者を見下してはいても、ランクAとなると別格の扱いなのだろう。そのフォールンドが保証してくれたことで、貴族もそれ以外の者たちも、なんかあの剣スゲーって感じに落ち着いたらしい。
フランへの疑いの目も、ほとんど消えただろう。敵地で、邪神の信奉者扱いされずに済んでよかった。アヴェンジャーたちが、攻撃されても冒険者に反撃したりせず、アンデッドだけを倒し続けたのもよかったらしい。
(む? すごい魔力!)
『砦からだ!』
アヴェンジャーたちが受け入れられ、ホッとしたのも束の間。砦から凄まじい魔力が放たれていた。
『やられっぱなしで、大人しくしてる相手じゃなかったか!』




