1127 Side ドナドロンド 上
俺たち冒険者義勇兵の主力は、クランゼル王国の騎士団と共にレイドス王国軍と戦端を開いていた。
場所は、レイドス王国南西の丘陵地帯に築かれたスワイス砦。南部最大の都市『ラージヒル』目前の守りの要衝だ。
レイドスに攻め込む前はろくに地理も分かっていなかったが、占領した村落や捕虜からの情報と、拠点から手に入れた資料からの情報をもとに、大まかな地図が作られている。
その地図を見れば一目瞭然だが、スワイス砦を落とせばレイドス南部は完全に分断されてしまうだろう。
さらに北へと行けば平地が存在するが、この近辺は魔獣の多く潜む魔の森と、山岳地ばかりなのだ。スワイス砦を中心に四方へ走る街道が使えなくなれば、レイドス王国南部をまともに移動することさえ難しくなるだろう。
クランゼル王国だと、こういった街道の集約地点には宿場町ができるものだが、レイドスでは砦を築いて流通路を守ることを第一に考えているらしい。
ここまでの砦を難なく落とせたことで、騎士団も冒険者たちも油断していたのだろう。斥候から得た情報を基に、今までと変わらぬ布陣でスワイス砦に襲いかかってしまっていた。
それが、レイドスの罠とも知らずに……。
最初に異常が報告されたのは、砦の後方に回り込んだ遊撃隊からであった。彼らは、砦の裏門から密かに出撃するであろう奇襲部隊や、外からやってくる補給を妨害する役割を負っている部隊だ。
この時点ではまだ、クランゼル王国側は自分たちが圧倒的に有利であると考えていた。砦に籠る兵士は数少なく、砦の防御力も高いとは言えない。
今までのように包囲し、じっくりと砦を攻略するつもりだったのだ。
だが、最初の凶報は開戦後、すぐにもたらされる。500人ほどの遊撃部隊が、同数のアンデッドに襲われて壊滅したというのだ。しかも、撤退したアンデッドがどこに消えたのか、分からないという。
どこかに隠し通路のようなものがあるのか? それとも、ジャンレベルの術者がいるのか?
どちらにせよ、今までの砦とは違っている。一筋縄ではいかないだろう。その想いは、次なる報告で確信となる。
砦からの遠距離魔術によって、前線に被害が出たというのだ。今までも敵兵の中に魔術師はいたが、数は多くなかった。
だが、あの砦には部隊運用される数の魔術師が揃っている。それは無視できない戦力だ。やはり、今回の戦いは油断できん。
しかし、クランゼルの指揮官たちは、危機感が薄いようだった。作戦の変更を提案しに向かったが、陣中で茶など飲んでいるとは思わなかった。
「では、このまま方針は変えないということでしょうか?」
「そうだ。改めて遊撃部隊を派遣し、正面から攻めかかる。貴様らもとっとと配置につけ」
「あの砦はかなり危険です。作戦の修正を!」
「ふん。罠なんぞ、正面から食い破ればいいのだ。冒険者ごときが我らに意見するな! 黙って従っておればいいのだ!」
俺の言葉に対し、この軍団の指揮官の一人である貴族が、煩わし気な顔で言い返す。各貴族家がそれぞれ兵士を率いて独自参戦しているが、この男はその中でも特に多くの兵を率いる中心人物であった。爵位も伯爵位をもっており、発言権も強いのである。
ずっと後方支援などを行っていたが、此度の砦攻めが戦争の大一番と見たらしい。今までは代理を送ってくるだけであった作戦会議に、自らしゃしゃり出てきていた。
これまでは騎士団の人員と、高位冒険者で作戦を練っていたのだがな……。
3000人もの兵を揃える貴族の機嫌を損ねる訳にもいかず、彼の発言は受け入れられる。まあ、作戦自体はここまでの方針を引き継ぐということだったし、欲深ではあるが無能という噂も聞かなかったからな。
ただ、そのせいで、こちらが自分に従うものだと勘違いしたらしい。
戦場では、騎士団の意向が最優先されることを分かっていないようだ。クランゼルの法として、戦場では騎士団に従うべしと記されている。まあ、それでも、貴族を蔑ろにすることはできんが、意見を退けても許されることにはなっていた。
しかも、今回はギルドにも大きな権限が与えられているので、無条件で従う義務はないのである。貴族の無茶な功績稼ぎに付き合わされるのはごめんだというのが冒険者たちの総意であり、俺が反対の意見を述べにきていた。
納得いかんのは、なぜ俺かということだ。部隊長のフォールンドが口下手だからというのは分かっている。しかし、他にも高ランク冒険者はいるだろう? そりゃあ、貴族と接する回数は多い方なんだが……。
「こちらの存在がばれてしまっているのでは、遊撃隊は意味をなさないんじゃないですかね?」
「今度は倍の1000を送る! それで、襲ってきたアンデッドたちを返り討ちにすればいい!」
「その人員に、冒険者は出しませんよ?」
「なんだと! 冒険者なんぞいくらでも余っているだろうが!」
「余っておりませんよ。全員、何らかの仕事を割り振ってありますし、指揮権はあなた方にはありません。やるなら、ご自分の兵力から割り振ってください」
「だが――」
全く、こいつのどこが無能じゃないんだ? いや、無能ではなく、欲深すぎて周囲が見えていないだけか?
これならば、無能と言われるゼーノス様の方が余程有能ではないか。あの方は自分に能力がないことを理解して、無茶をせんからな。
それに、あの方には有能な指揮官に兵力を預けて派遣するくらいの、懐の深さがある。さすがに面と向かって無礼を働かれれば、王族の面子を守るために厳しく動かれるが、普段は鷹揚で実に付き合いやすい方なのだ。
ともかく、無駄な言い合いの末、なんとか言質はとった。冒険者たちが無茶な作戦に付き合わされて、無駄死にすることはなくなっただろう。
そう安心していると、背後で大きな喚声が上がったのが聞こえた。
よく見ると、後方に布陣していた貴族軍が、アンデッドに襲われているではないか。この光景、見たことがある。
ジャンがレイドス王国を駆逐したあの戦とそっくりだった。立場は逆だがな。
これはマズいぞ。ジャン並みの術者がいるのであれば、貴族の兵士を喰らってあの軍勢は膨れ上がるはずだ。
急いで救援に向かわねば――。
「ド、ドナドさん!」
「どうした!」
「砦から、敵軍が出てきました!」
「なにぃ!」
駆け寄ってきた部下の叫んだ通り、スワイス砦の門が開かれ、赤い鎧の騎士たちが溢れ出してくるのが見えた。
「くそ! あっちを押さえねば、まずい! 冒険者たちよ! 俺の周りに集まれぇぇ!」
レビューを2ついただきました。
そうなんです! 2期決定なんです。
まだ決まっただけなので、私もどこまでアニメ化されるかはわかっていませんが……。
きっと、石平監督をはじめとした制作陣の皆さまが素晴らしいものにしてくださると思います。
こちらこそ、これからも当作品をよろしくお願いいたします。
王道で硬派!
邪道って言われることは多いのですが、硬派と言っていただけることは珍しいですね。
嬉しいお言葉です。転生系の作品の中では、硬派な方に入るんですかねぇ?
素晴らしい分析とお褒めの言葉に、作者もニッコニコです!