1125 輸送任務最終日
フランズブートキャンプ5日目。
今日には目的地である前線陣地に到着する予定である。もう無理なランニングはしておらず、普通の護衛の風景だった。
一応、フランはまだ義勇兵たちを「ゴブリン以下ども!」と呼ぶし、義勇兵たちも全ての語尾にカレーを付けるという謎ルールを続けているけどね。
少なくとも、義勇兵からは悪意や敵意は一切消え、仕事に対する態度も真面目になってきていた。
出発前から騒ぎを起こすような素行不良者の面影は消え、ちょっと厳ついだけの真面目な兵士の姿がそこにはある。キビキビと動き、ハキハキと喋り、フランの命令には絶対服従。
自分勝手には動かないし、喧嘩騒ぎなども一切起こらなくなった。それどころか、互いに励まし、助け合ってすらいる。
俺から見ても、生まれ変わったかのように真面目になっていた。このままいけば、マレフィセントに捕まって、調教地獄に叩き込まれるようなことにはなるまい。
フランのランクアップは、どうなるか分からんけど。
ただ、色々あったこの輸送イベントは、何事もなく終わりとはいかないらしい。
(師匠。なんかくる)
『結構多いぞ。しかも……』
(邪気)
『ああ』
戦意を隠そうともしない大規模な集団が、こちらに接近しつつあった。一直線に向かってくることを考えるに、明らかにこの輸送部隊を目指している。
最初はレイドスの斥候かと思ったんだが、どうやら違うらしい。その集団からは、邪気が発せられていたのだ。
気配も人間ぽくないし、邪人の群だと思われた。しかも、かなり強い者もいる。ゴブリンやコボルト程度の雑魚ではないだろう。
『これは、逃げきれんだろうな』
(ん。迎え撃つ)
敵地、邪気、戦意。ここまで揃っていて、敵じゃないなんて展開はないだろう。フランは戦闘があるものと考えて、義勇兵たちに指示を飛ばし始めた。
「近づいてくる奴らがいる。馬車を守る!」
「「「はい! 隊長! カレー!」」」
こんな時にまで……。まあ、いいけど。それだけ真面目になったってことだろう。
「マレフィセント、ペルソナ。みんなが危険だったら援護して」
「まあ、緊急事態ですからね」
「……」
さすがに、こんな時まで雑用しかしないとは言い出さなかったか。これで、大概の相手はどうにかなるだろう。
ランクA相当のフランに、現役ランクAとランクBが加わるのだ。
先へは進まず、あえて遮蔽物の少ない平原で待ち受ける。すると、10分ほどで問題の集団が姿を見せる。
(アンデッド)
『ああ、中央のやつは、かなり強いぞ』
(ん)
現れたのは、20体ほどのアンデッドである。しかも、全てがジェノサイド・グールという最上位種であった。特に中央にいるグールは、放つ邪気が圧倒的だ。
漏れ出る邪気を前にしただけで、義勇兵たちが顔を青くするレベルである。
多分、脅威度Bは下らないだろう。邪気によって底上げされているとすれば、Aに届いているかもしれん。
こいつらだけで、小国が落とせるレベルの戦力だ。こんなところに、フラリと現れていい集団ではない。
黒骸兵団だとは思うが、邪気はどういうことだ? アンデッドを邪気で強化するような術を編み出したのだろうか?
その戦力で、ランクA冒険者を排除しにきたのかもしれない。
駆け寄ってくるアンデッドたちに対し、フランが声を張り上げた。
「そこで止まる! これ以上近寄れば、敵とみなす!」
無意味ではあるだろうが、敵の目的くらいは知っておきたい。そう考えて、一応声をかけただけなんだが……。
アンデッドたちの歩みがピタッと止まった。
え? これだけ敵意を見せていて?
しかし、こちらの警告を聞いて足を止めたわけではなかった。
『呪文を詠唱してるぞ!』
「遠距離攻撃開始!」
「「「カレー!」」」
結局、情報を得ることができぬまま、戦端が開かれてしまう。魔術や矢が飛び交い、時おり投げられた石なども混じる。
しかし、遠距離での攻防では、互いに決定打に欠けた。グールの最上位種なだけあって死毒魔術を連発してくるが、こちらはフランの治癒魔術があるし、マレフィセントの使う広範囲障壁が魔術をことごとく防いでいる。
ただ、向こうも邪気の障壁を展開しており、こちらの攻撃も当たらなかった。フランやペルソナの魔術なら届くが、威力が下がって決定打にはならないし、すぐに再生されてしまう。
数分間飛び道具を撃ち合い、双方脱落者はいなかった。
そうなれば、次は接近戦だ。
ジェノサイド・グールたちは遠距離攻撃を掻い潜り、ひと塊となってこちらに肉薄してきた。しかも、20体のグールが、1ヶ所に集中している。
『こいつら、フランを狙ってるぞ!』
「ん!」
指揮官だと看破されたってことか? それとも、回復役を先に排除しようということだろうか?
ただ、どちらの推測も違っていた。
「ギギギィ! 小娘! その神器をぉぉ、よこせぇぇぇぇ!」
「じんぎ?」
何だ? 神器? それを狙っている?
「神器だ! その神器は、我らにこそふさわしいぃ!」
今さらですけど、アニメの合間に流れているマイクロマガジン社様のCM、見ました?
飛ばしてしまう方も多いと思いますけど、是非1度見てください。
加隈さんの「まいくろまがじんしゃぁぁぁ!」がメッチャ可愛いんで。
2種類あるんですが、どっちも見なきゃ損するレベルです。




