1122 ゴブリン以下
フランに武器と殺気を向けた義勇兵たちへの制裁は、短時間で済んでいた。全員ワンパンで沈み、その後フランによって泣くまでボコボコにされたのだ。少し殴られた程度で反骨精神を失わなかったやつには、回復してからの再躾が行われている。
反撃もほとんどできずに10人の男が半殺しにされた様子は、義勇兵たちから逆らう意思を完全に奪ったようだった。今回は、手足を落として繋ぐ様子をしっかり見せつけたしね。
この隙に逃げ出そうとしたものもいたんだが、それはウルシによって阻止されている。
咥えて持ち上げられた男が凄まじい悲鳴を上げていたのを聞き、義勇兵たちの顔からさらに血の気が引いていた。
男から血は出ていなかったけど、歯が少し強めに背中を圧迫していたらしい。威圧感を与えるために大きな状態でいたんだけど、そのせいでちょっと力加減を間違えたようだ。
フランもウルシも力加減を少し失敗しただけなんだけど、義勇兵たちからは容赦がないととらえられたのだろう。しかも、その容赦のなさが自分に向けられるかもしれないとあっては、恐怖を抱かないわけにはいかない。
非常に大人しく、従順になっている。
ただ、フランに少しだけ変化があった。
(師匠)
『どうした?』
(このまま走らせても、また同じことになるかもしれない)
『あー、まあ、そうかもなぁ』
(ちゃんと、どうして走らせるか言う)
『おお! それはいいな!』
不満が爆発した義勇兵たちを見て、ただ走らせるだけじゃダメだと思ったようだ。義勇兵を走らせる意味を、しっかりと伝えることにしたらしい。
人に自分の考えをしっかり伝えようとするだなんて、成長したな!
俺が感動していると、フランが男たちを追い越して隊列の前に回った。後ろからの追い立ては、ウルシにチェンジだ。
「お前らは、言うことも聞かないし、臭いし、煩いし、物も盗むし、臭いし、頭も悪そう」
臭い2回言った? まあ、フランは鼻もいいし、大事だったんだろう。いきなり自分たちをディスり始めたフランに対し、義勇兵たちは何とも言えない表情を浮かべている。
「お前らをこのまま戦場に連れて行っても役に立たない。それどころか、邪魔。今のままじゃ、お前らはゴブリン並。違う。ゴブリンは魔石が取れるけど、お前らからは魔石も取れない。だったら、ゴブリン以下」
「……」
結構酷いこと言われてるよ? だが、義勇兵たちはフランに逆らうこともできず、そのまま走り続けていた。
「この訓練でせめて走ることをちゃんとできるようになれば、きっとゴブリン以下から、ゴブリン並にはなれる。だから頑張れ」
「……」
反論がどうとかいうよりも、どう反応していいのか分からないんだろう。とりあえず、自分たちへの評価が最低だということは分かったかな?
その後は、ちょっと哀れになるくらいフランによって追い込まれていた。ランニングに加え、フランからの「ゴブリン以下どもー! もっと頑張る! 頑張らなかったらゴブリン以下のまま!」「そんなんだからお前らはゴブリン以下! このままじゃ立派なゴブリンにはなれない!」みたいな感じで、罵声が飛ぶのだ。
フランからしたら義勇兵たちを発奮させるつもりなんだろうが、どちらかというと心が折れちゃってるだろう。まあ、当初の目的である、問題児どもの調教は進んでるかな?
結局、そのまま半日ほど黙々と走り続けた結果、義勇兵たちは疲労困憊で倒れ込むように野営地で座り込んでいた。
精神的な疲れもあって、誰も動き出そうとはしない。そんな義勇兵たちに対し、フランは昼間からは想像できないほど優しく接していた。
「ゴブリン以下ども。よく頑張った。まだまだゴブリン以下だけど、頑張ったご褒美にこれを食べていい。並ぶ!」
驚くほど従順になった義勇兵たちにフランが出してやったのは、なんとカレーであった。1人1人にカレーを手渡してやる。
フランなりに、義勇兵たちを労ってやっているのだろう。やや自作自演な感じもするけど、男たちの中にはフランに優しくされて涙を浮かべている者もいる。チョロい。まあ、これで明日も大人しく訓練を受け入れるだろう。
ただ、締めることも忘れない。
「夜逃げ出そうとしたら、ウルシがどこまでも追いかける」
「グル!」
「ウルシに食べられたくなければ、大人しく寝る」
「「「はい! 了解です隊長!」」」
「ん」
これで逃げ出すようなことはないだろう、その代わり、深夜の見張りは全員免除だ。フランとウルシが交代ですることにしたらしい。
カレーを貪るように平らげた義勇兵たちが死ぬように眠り始めた頃、マレフィセントたちが近づいてきた。
「やーやー。何か美味しそうなもの食べていましたね」
「ん。カレー。最強の食べ物」
「美味しそうですねぇ」
「……」
ペルソナがマレフィセントの言葉に合わせて、コクコクと頭を下げている。そんな少女を見て、フランが再びカレーを取り出した。
「食べる?」
「……」
ペルソナはカレーを受け取ろうとして、手を止めた。そして、マレフィセントを見上げる。仮面のせいで顔は見えないが、確実に懇願の表情をしていることだろう。
「いいですよ。でも、服を汚さないように」
「……」
ペルソナはコクコク頷くと、カレーを頭上に掲げるようにして走っていった。コケるなよー。
「いやあ、ありがとうございます」
「仲間外れは可哀そうだから」
「そうですか」
マレフィセントたちは、仮面を外すつもりはないらしい。そのために、口元だけは開いているんだろうしな。
仲良く並んで、食べ始めた。
「これは美味い! 最高ですね!」
「……」
ペルソナは何も言わないが、そのスプーンの速度を見れば、気に入ったことは間違いないだろう。
そうして食事が終わると、再びマレフィセントたちが近づいてくる。カレー皿を返却するためだけではないようだ。何やら、地図を持っているのだ。
「この後のルートのことで、少しご相談があります」
現在、ABEMAにて転剣のアニメが全話無料公開中です。
また、12/13日には、最終話となる12話が最速放送されます。
こちら、最後まで見て頂けたら嬉しいです。




