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1121 とりあえず走らせてみた


 十数秒の沈黙の後にゆっくりと顔を上げたフランを見て、義勇兵たちがビクリと震えた。


 怒っているように見えるフランが何をするのか、戦々恐々としているのだろう。そんな中、フランがまず行ったのは、馬車の収納であった。


 全ての馬を外し、荷台を仕舞い込む。馬に関しては全ての手綱をまとめて、マレフィセントに手渡した。


「馬乗っていいから、残りの馬を連れて行って」

「えー? 馬に乗る方が疲れるんですけど」

「……」


 マレフィセントとともに、ペルソナも頷く。だが、フランは無理やり手綱を押し付けた。


「雑用はやるって言った」

「これ、雑用ですか?」

「ん、雑用」

「はぁぁ。仕方ありませんねぇ」


 マレフィセントが渋々頷いたのを確認すると、フランは義勇兵たちに向き直る。


「お前たちを、このまま連れて行っても、向こうで迷惑になる」

「は? えーっと、どういうことだ――ですか?」

「煩いし言うこと聞かないしご飯盗むし歩くのも遅い。前線に連れて行っても、むしろみんなの邪魔なだけ」


 フランのストレートな言葉に、義勇兵たちが騒めく。しかし、大きく反発するような者はいなかった。喋っている内にこいつらへの怒りを思い出したのか、フランから不穏な気配が発せられていたのだ。


 そのせいで、下手な発言をしたら見せしめにされた者たちと同じ目に遭わされると思ったんだろう。悔し気にしつつも、黙ったままだ。


 重苦しい雰囲気の中、フランが義勇兵たちの前をゆっくり歩きながら、今後のことを語る。


「ここで捨てて行った方が、邪魔にならずにいいかもしれない」

「「「!」」」


 義勇兵たちの顔が引きつる、怒りのせいではない。恐怖のせいだ。ここで捨てていくという言葉が、邪魔者は斬り捨てて埋める的な意味合いにも聞こえるからだろう。


 フランの怒りの表情を見れば、勘違いするのも無理はないが。


「でも、そんなお前らでも、更生させれば役に立つかもしれない」

「こ、更生っすか?」

「ん。だから――走る」

「は?」

「まずは隊列を組んで、走る訓練。本当はここで全員叩きのめして言うこと聞かせようかとも思ったけど、それじゃ期限に間に合わないから。だから、走りながら訓練することにした。まずは、隊列を崩さずに走れるようになる訓練から」


 フランがそう言った直後、義勇兵たちが今までからは信じられないほど素早く、小競り合いもせずに隊列を組んだ。これまでのような歪な列ではなく、訓練された兵士のような、綺麗な隊列だ。


 やればできるんじゃないか。


「それじゃあ、隊列を崩さず、このまま同じ速度で走り続ける」

「し、質問良いでしょうか!」

「ん」

「い、いつまで走ればいいのでしょうか!」

「私がいいって言うまで」

「そ、それは結局、どういうことですか……?」


 男がさらに聞いてくるが、フランは顔をしかめるだけだ。なんせ、フランも思い付きで走らせようと思っただけで、どうしたら正解なのか分かってないからね。


 しかし、そのフランの困った顔も、義勇兵たちにとっては苛立っているように見えるのだ。すぐに文句を呑み込んで走り始める。


 ということで、フランズブートキャンプが始まったのであった。先頭は馬に乗ったマレフィセントたちで、その後ろを義勇兵たちが続き、最後尾からフランが目を光らせる。


 そのせいで、最初は真面目に走っていたんだが……。さすがに能力が高くとも、長時間走っていれば疲れてくる。


 そもそも、体力にも差があるしね。あまり強くない奴らが段々と隊列を乱し始めたのだ。


 だが、フランは脱落を許さない。スタミナヒールを飛ばし、延々と走らせた。ただ、体力が足らない者に対して、罵声を飛ばしたりはしない。


 フランが許さないのは、サボったり、適当にやる者たちである。そんな者たちが隊列を少しでも乱せば、容赦なく魔術が飛んだ。


 まあ、直撃させるのではなくて、掠らせることで少しずれたぞと教えるのが目的なのだが。


 ただ、元々がギルドでさえ扱いかねる問題児たち。フランが魔術を直接当てる気がないのだと勘違いすると、舐めた態度を取り始めた。休憩するために遅く走ったり、あえて転んだりし始めたのだ。時間が経つにつれ、フランへの恐怖が薄らいできたんだろう。


 それでもフランが追い立てるだけでいると、一人の男が大声を上げた。


「隊長!」

「なに?」

「そろそろ腹が減ったんですけど! このままじゃ腹減って死んじまいまさぁ!」


 ニヤニヤしながら、そう告げてくる。下手に出ていりゃ、フランが怒らないとでも思ったのかね? だが、フランはその言葉を一刀両断した。


「ちゃんと走れるようになるまで、ご飯はなし」

「は?」

「今のでまた走る距離延びた」


 奴隷だったフランにとって、空腹っていうのは単純な暴力よりもよほど辛いことだ。つまり、義勇兵を追い込もうと考えるフランが、食事抜きを考えるのは当然のことだった。


「ふ、ふざけんじゃねぇ!」

「ふざけてない」

「うるせぇ! もう付き合ってられっか! おい! お前ら! このままこのクソガキの茶番に付き合い続ける気か! こいつぶち殺すぞ!」

「……お、おう!」

「やってやらぁ!」


 男の声に反応し、10人ほどが隊列から歩み出てくる。全員、我慢の限界だったらしい。たかが3時間程度のランニングで情けないやつらだ。


 いや、地球だったらフルマラソン並の時間だけどさ。フランが回復してやってたんだから、そこまで疲れていないはずなのである。


 他の者も様子見をしており、男たちを制止することはなかった。あわよくばフランが排除されやしないかと、密かに期待しているんだろう。


 フランはそんな雰囲気を敏感に察知し、ここでしっかりと上下関係を叩き込み直すことにしたらしい。ここで全部の膿を出してしまうのは、いいことだろう。


 コキリと拳を鳴らしつつ、前に出た。


「少し躾をしてやる」


 早く戦場へと向かいたいのにその邪魔をする義勇兵に対し、かなりご立腹であるようだ。また力加減を間違えないようにな!


 とりあえず、義勇兵たちが心を折られ、従順になるのはもう決まったようなものだろう。あと、この後ブートキャンプが恐ろしく苛烈なものになることも確定だな。


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― 新着の感想 ―
[一言] いや、まあ適当だからクソガキの思い付きなのは間違ってないんだが まああのまんま放置するよりは明らかにマシだよね。 やっちゃってください姉貴!
[一言] フランって普段口数少ないのにたまーに急に語彙力上がるよね。
[一言] こんなブートキャンプなら痩せれそう
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