1119 部隊長フラン
自己紹介が終わると、マレフィセントが広場にいる義勇兵たちへと声をかけた。
「はいはい! 皆さん! こちらへと集まってください! この隊を率いる隊長さんを紹介しますからねー」
一応ランクA冒険者だとわかっているのか、広場にいた義勇兵たちが次第に集まり出す。だが、その様子はまさにダラダラと言った感じで、非常にゆっくりであった。
それなのに、マレフィセントたちは彼らをニコニコと見つめているだけだ。
「ああ、私は基本案内役としてしか雇われていないので、これから先は黒雷姫殿が隊長として指示を出してくださいね? ペルソナも同様です」
「案内だけ?」
ランクA冒険者がいるのに、フランの方が上の扱いになるのだろうか?
「僕はですね、英雄が好きなんですよ。英雄の物語を集めて、英雄と話をして、英雄の活躍をこの目で見たいんです。そして、この大陸で今最も熱く新しい英雄と言えば、黒猫族の救世主にして冒険者の黒雷姫殿! そりゃあ、その人の下で働けるんなら、義勇兵の道案内みたいなダルい依頼も受けちゃいますよね!」
「……つまり、どういうこと?」
「私たちはあなたのファンなので、近くで観察したいと思います! でも、観察に忙しいので、戦闘などはやりません! まあ、多少の雑用くらいなら構いませんよ?」
つまり、フランとお近づきになりたくて、案内役を引き受けたってことらしい。おいおい、それはただのファン心理だけなのか? そこに「フランちゃん可愛い! ペロペロしたい!」って不純な気持ちはないんだろうな?
少しでも変な素振り見せたら、その尻に俺の切っ先がぶっ刺さるからなぁ!
(師匠?)
『……とりあえず、フランが隊長でいいですって言ってる』
「わかった。私が隊長」
「よ! フラン隊長!」
「……」
軽薄なマレフィセントと、無言でパチパチと拍手をするペルソナ。こいつら、本当に大丈夫なのか?
ようやく集まってきた冒険者たちに、マレフィセントが説明をする。
「はーい。この方が、隊長のフラン殿です。拍手ー」
疎らに拍手は起きるが、大抵の者はフランを値踏みするように睨んでいる。敵意とまではいかないが、フランを認めているというわけではなさそうだ。
「では、後はよろしくお願いしますね?」
「ん。私はランクB冒険者のフラン。この輸送隊の隊長」
「おいおい、ランクB? あの小娘がぁ?」
「噂に聞いたことあるぜ?」
「ガキが隊長かよ!」
騒めき出す冒険者たちの囁きに、好意的なものはほとんどない。驚きや嫉妬、侮り。どう考えても、今後大変そうなんだが……。
とは言え、いきなり暴れ出したりする者はいなかった。一応、ランクB冒険者相手だからだろう。それに、義勇兵として参加するためには、ここで騒ぎを起こすことはまずい。それくらいのことは、さすがに理解しているようだ。
結果、反発心と我慢がせめぎ合い、とりあえずお手並み拝見的な態度になったらしい。あとは、フランの後ろで睨みを利かせるウルシの影響もあるだろう。
最初が肝心だとばかりに、怖い顔で冒険者たちを見下ろしていた。少し大きめのサイズなので、迫力満点なのだ。
『さて、ここからどうするかだな』
すでに、物資は用意されている。馬車で6台分だ。収納して運ぶと提案したんだが、クリムトからは義勇兵に護衛と輸送の訓練を積ませたいと言われていた。
この義勇兵たちは実力はあるものの、素行の悪さや、恨みからくる独断専行の恐れなど、様々な理由で普通の部隊には組み込めないと判断された者たちであるらしい。
レイドスへの復讐心を抱えた者たちはともかく、素行不良冒険者は何故戦争に志願したりするのか? それは、素行不良が故であった。
冒険者ギルドは戦争への参加を強制しないが、国からの参加呼びかけを依頼として仲介することはある。結果、戦争に参加して報酬やギルドの貢献度を得ようと考える者が出てくるのだ。
普段は真っ当な依頼を受けられないほどに評判が悪い者たちでも、志願兵にはなれるらしい。国からすれば、選り好みをしている余裕などないからだ。
また、敵国内での略奪を目論む者もいた。軍令違反だが、指揮官によっては見逃してもらえるのだろう。
そんな輩を普通の部隊に入れても足並みを崩すことは確実だし、かといって戦闘力はそれなりにあるから遊ばせておくのも勿体ない。
結果、少数での物資輸送などの任務が与えられる予定だった。ただ、戦闘力特化の問題児たちが、地味な輸送任務など真面目にこなすことが可能なのか?
素行が悪いと言うと、以前一緒にダンジョンに潜ったクラッドたちが思い出されるが、あいつは態度が悪いだけで任務はそこそこまじめだった。今回の部隊のやつらは、もっと悪いのだろう。もっと言っちゃえば、単純にクズなのだ。
ペルソナと結構距離があるので試しに特にヤバそうなのを鑑定してみたんだが、可能だった。すると、恫喝とか窃盗とか詐欺とか、犯罪者系のスキルや称号がわんさか出てきたではないか。
当然だが、ギルドや国はそんな奴らの行動を不安に思ったのだろう。事前に輸送任務をやらせてみることにした。
それが今回の任務だ。マレフィセントは、冒険者たちの見極め役なのだろう。
任務中の態度や、どこまで真面目なのかという部分を見るに違いない。要は、今後任務を割り振るに足る信頼性があるかどうかを知りたいのだ。
また、敵に襲われたら殲滅していいという許しも出ている。ある意味、敵の伏兵の炙り出しも兼ねているようだった。
ここまで内情を告げられたということは、フランも監視側だよね? 素行不良扱いではないはずだ。
俺たちは御者経験のあるものに馬車を任せ、他の者たちは8、9人ほどに分けてそれぞれの馬車の護衛を命じた。
数人が御者をやらせろと言い出したせいで出発が少し遅れたが、無視して出発すると不満げに歩き出す。やはり、任務途中放棄扱いは困るらしい。
行軍速度も非常に遅かった。魔獣が出るたびに、冒険者たちが倒しに行ってしまうからだ。雑魚魔獣は放っておけと告げても、物資を守るためだと嘯いていうことを聞かない。明らかに小銭稼ぎのためであった。
100人以下じゃ、進軍の戦乙女の効果も発動しないしな。
結局、初日は予定の6割ほどしか進むことができず、野営に入ることとなってしまう。蜘蛛の巣ダンジョンへ向かう道中の、クルスの苦労が理解できたね。
しかも、野営も静かには行えない。食事を盗っただの、見張りの順番が気に食わないだの、早く出発させろだの、小娘に指図されたくないだのと、とにかく騒ぎを起こすのだ。
フランに楯突いてきたやつは拳で強制就寝させたが、フランは一日ずっとイライラしっぱなしだった。
『フラン。大丈夫か?』
(あいつら、なんであんなうるさい?)
『まあ、どいつもこいつも、人に従うようなタイプじゃないしなぁ』
マレフィセントは何も言わずに静かに座っているだけだが、このままだと半分以上は失格扱いになるのではなかろうか?
というか、フランがブチギレて部隊の人数が少し減っちゃわないかが心配である。俺が気を付けておかないと。
DVD、Blu-rayの特典が発表されましたね。
1~3巻まで同時予約しないともらえない特典などもあるようなので、お気を付けください。




