1116 輸送依頼
数日は、瓦礫の除去をしたり、怪我人の救護をしたり、引き渡した捕虜の尋問に立ち会ったりと、かなり忙しかった。捕虜たち――というか、兵士長はクリムトと意気投合してしまっている。
苦労人同士、波長が合ったんだろう。兵士長が他の捕虜を説得し、尋問は非常にスムーズだった。
あと、手持ちの物資をギルドに売ったりもしたね。アイテム袋や、敵から奪った武具などである。
一番高かったのはアイテム袋だろう。残念ながら、ハイドマンたちが所持していたアイテム袋は、こじ開けたせいで壊れてしまった。元々、敵に再利用されないように、無理に開かれた際にはただの袋に戻るように仕掛けが施されていたのだろう。
前から溜め込んでいたアイテム袋は、全部で200万ゴルドほどになった。ハイドマンの袋が生きてれば300万に届いたかもしれないのになぁ。残念だ。次は、もっと慎重に開くとしよう。
フランは本当はすぐにでも戦場に向かいたかったのだろうが、アレッサを放置はできない。ハイドマンが再び現れる恐れもあるからね。
ただ、クリムトの精霊を使った警戒網が機能し始めた今、ハイドマンが再びアレッサに侵入することは難しいだろう。
心配事が片付いたとなれば、そろそろ出発したいと思い始めるのは当然だ。ただ、フランが出発を決める前に、クリムトから呼び出される。
「輸送任務の責任者?」
「ええ。国境への物資輸送と、各地から集まってきた志願兵、義勇兵の移動の責任者です」
義勇兵たちは物資の護衛も兼任し、戦地についたらそこで各部隊に組み込まれる予定であるらしい。フラン自身は義勇兵の扱いではなく、ギルドから派遣された部隊の取りまとめ役のような形になるそうだ。
「……いいの?」
フランが首を傾げながら、クリムトに尋ねている。この依頼を頼まれたことが、本当に不思議なのだろう。
クリムトが、子供を前線に出すのを嫌がる人間なのは分かっている。今回依頼があると言われた時も、戦場から引き離すような内容の依頼だと思っていたのだ。
それが、戦地へと向かえと言う依頼だったのである。俺もフランも、クリムトの言葉に驚いていた。
フランの反応を見たクリムトは、苦笑いをしている。
「不本意ですよ? 不本意なのですが……。放っておいたら、そのままレイドス王国へと突撃してしまいそうですからね。だったら、こちらの依頼を受けてもらって、見える場所にいてもらおうということです」
「なるほど」
なるほどじゃないから! やらかしそうだから、見張っておくって言ってるから!
あとは、この依頼には裏があることも、何となく推測できる。
義勇兵と大量の物資だなんて、少し移動するだけでも相当時間がかかるだろう。つまり、クリムトはフランが戦場に到着するのを、少しでも遅らせようとしているのだ。
まあ、クリムトの気持ちも分かるし、有難いけどさ。
多分、俺は自分でも分かってないところで、殺しだけではなく、戦闘や戦場に対してのハードルが下がっている。
剣になる際に、神様に弄られた部分でもあるんだろう。地球の常識をフランに押し付けないと決意はしていても、子供であるフランが戦場に出ることに対する忌避感すら薄いのは、自分でも変なことだと分かるのだ。
そこまで考えても、やはりフランを戦場から引き離そうという気にはならなかった。だからこそ、クリムトのようなフランを子供として見てくれる大人がいるのは、有難い。
『フラン。この依頼受けよう』
(受けた方がいい?)
『ああ、俺はそう思う』
一刻も早く戦場に向かいたいフランは、受けるかどうか迷っていたらしい。
「わかった。依頼受ける」
「ほっ。そうですか。それは良かった。では、義勇兵は数日後に到着する予定ですので、それまではアレッサで待機をお願いします」
「まだアレッサに着いてない?」
「ええ。そうですが、何か?」
「……何でもない」
おっと、これはやられたな。義勇兵がまだ到着していなかったとは。まあ、俺は分かってたけどさ。
『フラン。焦る気持ちは分かるけど、落ち着け。この依頼は、結構重要だぞ?』
(そうなの?)
『ああ。義勇兵もそうだけど、やはり物資は絶対に必要だ。フラン、もし戦場でお腹が減ったらどうする?』
(食べ物出して、食べる)
『収納にも、陣地にも食べるものがなかったら? ずっとお腹が減りっぱなしだぞ? それで戦えるか?』
(戦えない! ご飯は大事!)
『だろ? だから、この物資は重要なんだ。ある意味、戦力以上にな』
(分かった! ご飯をみんなに届ける)
フランのやる気スイッチが入ったね。自分の身に置き換えて、物資の大事さが理解できたのだろう。
キリッとした目で、クリムトを見返す。
「な、何ですか? 今更受けないとか、なしですよ? い、言いませんよね?」
「この依頼、絶対にやり遂げてみせる」
「は、はあ。何故かやる気が出たのでしたら、こちらも嬉しいです。では、受けてくれるのですね?」
「ん!」
クリムトからの依頼を受けたフランは、待つ時間を利用してアレッサの周辺で狩りに勤しんだ。いざという時のために、食料を少しでも確保しておこうと考えたらしい。
狩猟系の依頼を受けて、片っ端から処理していった。肉の半分は自分で受け取り、半分はギルドに売却する。
「フランちゃん。ありがとう! おかげで、かなりの食肉が確保できたわ!」
「ご飯足りてる?」
「ええ。大丈夫よ!」
わずか半日で大量の魔獣肉をもたらしたフランに、ネルさんが大喜びである。味はそこそこでも、大きめの魔獣を狙って狩ったからね。
ゾウに似た魔獣や、カバに似た魔獣など、少々臭みがあって硬い肉は、冒険者総出で解体してくれた。干し肉にすれば、相当な量になるだろう。
クランゼル王国に戻ってきてから、相当な量の食料を提供してるんじゃないか?
「ネル、依頼の事聞いてる?」
「物資の輸送の事? ええ、少しはね。道なんかは詳しい人を用意するから、大丈夫よ」
「道に詳しい人? レイドスの道、知ってる人いるの?」
「国境付近は、今はレイドスだけど元々は違う国だった場所だから」
現在、クランゼルとレイドスの間に、国はない。ああ、フィリアースがあるか。ただ、それだけだ。
しかし、50~200年ほど前まではいくつかの小国があり、両国の緩衝地帯のようになっていたらしい。今はどちらかの国に吸収されてしまっているが、その国出身の者が少なからずいた。
ギルドに所属する冒険者で、滅んだ国の出身者を道案内で付けてくれるらしい。
「どんな人?」
「悪人じゃないかな? まあ、高ランクの冒険者だから、色々とアレだけど」
高ランク冒険者かー。じゃあ、変人だな。フラン以外のやつらなんて、全員変人だったもんなー。
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